この作品は最近原作でリョウ虹がダメな方向性に共依存してるなーって思い、それが原作内でエスカレートしているのでこれ以上酷くなるとどうなるだろうと思った結果のSSです。
改めて読み直すと序盤は若干虹夏イジメみたいになっしまい、そういったのが苦手な方は回れ右でお願いします。見ようによってはリョウ虹批判でもあるかも。
8割ぼヨヨですが、最終的には作品の根幹であるぼ虹に還ります。百合ではないです、一応。
味付け程度ですが最新刊ネタも入っています。


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ぼっち移籍大騒動

ぼっちside

 

 結束バンドを組んではや二年。私と喜多ちゃんは高校三年生になり、虹夏ちゃんは大学生、リョウ先輩はニー……もといフリーターになった。

 三年生になってより受験勉強に力を入れることになった喜多ちゃんは放課後のギター練習にも顔を出せなくなり、バイトやスタジオでの練習頻度も下がり、以前は休みの日には私をちょいちょい遊びに誘ってくれていたけど落ちた成績の回復と受験勉強で三年生になってからは一度も遊べないまま、もう一学期も終わろうとしてる。

 私は進学しないから生活スタイルも変わらないし、喜多ちゃんの邪魔をしたくないからそれは仕方ないんだけどやっぱり寂しくて、虹夏ちゃんに何度か声をかけているんだけど……。

 

「ごめんねぼっちちゃん、明日はバイトに欠員が出てリョウだけになっちゃって、入らないといけないから遊べないんだ」

「あ、そ、そうですか……。じゃあまたの機会に……」

 

「ぼっちちゃんごめん、次の日曜日はリョウの家族にお世話になってるからってお呼ばれされてて……」

「あ、い、いえ仕方ないですよ。リョウ先輩のご家族もお礼したいでしょうし……」

 

「あーごめんぼっちちゃん……、今日はお姉ちゃんが二日酔いで辛そうだから家を離れられなくて……、こらリョウ! 勝手に冷蔵庫開けてジュース飲むな!」

「あ、リョウ先輩いるんですね……。店長さんも辛いでしょうから気にしないでください。店長さんにお大事にと伝えておいてください……」

 

 こんな感じで間が悪いことが多くて中々遊べなかった。なんか大体リョウ先輩がいた気がする。

 でも明日は虹夏ちゃんと遊ぶ約束してるから大丈夫! うへへ、明日は虹夏ちゃんに喜んで貰えるようにしっかりスケジュールも立ててるし、折角だからずいぶん前に虹夏ちゃんと喜多ちゃんが家に遊びに来てくれた時にお願いされて着たお母さんの趣味の服も着て行っちゃおうかな……。あの時二人とも似合うってすっごく褒めてくれたし、なっ、なんだったらあの時虹夏ちゃん前髪上げた方が良いって言ってくれてたし髪型も少し変えようかな。ちょっと怖いけど、虹夏ちゃんが喜んでくれるかもしれないし……。

 明日が楽しみだな……。ん?スマホから着信音が……、虹夏ちゃんだ。どうしたんだろう?

 

「もしもしぼっちちゃん……? 虹夏だけど……」

「あ、はい。どうしたんですか?」

「明日さ、遊ぶ約束してたじゃん?」

「あ、はい! 明日はですね、虹夏ちゃんに喜んでもらえるように色々考えてて、ちょっと怖いけどお洒落しようかなって思ってて……」

「ご、ごめん!」

「え……?」

「明日リョウの両親が久しぶりにお泊りデートに行くらしくて、リョウがどうしても家に来て欲しいらしくて……。私も放っておけないから明日遊びに行けなくなっちゃって……」

「えっ……、あっ……」

 

 ど、どうして? 私のほうが先に約束してたのに?

 でも仕方ないのかな……。リョウ先輩は虹夏ちゃんの「特別」な友達だし……。私なんかとの約束よりも優先されちゃうよね……。

 

「……いえ、気にしないでください。リョウ先輩も困ってるでしょうから行ってあげてください」

「本当にごめん! 必ず埋め合わせはするから!」

「あっ、大丈夫ですから……、じゃあまた練習で……うっ、ぐすっ」

「えっ、あっ、ちょっ、ぼっちちゃ」

 

 電話を切った。

 最後堪えきれなくて少し泣いてたの聞こえちゃったかな……。私の泣き声なんて聞いちゃって不快になってないかな?

 で、でもやっぱり私なんかよりリョウ先輩は特別なんだな……。そりゃそうだよね……、リョウ先輩は子供の頃からずっと傍にいる幼馴染だし、それに普通の親友と呼べる間柄よりも親密に見える。

 それに引き換え私はたまたまあの日虹夏ちゃんがギターが出来る人間が必要だからと拾われた野良犬同然の存在。サポートギターが終わったあとも傍に置いてくれたのは虹夏ちゃんの優しさなんだからこれ以上望んだらバチが当たるよ……。

 

「うっ、ひっく、ひっくっ……!」

 

 でもやっぱり悲しい……!

 なんで私はいつもひとりぼっちなんだろう……。リョウ先輩が羨ましい。一人が好きとか言ってるのに昔からいつも傍に虹夏ちゃんがいて……。私は一人は嫌なのに誰も傍にいてくれない……。

 ダメだ、今日は特に涙が止まらないや……。今はちょうど家に誰もいないから思いっきり泣いちゃおうかな……。

 

「……ん?」

 

 スマホからまた着信音が……? 一日に二回も鳴るなんて珍しいな、誰だろう?

 

「…………大槻さん?」

 

 

 

 

 

虹夏side

 

「最後泣いてたよね……」

 

 あー本当に悪いことしちゃったなぁ。

 でもリョウを一人にしておいたら絶対家の中めちゃくちゃにしちゃうしなぁ。次の練習の時にコーラでも買ってあげるか。

 

「……おい虹夏」

「ん? お姉ちゃんどうしたの?」

「今の電話さ……」

 

 電話? あぁ、料理中でスピーカーにしてたから聞こえてたのか。

 

「お前酷すぎないか? 絶対ぼっちちゃん傷ついてるぞ」

「あ、いやー。でもほら、リョウを放っておくわけには……」

「放っとけよ」

「え?」

「あのさぁ、前々から思ってたけどお前らの距離感おかしいぞ。学校でも家でもあいつの面倒見て、挙句両親が出かけるから面倒を見に行く? もう高校卒業した18歳だぞ」

「いや、でも……」

「口では愚痴言いながら喜々としてやってるし、お前ら学校で浮いてたらしいけどバンド活動よりそういうところで周りから距離置かれてたんじゃないか?」

「そんなことは……」

 

 無い……筈……。

 それに今更そんなこと言われても……。

 

「バンド内恋愛は解散の原因になることが多いって言うけどさ、そのうち取り返しのつかないことになるぞ」

「別に私とリョウ付き合ってないんだけど!?」

「むしろ友達な分タチが悪いんだよ。ま、ちゃんと考えるこったな」

 

 そう言ってお姉ちゃんは部屋の中に戻っていった。

 なにあれ!? 意味分かんない! 私とリョウは恋人じゃないし、そもそもそんな趣味ないし!

 そりゃ先に約束してたのにリョウを優先しちゃったのは悪いけどさ、あんなのお姉ちゃんがぼっちちゃんの事大好きだからあんな言い方したに決まってるよ!

 大体これくらいで揺らぐほど結束バンドの絆は緩くないもんね!!

 

 

 

 

そう思っていたのが一か月前。

夏休みに突入して久しぶりに喜多ちゃんの都合が合ったからSTARRYで練習しようって話になったんだけど……。

 

「伊地知先輩、リョウ先輩! これはどういうことですか!!」

「なっ、なになにどうしたの喜多ちゃん!? 落ち着いて!」

「どうしたの郁代」

「うるせえぞ喜多」

 

 開口一番、喜多ちゃんが怒号と共にSTARRYに入ってきた。

 ずいぶん怒ってるけどただ事じゃないなこれは。

 

「どうしたもこうしたもないですよ! これ見てください!」

「ん、んー? えっ!?」

「えっ、なにこれ……」

 

 喜多ちゃんがスマホの画面を私とリョウに見せてきたページにはSIDEROSのSNSに掲載されたSIDEROSのメンバーと一緒に写真に写ってるぼっちちゃんと

 

『こんにちは、ふーかです~。結束バンドのぼっちさんがSIDEROSに電撃移籍しました~。これからよろしくお願いしま~す』

 

 という書き込みがされていた。

 い、いやちょっと待って。そんな馬鹿な……。

 

「私が受験勉強に追われている間に何があったんですか!? いやむしろ何してたんですか!? 納得のいく説明をしてください!!」

「ちょっ、ちょっと待ってよ喜多ちゃん! 私だって何が何だか……!」

「あーあ、だから言ったろ……」

「お姉ちゃん?」

「どういうことですか!? 何か知ってるんですか!?」

「何かあったの?」

「いや実はな……」

 

 お姉ちゃんは一か月前の出来事を話した。

 

「なんですかそれ! 絶対にそれじゃないですか!」

「虹夏、私そんな話聞いてないんだけど」

「それが原因なの……? 私とリョウがいつも一緒にいるなんて今更じゃない……?」

「限度があるでしょう!?」

「私も虹夏に依存しちゃってる自覚はあるし虹夏だけが悪いとは言わないけど、私だってぼっちのこと大切に想ってる。ぼっちとの約束よりも優先してほしいなんて流石に言わないよ」

「うっ、うう……」

 

 たっ、確かに大学に入ってからというものリョウと一緒にいる時間が減った分それを無意識に取り戻すかの様にリョウとの時間を作ってる気がする……。

 思えば中学時代はバンド活動も別々で宿題やノート写させたりとか学校生活くらいしか面倒見てなかったし、結束バンド組んだ時だって最初の夏休みの間全く会わなくても問題なかったのにいつの間にか学校生活どころかリョウの服の洗濯やアイロン掛け、果ては部屋の掃除まで……。

 だ、ダメだダメだ! こんなの友人関係として不健全すぎる!! お姉ちゃんが言ってたのはこれか! 何がリョウは野良は野良でも野良ペルシャだ! 馬鹿か私は!

 

「取り敢えずぼっちちゃんに会って土下座したいから今すぐFOLTに行こう! 移籍したのならそこにいるはず!!」

「あ、ちょっと待てお前ら。これよく読んでみろ」

 

 お姉ちゃんがさっきのSNSのページをもう一度見せてきた。

 ん? これ電撃移籍の文のせいでパニックになってちゃんと見てなかったけど続きがあるな。なになに?

 

『なんちゃって~。今日はヨヨコ先輩がぼっちさんを連れてきてくれたのでセッションしてました~。ぼっちさんギターすっごく上手で同じリードギターとして憧れちゃいます~。またセッションできたら嬉しいな~』

 

「お、おお……」

 

おおおおおおおおおお~~~~……、良かっっっった~~~~~~……!!

 そ、そうだよね! ぼっちちゃんが結束バンドを辞めたりするわけないよね!

 

「じゃあひとりちゃんがまだ来てないのは辞めたからじゃなくて……」

「確かにまだ集合時間までまだもう少し時間がある。まだ来てないだけか」

「良かった……。本当に……」

「でも酷いことには変わりないですからね! リョウ先輩ももう少し自立してください!」

「うん、本当にごめん。しっかり自分を見つめ直すよ……」

「善処する」

 

 喜多ちゃんの言うとおりだ。ぼっちちゃんはただでさえひとりぼっちの時間が長くて寂しい思いをしてきたのに、それを私が感じさせちゃうなんて最悪だ。夏休みに江ノ島に行ったのもそもそも私が喜多ちゃんがぼっちちゃんを誘ってるかどうか関係なく遊びに誘ってればセミのお墓作るほど病んだりしなかったのにまた同じことしてるじゃん私! 少しは成長しろ!

 

「おっ、おはようございます!」

 

 自己嫌悪に陥っている間にぼっちちゃんが来た! さあ土下座だ! ぼっちちゃんが今まで見せてきた土下座よりももっと見事な土下座で詫びてみせる!

 そう意気込んで入ってきたSTARRYの出入り口に視線を移すとそこには、

 

「か、可愛い……」

 

 桃色の天使がいた。

 そんな色々おしゃれにしてる訳じゃないけど、白のワンピースにブラウス、髪型は前髪をピンで分けて後ろはポニーテールにしてる。

 なんだこの生き物は……。声はぼっちちゃんなのにあの年中ピンクジャージの生き物とは全然別物だ。心なしか肌も20代半ばのPAさんと互角だったのに10代特有の透明感のある肌になっている。え、ていうか少しだけどメイクもしてる。

 

「最高よひとりちゃん! こっち向いて!」

「見事な金の生る木……」

「はぁはぁ……」

 

 喜多ちゃんは目をハートマークにしてスマホを向けてるし、リョウは目が金になってるし、普段はこっそり盗撮してるお姉ちゃんも理性を失ったのか様々な角度で気持ち悪い息遣いをしながら堂々と写真を撮ってる。

 かくいう私もぼっちちゃんに謝ることも忘れて完全に見惚れていた。

 

「み、皆さん何なんですか!? 店長さんあんまり下から撮らないでください! 見苦しいものが写っちゃいます!」

「私は一向にかまわなゲフゥ!?」

 

 馬鹿なことをしているお姉ちゃんを見て正気に戻った私は床に這いつくばっているお姉ちゃんの頭を踏みつけてぼっちちゃんに近寄った。

 

「ぼっちちゃん、あの、この前のこと本当にごめんなさい……。謝って済む話じゃないのは分かってるけど、私……」

「あっ、きっ、気にしないでください……。実はあの後お友達が出来て遊んでたんです」

「友達が、出来た? え? あの後に?」

 

 どういうこと? あの後って、確かにあの電話してる時は昼過ぎくらいだったけどそこから友達ができるってどういう状況だ?

 

「もしかしてその服装は友達の影響で……?」

「あっ、はい。最初は前の格好で会ってたんですけど、会うたび可愛い服装が似合うだろうから勿体無いって言ってくれて、じ、自分のことは信じられないんですけど、そこまであの人が言ってくれるならその言葉は信じてみようかなって……」

「そ、そっか……」

 

 なんか物凄く複雑だ。

 可愛いぼっちちゃんが見れたのは眼福だけど、私たちだってぼっちちゃんは可愛いし、時折かっこいい部分もあると常々思っていた。

 でもぼっちちゃんは自分の容姿に自信がどうしても持てないし、ピンクジャージがトレードマークみたいなものだったから本人の好きにさせようと思って敢えて口出しは基本的にしてこなかった。

 でもそれを話を聞く限り高々1ヶ月の付き合いの人にこうも様変わりさせられて、2年もの付き合いがある私たちは一体何だったんだと思ってしまう。

 

「あっ、それで、夏休みが始まってからはいつも一緒に遊んでて、今日も練習が終わったら遊びに行く予定で、今日この格好なのもその人が喜んでくれるかなって……」

「そうなんだ……」

 

 自主的にぼっちちゃんがその人のためにお洒落してきたってことだよねこれ……。

 ……なんかすごく嫌だ。ぼっちちゃんを傷つけた私にこんな事を思う資格がないのは重々承知だけど、私が最初に見つけたヒーローなのに、私がぼっちちゃんの初めての友達なのに!

 

「ね、ねえぼっちちゃん! 明日遊ぼうよ! この前の埋め合わせもしたいからさ、どうかな?」

「あっ、ごめんなさい……。明日も遊ぶ予定があって、というか今日は家に来てもらって泊まってもらう予定なんです……」

「えっ……」

 

 まさかあのぼっちちゃんにお誘いを断られたのも衝撃だけど、お泊り!? しかも1ヶ月そこらの付き合いの人にあのぼっちちゃんがパーソナルスペースに迎え入れるの!? 私だってぼっちちゃんの家にお泊りまではしたことないのに!

 あまりの衝撃に言葉が出てこずに口をパクパクしていた私を不思議そうにみていたぼっちちゃんだったけどギターを取り出して

 

「あ、あの、練習しませんか? 今日久しぶりの集まっての練習だからすごく楽しみにしてたんです」

「あ、ああうん、そうだね。時間も勿体無いし早く始めようか。ほら二人とも行くよ」

 

 リョウと喜多ちゃんにも声を掛けて準備を始める。喜多ちゃんは「私だってひとりちゃんのおうちに泊まるのに一年近く掛かったのに……。というかこれはもしかして男……? 何か見えない大きな力が働いてると思ってたけどやっぱりそんなことは無かったの……?」となにやらブツブツ呟いていたが喜多ちゃんの頭をドラム代わりに何回か叩いて正気に戻した。

 

 

 

 

 

「いやー久しぶりに全員揃ってのバン練だったけど腕が落ちてなくて良かったよー」

「うん、特に郁代は受験勉強が忙しいだろうから心配してたけど杞憂だったね」

「練習時間はあまり取れてないですけどギターに触ってない訳ではないので。それでもちょっと不安でしたけど」

「うんうん、これなら活動が本格的に再開しても問題ないかな? あとぼっちちゃんさ……」

「あ、はい」

「なんか音合わせるの上手くなったね。少しずつ良くなってるのは分かってたけど今回の練習は特に良かったよ」

「あ、多分FOLTのSIDEROSやSICKHACKの皆さんと練習してたからだと思います」

 

 ……何だって?

 そうだ、そういえばさっきのSNSの記事のことすっかり忘れてたけど、ぼっちちゃんSIDEROSの人達とセッションしてたんだよね。

 ぼっちちゃんと友達になれそうな波長の合う人で、SIDEROS……。もしかして……。

 

「ねえぼっちちゃん。もしかしてぼっちちゃんの友達って……」

「あ、ちょっと待ってください」

 

 ぼっちちゃんが着信音の鳴りだしたスマホを取り出して画面を見た時、私たちが見たことのない、とても嬉しそうな慈しむような笑顔をしていた。

 

「もしもし? うん、もう終わったよ。そっちは?」

 

 た、タメ語!? 私やリョウはともかく同い年の喜多ちゃん、後輩の大山さんたちでさえ敬語のぼっちちゃんがタメ語を使ってる!

 

「え? 下北沢駅まで来てくれてるの? 待っててくれたら私が渋谷まで行くのに。うん、うん、ありがとう。そっちに向かうね」

 

「ヨヨコ」

 

!!!????

 や、やっぱり大槻さん!! て、ていうか今呼び捨てに……!?

 

「あ……あ……、ひ、ひとりちゃ……今の……」

「ご、ごめんなさい皆さん。もうちょっとゆっくりお、お話したかったんですけどもう迎えに来てくれたみたいなので失礼します!」

 

 そう言ってぼっちちゃんは早足でSTARRYを出て行った。

あまりの衝撃に私も二人も身動きが取れず棒立ちで固まっていた時に、

 

「こりゃ移籍カウントダウン入ってるな」

 

というお姉ちゃんの無情な言葉が耳に入ったと同時に、私たちは崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

ぼっちside

 

STARRYを出た私は全力で、走ったらすぐに体力が底を尽きるので小走りで下北沢駅まで走っていた。

人生で初めての「親友」って言わせてもらっていいかもしれない人の待つ場所まで。

 

「ヨヨコ、おまたせ」

「言うほど待ってないわよ。この暑い中ギターまで抱えてるんだから走ってこなくても良かったのに」

「へへへ、ヨヨコに早く会いたかったから」

「ふ、ふん! そんなこと言われても嬉しくとも何ともないんだからね! それにしても……」

「あ……、変かな? この格好?」

「そんな事ないわよ。良く似合ってる。結束バンドの連中も褒めてくれたんじゃない?」

「う、うん。なんか変なリアクションだったけど」

「あら、あんたが変っていうことは相当変なリアクションだったのね」

「ひ、ひどいよヨヨコ~」

「ふふん。じゃあ早く行くわよ。あんたの家まで2時間も掛かるんだから」

「あ、うん」

 

 私たちは改札口を抜けて地元に行くまでの電車に乗り込んだ。私もヨヨコも人ごみはすごく苦手だけど時間帯的に人が少なくてラッキーだったな。

 

「それにしてもアンタもやっと私の名前を自然に呼べるようになったわね。敬語も無しで自然にしゃべれるようになったし」

「う、うん。まだ少し吃っちゃうけどヨヨコとなら結構普通に喋れてると思う」

「そりゃ良かったわ。アンタってば何時あっても初対面みたいな対応してたからね。あれ結構傷つくのよ?」

「う、ごめん……」

「もう別にいいわよ。それに今なら一から関係作れてるって感じで良かったなって思えるし。まぁまだ一ヶ月くらいの付き合いだけどね」

「そ、そうだね。そっか、まだ一ヶ月なんだ……」

 

 そう。私はヨヨコと遊ぶようになったのは大体1ヶ月前。

 あの日虹夏ちゃんに遊びのお誘いを尽く断られて、挙句リョウさんを優先されて泣き崩れていたあの時、私に電話を掛けてくれてから私たちの交流は始まった。

 

 

 

 

 

 

――1ヶ月前――

 

「…………大槻さん?」

 

 え? え? な、なんで大槻さんから電話が? あまりの出来事に涙も引っ込んじゃった。

 な、なんだろう。企画ライブの宣伝の時の協力代金100万円払えとか言われるのかな……? うう、怖い。でもここで出ないと次会った時もっと怖いし今出なきゃダメだよね……。

 意を決して通話ボタンを押してスマホを耳に近づける。

 

「あ、出ちゃった……! も、もしもし、後藤ひとり? 私、大槻ヨヨコだけど……

「ご、ごめんなさい! お金は必ずご用意いたしますので内臓を売るのは最後の手段にさせてください!!」

「何いきなり怖いこと言ってるの!? 落ち着きなさい!」

 

 あまりの恐怖にパニック状態に陥っていた私を大槻さんが宥めてくれて少し冷静になってきた……。でも取立てじゃないなら何の用なんだろう……?

 

「いや、なんていうか……、実は明日バン練の予定だったんだけど、急に二人くらいメンバーが予定合わなくなっちゃってさ、それなら別の日にしようってことで予定が空いちゃったのよ」

「あっ、はぁ……」

「そ、それでまた、じゃなかった、たまには一人カラオケでも行こうかなって思ってたんだけど、何となくロイン漁ってたらあんたの名前が出てきてさ」

 

 そういえば協力してもらった時にロイン交換したっけ。

 

「でさ、それで、あの……、もし暇なら明日遊べないかなとか思ったりなんかしちゃったりして……」

「え!?」

 

 大槻さんが!? 何故!? 私を!? Why!?

 

「別に無理強いはしないけど、ほら私たちって一緒にスタジオで練習したり、オーディションでしのぎを削ったり、一緒にオーチューブでセッションしてさ、と、ととと友達って言っても差し支えないんじゃないのかと思ったのよ何言わせんのよ馬鹿!!」

 

 ええ!? 何故か馬鹿って言われた!!

 え? でも友達? バンド仲間以外で初めての友達……、うへへ……。

 

「まぁそういうことよ。……ところでさ」

「は、はい?」

「あんた何か声上擦ってるわね。……もしかして、泣いてたの?」

「あ……」

 

 き、気づかれちゃった。というか気付いてくれるんだ……。それになんか声もさっきまで捲し立てる感じだったけど、すごく優しい声だな。なんか聞いててホッとして、また涙が出そう。

 

「ちょっと、大丈夫なの? 力になれるか分からないけど相談に乗るくらいなら」

「ぐすっ……、い、いえ、大丈夫です。それよりも、本当に私と遊んでくれるんですか……?」

「え? え、ええ。ていうかこっちから誘ってるんだから」

「あ、ありがとうございます!!!」

「うるさ!」

 

 あ! また声量ミスっちゃった!

 

「じゃあ明日渋谷……はアンタ怖がりそうね。下北で良いわ。11時くらいで良いかしら?」

「は、はいっ。た、楽しみにしてます……」

「ええ、じゃあまた明日ね」

 

――これが私とヨヨコが遊ぶようになったきっかけだったんだよね。

 それからというもの私たちは休みの日はよく遊びに行っていた。

 

「あんた本当に常にピンクジャージなのね。顔も可愛いしスタイルもいいんだから勿体無いわよ。胸を張りなさい、胸を!」

 

「もう何回も遊んでるのに最初に会った時必ず初対面みたいにオドオドしてるわよねアンタ……。よし、決めたわ。私はアンタのことひとりって呼ぶから、アンタも私のことヨヨコって呼びなさい! ちゃんもさんも無しよ! それから敬語禁止! ……、無礼な態度で極刑? するか!」

 

「何よあんた、歌いなれたら綺麗な声してるじゃない。練習すればギタボも出来るんじゃない?」

 

「あら、今日はピンクジャージじゃないのね。ええ、よく似合ってるわよ。ひとりのお母さん良い趣味してるじゃない」

 

「今日はFOLTに行くわよ! バン練あんまり出来てないんでしょ? 特別に練習に参加させてあげるわ!」

 

「……うん、だいぶしょげた顔しなくなったわね。泣きそうになったら遠慮なく声をかけなさい。いいわね?」

 

 こんな感じで夏休みに入っても私達はよく遊んでた。ヨヨコも結構な陰キャだから遊びに行く場所は陽キャがあまり来ない場所のことが多いから負担が掛からないし、SIDEROSの皆さんもこんな私のこと快く受け入れてくれた。

 

 それから結束バンドの久しぶりのバン練を3日前に控えた日のこと、私とヨヨコはいつも通り遊んでいた。

 

「下北も中々良いところね。だいぶ慣れてきたわ」

「へっ、へへ。私はまだあんまり慣れてないけど……」

「なんでよ……、あら? あれは伊地知さんと山田さん?」

「えっ……」

 

 あ、虹夏ちゃんとリョウさん。楽しそうだな……。

 そういえば埋め合わせしてくれるって言ってたのに虹夏ちゃん連絡もくれなかったけど、そっか、リョウさんと遊んでたんだ、それじゃ仕方ないよね……。仕方、ないよね……。

 

「……声かけないの?」

「…………」

「……ねえ、もしかしてあの日泣いてたことと関係ある?」

 

 私は、黙って頷いた。

 

「そっか……」

「……聞いて、くれる……?」

「もちろんよ」

 

 それから私達は人通りの少ないところに座って、あの日、あの日までの状況を話した。

 途中まではヨヨコは「うん」とか「そう」とか相槌を入れてくれていたけど、次第にそれも聞こえなくなって、粗方話してからどうしたのかなってヨヨコを見てみたら、見たことない顔で怒っていた。

 

「ご、ごめん! 変な話して!」

「違う! そうじゃない!」

 

 そう言って私の顔を暖かい何かに包まれて、ヨヨコが抱きしめてくれたことに少し遅れて気がついた。

 

「私の友達が泣かされたことに怒ってんのよ! どうしてくれようかしら……!」

「ヨ、ヨヨコ……! あ、あの……!」

「分かってるわよ。ひとりが結束バンドを何より大切にしてることは。あの人たちが別に悪気がある訳じゃないことも。まあそれが逆にタチが悪いけど」

 

 そう言ってより一層私を抱きしめる力が強くなった。

 正直少し痛かったけど、それ以上に嬉しくて、離れて欲しくなくて、私もヨヨコの背中に腕を回していた。

 

「ん、そうだわ。あれをあーして……、こーして……。うん、うん。これで行こう」

「?」

「ひとり、あのね……」

 

 そしてヨヨコは思いついた悪巧みを教えてくれた。

 でもこれは……。

 

「下手したら私、そのまま……」

「その時は責任もってアンタをSIDEROSに迎え入れるわ。あんたの実力なら文句ないどころか大歓迎よ。それにこの程度で壊れるならその程度の結束力よ」

「ヨヨコ……」

「ひとり、アンタがすごく優しい娘なのは私ももう分かってる。誰かに悪態すらついた事ないでしょう? でもね、怒らないといけないときは怒りなさい」

「……」

「少しくらい嫌がらせしてやりなさい。私が全面的に味方してあげる。そしたらもう、怖いものなんてないでしょ?」

「……うん!」

「よし、決まりね! じゃあ早速……」

 

 ヨヨコがスマホを取り出して電話し始めた。

 

「あくび、急にゴメンだけど明日FOLTに全員集まって」

『ええ~、急になんなんすか~。明日はダラダラする予定……』

「友達が泣かされたの。協力して」

『……仕方ないっすね~。ご飯おごってくださいよ』

「分かったわ、カス『JOJO苑で』……了解」

 

 な、なんかすごく高いお礼を要求されてるけど大丈夫かな……?

 おもむろにヨヨコは財布の中身とにらめっこして、顔をひくつかせながら笑顔を私に見せきた。

 

「女に二言はないわ!」

 

 

 

 

 

それから翌日、計画の内容をヨヨコはみんなに伝えた。

……正直、迷惑以外の何者でもないよね? やっぱり……。

そう思っていると皆さんは、

 

「ま、おっぢ……、じゃなくてぼっちさんももう他人てほどの仲じゃないっすからね」

「うふふ、ぼっちさんに憑いているそれも気になりますし~、お手伝いしますよ~」

「またぼっちさんと演奏できるなんてうれしいです~。またギター教えてください~」

「ふーか、今回はごめんね。ていうか下手したらこれから先も……」

「良いんですよ~。『あっち』の楽器も好きですから~。そうなっても私はSIDEROSなんですよね?」

「当然でしょ」

「なら万事OKですよ~」

 

 本当に良い人たちなんだな……。これもヨヨコの人徳なんだろうな。

 

「今度はJOJO苑でバイトさせられるのは勘弁っすよ」

「もう流石にしないわよ!」

 

 人徳なのかな……?

 

 

 

 

 

 そしてあの後セッションしてSNSに載せたのがあのなんちゃって電撃移籍の記事という訳だ。

 とは言ってもあれは本当にただのイタズラで、本番はこれから。

 

「ふふ……、『アレ』の準備も進んでるし、一泡吹かせてやるわよ」

「うへへ、何か少し楽しみになってきたかも……」

「その意気よ! やるわよひとり!」

「うん!」

「それはそうと、お土産とか買ったほうが良かったかしら……。初めてひとりの家に顔を出すわけだし」

「そこまで気にしなくて大丈夫だから……」

 

 こういうところやっぱり同類だなぁ。

 

 

 

 

 

虹夏side

 

「飲まなきゃやってられないですー!!」

 

あの事件からはや三日。

 ぼっちちゃんを奪われたリョウは無気力になり、喜多ちゃんはヤケ2Lコーラ、原因を作った私はおとなしくコーラを献上させてもらいながら豆電球と化していた。私の家で。

 

「喜多ちゃん、勉強はいいの……?」

「こんな状態で頭に入るわけないじゃないですか! ……んぐっんぐっおかわり!」

「もう五本目だよ喜多ちゃん? 太っちゃうよ?」

「普段私は痩せすぎてさっつーから板ちゃんなんて言われてるから良いんです! ……んぐっんぐっおかわり!!」

 

 5本目を飲み干す喜多ちゃんに6本目を渡す。

 実際私も脳が完全に切れかけの豆電球になっちゃってなんも考えられないや……。後から知ったけど前に企画ライブで豆電球になった時もぼっちちゃんが私を助けてくれてたんだよな。何やってるんだ私は……。

 するとこの3日間一切声を出さなかったリョウが話しだした。

 

「実際さ、どう思う? 今の状況」

「どう、ていうと?」

「ぼっちが単純にSIDEROSと仲良くしてるだけなのか、移籍を考えてるのかだよ」

「それは……」

 

 分からない。

 ぼっちちゃんが結束バンドのことを大切に想ってくれてるのは私もよく知ってる。でも今回のはひどい。ひどすぎた。愛想を尽かされてもおかしくない、というか尽かされてない方が不思議ってくらいの話だ。

 

「これでひとりちゃんを泣かせてたら引っぱたいてますよ! ……んぐっんぐっおかわり!!!」

 

 7本目を渡す。そして私は左頬を差し出した。

 

「……どうぞ」

 

 最初はポカンとしていた喜多ちゃんだったけど、次の瞬間には意味を理解したのか顔を真っ赤にして思いっきり腕を振り上げた。

 私も平手じゃなくてグーでも殴られるつもりだったけど、すんでのところでリョウが止めていた。

 

「やめて、お願いだから」

「……、流石に寸止めするつもりでしたよ」

 

 それが本当かどうかは分かりようがなかったけど、私は殴られるべきだった。でもこれ以上結束バンドがめちゃくちゃになるのを、リョウは見たくなかったんだろうなと思う。

 

「納得はしませんけど伊地知先輩が本気で反省してるのは分かりました。で、どうするんですか。もう豆電球になっても助けてくれるヒーローはいないですよ」

「分かってる。……一度ちゃんとぼっちちゃんと話がしたい……って思ってる」

「それで移籍を考えてたらどうするの?」

「土下座でもなんでもする。殴られてもいい。ぼっちちゃんが戻ってきてくれるなら、何でもするよ」

「了解、じゃあ行こうか?」

「そうですね」

 

 リョウと喜多ちゃんが立ち上がる。

 二人はここにいて良いんだよ? 私が招いたことなんだから……。

 

「言ったでしょ。虹夏だけが悪いわけじゃないって。私がちゃんとしてたらこうならなかった。私も悪い」

「バンドは第二の家族です! 家族が困ってたら助けるのは当然です!」

 

 二人が私をまっすぐ見る。見てくれる。こんな私を見捨てないでいてくれる。

 何が結束バンドの絆は緩んだりしないだ。私が一番信じてないじゃん。

 私は、私は本当に大馬鹿だ……!!

 

「ごめんなさい……! ごめんなさい……!!」

 

 自分の馬鹿さ加減と、喜多ちゃんとリョウの優しさ、そして私がぼっちちゃんにつけてしまった心の傷の深さをようやくちゃんと理解できた気がして、私は涙が止まらなくなった。

 

 

 

 

 

 私が落ち着いてからぼっちちゃんに連絡を取った。

 家にいるものかと思ってたけどどうやら今はFOLTにいるらしく、その事実にまた胸を締め付けられたけどここで逃げるわけにはいかないと、私達はFOLTに向かい控え室でぼっちちゃんと会った。

 

「み、皆さんどうしたんですか? STARRYから態々……」

「ぼっちちゃんと、ちゃんと話がしたくて……」

「ひとりちゃん、あのね、伊地知先輩とのこと全部聞いて、それで……」

「ぼっち、虹夏との癒着の件もそうだけど、私もぼっちに甘えてた。本当にごめん」

「ぼっちちゃん、本当にごめんなさい。ぼっちちゃんが何を考えているのか分からないけど、でも私が今できるのはこれだけだから……」

 

 私が土下座をしようとすると、それを察したのか喜多ちゃんとリョウも私と同じように土下座の形を取ろうとした。本当にごめん、二人とも……。

 床に手をつこうとしたその瞬間、

 

「止めてください!!!」

 

ぼっちちゃんから聞いたことのない怒号が飛んできた。

 

「……私は、ずっと友達がいませんでした。生まれてから、虹夏ちゃんが見つけてくれたあの日まで、ずっと」

「本当に寂しかったんです。友達同士が、昨日のドラマ面白かったとか、あそこにひみつ基地作ったとか、帰り道にケンケンパしながら帰ったり、遠足で友達同士でお弁当のおかず交換したり、学校終わったら遊びにいく約束したりとか、……帰る時に、また明日って言ったりとか、そんな当たり前なことを当たり前に持ってる人たちが、羨ましかった」

「昨日のことを考えたらつまらなくて、今日のことを考えたら憂鬱で、明日のことを考えたら、怖かった。いつもひとりぼっちで」

「もう何かも嫌で、ネットの世界で生き続けようって思っていたときに、私を見つけてくれたのは虹夏ちゃんでした」

「念願のバンドに入れてくれて、なにも無かった私に居場所をくれたんです。だから虹夏ちゃんの夢を聞いたとき、私は何があってもその夢を叶えたいって思いました」

「私にとって虹夏ちゃんは光みたいな人で、でも虹夏ちゃんにとって特別な人はリョウさんなんだってやっぱり節々で思い知らされて、でもリョウさんのこと、呆れることはあってもちっとも嫌いになれなくて……」

「結局私は光に近づく虫で、光に愛されるのはリョウさんだけで、結局あの日、光に触れようとした私は焼き尽くされちゃったんです。夜の街灯の下にいる虫のように」

 

……言葉が見つからなかった。

初めて聞いたぼっちちゃんの本当の感情は、失うものさえない人の物だった。子供の頃、特に小学校低学年くらいまでなら考えなくても手に入る当たり前の日常。それをぼっちちゃんは持つことができなかった。

完全なる空気。周りに誰もいないのと一緒だそんなの。

その孤独感は私には想像が……、少しだけ出来る。私もお母さんを亡くして、お父さんが忙しくて、お姉ちゃんが帰ってこなかったあの日々は本当に辛かった。家に帰っても誰もいない。一人で起きて、一人でご飯を食べて、一人で寝る。

孤独の種類は少し違うけど、あれを15年間毎日? どんな地獄なんだろうそれは。

そんなぼっちちゃんを地獄から意図せずに私は掬い上げた。中途半端に。

自分が光だなんてそんなご大層なものだとはとても思えないけれど、言うなれば私はぼっちちゃんに餌をちらつかせながらここまで誘導してきたのだろう。そしてその餌をゴミ箱に捨てたのだ。

絶望しかない。その絶望を与えたのが多少なりとも共感できる私というのは何ていう皮肉なんだろう。お母さんが生きてたら全力でビンタしてくれただろうな。

 

なんて言えばいい? なんて言えばいい?

私もリョウも喜多ちゃんも言葉が全く出てこない。なにも言えない……。

 

「…………私も言わないといけないことがあります」

 

 ぼっちちゃんが口を開いた。

 

「2週間後のSIDEROSのライブでリードギターとしてサポートに入ろうと思ってるんです」

「……リードギター? でもSIDEROSにはリードギターいるよね?」

「その質問には私が答えるわ!」

 

 控え室の扉をバーンと開いて大槻さんが入ってきた。扉の向こうから「ちょっとー、あんたまでうちを壊したりしちゃダメよー」という声が聞こえてきた。締まらねえ……。

 

「ま、まあアレよ。キーボードありの新曲を作ったんだけど中々キーボードが出来るサポートが見つからなかったのよ。で、ふーかがキーボードもできるって話だったから、じゃあ次はギターが出来て交流と実力がある人って考えたんだけど、流石に歴も人気も上のイライザさんに頼むのも気が引けたしね。で、そこで」

 

 ぼっちちゃんに白羽の矢が当たったってことか。

 

「SIDEROSやSICKHACKの皆さんと練習してまた違ったものが見えて、それでこの前のバン練の時にも練習の効果が出てたので、いい経験になるかなって思ってて、今日明日には皆さんにもお話しようかと思ってたんですけど」

 

「そういうことなら、仕方ないけど」

 

 これが普段の状況であればぼっちちゃんが他のバンドで上手くやれるかなってまた中途半端に保護者ヅラして、でもなんやかんや送り出してたと思う。

 でも今は違う。ぼっちちゃんがいなくなってしまうかもしれないこの状況下で気持ちよく送り出すなんて出来っこない。やめてほしいって堪らずに喉から声が出そうになる。

 

「でもそれは建前よ」

「……え?」

「ヨヨコ?」

「……さっきのあんたの告白聞いて気が変わったわ。2週間後のライブ、アナタ達には出来ていない、ひとりの実力をフルに出し切ったライブをしてみせるわ」

 

 とは言っても新曲でしかそれはできないだろうけどと付け加える。

 どういうこと? ぼっちちゃんは確かに実力はプロにもメジャーで活躍するギタリストにも通用する程だけど、それはあくまでソロに限定される。

 バンドでその実力を発揮しきれる瞬間はまだまだ極わずかだ。

 

「ここ最近の練習で分かったことがある。ひとりはね、音を合わせるだけならもう殆ど問題なく出来てるわ」

「いやでも普段の練習は……」

「あなた達とひとりの技量に差がありすぎなのよ。ひとりはね、無意識のうちにあなた達の技量に合わせようとするあまり、自分の実力をセーブしちゃってるのよ。意識できてないから何か変な合わせ方になってしまってバンドだと下手に聴こえてしまってるって訳ね」

 

 え、え?

 ぼっちちゃんがもう音を合わせられるようになってる? でも私達の技量の問題で実力を発揮できてないって、それって何時だったか、私が危惧していた……。

 

「一度でも考えたことがないかしら? ひとりが実力を出せるようになったら足を引っ張るのは自分たちだって」

 

 ……ある。

 あれはそう、ぼっちちゃんの宅録を初めて見せてもらった時だ。動画用に自分のペースでギターを掻き鳴らすその技量は、同年代の中では上手いと言われるリョウの実力さえもはるかに凌駕したものだった。その時にそう思ったんだ。

 でも考えてみればそれはそうだ。もう結束バンドを結成して二年。合わせられるようになっててもおかしくない。

 

「まぁそうは言ってもひとりの実力にはまだ私達でさえ追いつけてないわ。でも次のライブまでにはその実力を十全に出し切れるように調整してみせる」

「そ、それでヨヨコ。気が変わったていうのは……?」

「ええ、最初はこの状況でSIDEROSで演奏させたらあなた達に一泡吹かせられるっていうほぼ嫌がらせみたいな計画だったわ。ライブは本気で臨むつもりだったけどね」

「じゃあ今は……?」

「さっきのあんたの話を聞いて思ったの、ひとりの事を支えたいって。……ねぇひとり、あなたがその実力を出し切って大勢の観客の前で演奏が出来たら絶対に気持ちいいと思う。私達SIDEROSのプライドに掛けて必ずそんなライブをさせてみせる。だから」

 

「次のライブ、何も言葉にしなくていい。あなたの想いを全てギターに込めて演奏して。それを私たちや結束バンドへの答えにしましょう」

 

 つまりそれって……。

 

「ひとりが当初の予定通り結束バンドに戻るならそれでもいいわ。私とひとりが築いたものは変わらない。でもSIDEROSに来るのなら喜んで迎え入れる。ふーかもアンタが入るならキーボードに移行しても良いって言ってくれてる」

「…………」

「ちょ、ちょっとぼっちちゃ」

「虹夏ちゃん、喜多ちゃん、リョウさん」

 

 ぼっちちゃんが私の言葉を遮る。

 こんなふうに力強い声をしているぼっちちゃんは、二年間の付き合いの中でもほとんど見たことがないな。

 

「次のライブ、かならず来てください。そこで答えを出します」

 

私達3人の目を見てぼっちちゃんはそう言った。

 こんな目をしたぼっちちゃんを私は初めて見たけど、きっとあの台風の日の初ライブの時もこんな目をしてたのかなって私は思った。

 何も言えずに私が固まっていると

 

「戻ろう」

 

 リョウが喜多ちゃんと私の手を取ってFOLTの出入り口のほうを向いた。

 

「二週間後のライブ、ぼっちの答えを聴きに必ず行くから」

「……はい」

 

 ぼっちちゃんの返事を聞いて出入り口へ向かう。

 私たちの手を握るリョウの手は、震えていた。

 

 

 

 

 

 

ぼっちside

 

「……ごめん。急に作戦変えちゃって」

「ううん、嬉しかったよ。本気出していいんだよね?」

「当然。私らを誰だと思ってるの」

「じゃあ私も万全に仕上げるね」

「上等よ。楽しみにしてるわ」

「うん。……ヨヨコも私の答え、聴いてね?」

「……ええ」

 

 そして私達は練習室へ戻っていく。

 返事をしたときのヨヨコの声は震えてて、顔を私には見せなかった。

 

 

 

 

 

 

虹夏side

 

 そしてライブ当日。

 私達はぼっちちゃんがサポートとして加入するSIDEROSのライブ、そしてぼっちちゃんの答えを聴きにFOLTに来ていた。

 

「……ついに来ちゃったね」

「そりゃ来るでしょ」

「私ひとりちゃんの演奏を客席側から聴くのも楽しみだったんですよー」

 

 あははーと笑う喜多ちゃん。

 その喜多ちゃんの手は震えてて、私と、リョウも震えてた。

 でもいつまでもFOLTの前で震えてるわけにはいかない。覚悟を決めよう。

 

「さあ行くよ郁代!」

「やめてください!!」

「あはは、うん。行こう」

 

 私達はFOLTに足を踏み入れる。

 中に入るとFOLTのオーナー、銀次郎さんが私たちに気づいてくれた。

 

「……来てくれたのね、あなたたち」

「は、はい」

「私も詳しいことは聞いてないわ。若い子達に首を突っ込むのは野暮だと思ったし。ただ今日のためにあの子達、必死に練習してたからしっかり聴いてあげて頂戴」

「もちろんです!」

「うふふ、じゃあゆっくりしていってね~」

 

 銀次郎さんは奥へと引っ込んでいった。多分私達のこと待っててくれて、ぼっちちゃん達に来たことを伝えてくれてるんだろうな。優しい人だな。

 

「早めに来たおかげで最前で聴けそうだね」

「SIDEROSの人気もフェスで更に上がったからね。少しでも遅れてたら後ろの方で聴くことになるところだった」

「な、なんか心臓が飛び出しそうなほど緊張してきました……!」

「私もだよ」

 

 リョウと喜多ちゃんの手を握る。

 

「ごめん、演奏が終わるまでこうしてて良いかな?」

「……先に言われちゃいました~」

「仕方ないな虹夏は」

 

 そうしてしばらく待っているとお客さんもたくさん集まり、ステージ上にSIDEROSのメンバーと、SIDEROSの黒を基調とした衣装を纏ったぼっちちゃんが出てきた。

 一瞬だけ私達と目があったけど、すぐにギターに集中していた。

 そして大槻さんが話し出す。

 

「今日は暑い中来てくれて皆ありがとう。来てくれた皆には最高のライブを見せてあげる。楽しみにしてなさい」

 

 相変わらず強気なMCだなぁ。でもクソ寒MCで有名な結束バンドからしたらあれくらいの攻めの姿勢は見習ったほうがいいのかな?

 

「でも今日はライブをする前に話したいことがあるの。いつも来てくれている人は気付いてるかもしれないけど、今日はメンバーとポジションが違うの。今日は下北沢を中心に活動中の結束バンドのリードギター、後藤ひとりに来てもらったわ」

 

 会場がざわつく。私たちも未確認ライオットで惜しいところまで行ってたから知ってる人もいるのかもしれないな。

 そして大槻さんがぼっちちゃんに挨拶をするように視線を促す。大丈夫かな……?

 

「え、えと、その……。今日のライブに招いていただきました後藤ひとりです。今日はSIDEROSのメンバーとしてせ、精一杯演奏しますので、よ、よろしくお願いします!」

 

 そしてぼっちちゃんの挨拶が終わると同時にドラムのあくびさんがカウントを出して、演奏が始まった。

 

 SIDEROSの生演奏はフェスの時に聞いたことがあるけどやっぱりすごい。

 一人一人の技量が高くて、純粋な実力で対抗できるとしたら私達三人の中ではリョウだけだろう。

 そしてぼっちちゃんも、明らかに私達とのライブの時よりも実力を出せている。でもこれでもきっと本気は出せていない。

 

 そうしていくつかの曲が終わり、お客さんたちからアンコールの声が響く。

 

「ふふん、今日のライブに来れたあんた達は超ラッキーよ。最後は新曲よ。……『しっかり』聴きなさい」

 

 一瞬だけこちらを見る大槻さん。始まる前に大きく深呼吸をして祈るようにマイクに額を擦りつける。少し震えているようにも見える。

 あまり見たことのない姿に観客のみんなもざわつくけど、顔を上げて覚悟を決めた瞳であくびさんに合図を送る。

 ぼっちちゃんはより一層猫背になって顔が隠れて見えない。

 私達の手は全く同じタイミングで強く握られた。

 

「さぁいくっすよ! ワンツースリーフォー!!」

 

 そして始まるSIDEROSの新曲。そしてぼっちちゃんのギターから響き渡る、ぼっちちゃんの本当の実力。

 ハッキリ言って物凄い。雷鳴のような、嵐のような、そんな演奏。技量が高いとかそいういう話じゃない。きっとこれにはぼっちちゃんの『全て』が乗っている。

 SIDEROSの皆もぼっちちゃんのギターに振り回されないように全力を尽くしていた。さっきまでの演奏が本気じゃない訳ではないだろうけど、一切の余裕が無いように感じる。

 そしてギターソロが始まり、ぼっちちゃんの集中力がさらに高まる。観客はあまりの凄さに声を失っている。

 私達は訳も分からず泣いていた。これにはぼっちちゃんの答えが込められている。しっかり聴いてもその答えは分からない。でも、涙が溢れてくる。

 そして演奏ももう終盤に差し掛かる。歌声は一切ぶれていないけど、大槻さんの瞳からも大量の涙が溢れている。きっと何も見えていないだろう。

 

 そして遂に終りを迎え、演奏が止まる。

 観客たちは呆然として声が出せずにいたけれど、正気を取り戻した時に観客たちから起きたのは歓声ではなく、拍手だった。

 こんなライブ、見たことない。そしてそんなライブをぼっちちゃんは私達とではなく、SEIDEROSとのライブで行った。もはや悔しさという言葉にすら当てはまらない感情が渦巻く。

 

「今日はライブに来てれてありがとう! 絶対に今日のライブは忘れないわ!」

 

 最後にファンのみんなへ声をかけて大槻さんたちはステージを後にする。

 観客たちも魂が抜けたような顔でライブスタジオを後にして、最後には私たちだけが残された。

 

「可愛い顔が台無しよ、はいどうぞ。擦っちゃダメよ?」

 

 銀次郎さんが冷えたおしぼりを渡してくれる。

 私達は互いに顔を見合わせると涙でぐちゃぐちゃの酷い顔をしていた。自分の顔は見えないけど、確かに二人の顔は台無しだった。

 顔を見てそれぞれ少し笑ってから涙を拭いて、銀次郎さんにおしぼりを返す。

 

「さぁ控え室で皆が待ってるわ。いってらっしゃい」

 

 銀次郎さんはそう言って私達の背中を軽く押しくれた。

 正直全く言うべき言葉が纏まっていない。でもこの纏まってない言葉が私たちの『言葉』だ。支離滅裂になってしまうとしてもそのまま伝えよう。

 

 覚悟を決めて控え室の扉を開ける。そこにはぼっちちゃんと、その隣に大槻さん。その後ろにSIDEROSのメンバーが並んで立っていた。

 声が詰まるけれど、声を出そう。ぼっちちゃん答えに対する、答えを。

 

「えっと、まずその、ライブお疲れ様でした! すごく良かったです」

「当然よ」

「それで、ね。ぼっちちゃんの本気のギターも聴いたよ。聴いたんだけど、ぼっちちゃんが結局どういう答えを出したのか、分からなかった」

 

 ぼっちちゃんの手が強く握りこまれるのが見えた。

 

「で、でも、ね。でもね……!」

 声がしゃくり上げて上手く喋れなくなってくる。

 それでも私は声を出す。

 

「わ、私! ぼっちちゃんに結束バンドにいてほしい! 私達じゃまだ、SIDEROSほどうまい演奏は出来ないけど、それでも戻って来て欲しい!」

「ぼっち、絶対に追いついてみせるから。戻ってきて欲しい。メリットなんて何も示せないし、わがままでしがないけど、でも、戻って、きて……」

「ひとりちゃん、私も戻ってきて欲しい。私がここにいられるのは、ひとりちゃんがいてくれたからなの……。お願い、戻ってきて……」

 

 私達はそろってぼっちちゃんに頭を下げて、ぼっちちゃんの答えを待つ。

 

「……ひとり、あなたの答えを聞かせて」

 

 大槻さんがぼっちちゃんに答えを促す。

ぼっちちゃんが私達に歩み寄る。頭を下げてるからぼっちちゃんの顔は見えない。

どっちなんだろう、でも私、お別れの言葉なんて絶対聞きたくな

 

「私は結束バンドのリードギター、後藤ひとりです。そこが私の居場所です」

 

 私達はその言葉を聞いて顔を上げた。

 そこには涙を流したまま笑顔で私たちを見るぼっちちゃんがいた。

 

「……これが私の答えです。ダメ、でしょうか……?」

「……ぼっちちゃん!!」

「わわっ!?」

 

 私達は返事をする間もなく、ぼっちちゃんに飛びついた。

 私たちの勢いに耐えられずにソファに押し倒すような形になってしまったけど、そんなことを気にする余裕もなくてぼっちちゃんにしがみついていた。

 

「うぐぐ、苦しいです」

「全く、苦しいとか言ってる割にめちゃくちゃ嬉しそうじゃない」

 

 声が聞こえた方に顔を向けると、寂しそうな顔で笑っている大槻さんがいた。

 

「私には同じ楽曲を演奏したからなのか、答えがハッキリ伝わっていたわ。この娘は結束バンドの元に帰るんだなって。それが分かって、演奏中少しだけ涙が滲んちゃったけど」

「え~? 少しでしたか~?」

「少しよ」

「そうは見えませんでしたが~」

「少しよ」

「絶対ボロ泣きしてたっすよね」

「うるさいわね! ていうかあんな状況で私の表情とか絶対見てる余裕なかったでしょ!」

「見えなくても分かるっすよ」

 

 まったく……! といって大槻さんがぷりぷり怒る。

 私達も少し落ち着いて、SIDEROSのみんなと向き合う。

 

「あの、大槻さん、SIDEROSの皆さん。今回は迷惑をかけて本当にごめんなさい!」

「ごめんなさい」

「すみませんでした!」

「……別に私は結束バンドに迷惑をかけられた訳じゃないわ。友達を泣かされたから怒った。それだけよ」

「あの、ヨヨコ……」

「……何よ、そのしょんぼりした顔は」

 

大槻さんがぼっちちゃんを抱きしめて、ぼっちちゃんを抱きしめ返している。本当に仲良くなったんだな、この二人。

 

「前にも言ったけどSIDEROSを選ばなくても私達が築いたものは何一つ変わりはしないわ。それに今日は大切な思い出を作ることが出来たからそれで良いわ」

「おっじ、……ぼっちさん。いつでも来てくださいっす。またライブやりましょう」

「またぼっちさんに憑いてるのじっくり見せてくださいね~」

「またギター教えてくださ~い」

 

 SIDEROSの皆とも握手して、近いうちに打ち上げをしようと約束をして、私達はFOLTを後にしてSTARRYへと戻っていった。

 

 

 

 STARRYに戻ってきてぼっちちゃんの顔を見たお姉ちゃんがぼっちちゃんを強く抱きしめすぎて破裂したり、廣井さんに絡まれたり、そんな光景をPAさんがクスクス笑いながら見ていて、やっと日常に帰ってきたんだと思った瞬間、立ちくらみがしてそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んん……?」

 

 ここ、私の部屋……?

 そういえばSTARRYで意識が遠くなって、多分倒れたんだろうな。考えてみればあのバン練の日からまともに寝てなかった気がする。それにしてもなんだか温いな……。

 隣に温もりの発生源があることに気づいた私が横をむくとそこには、私と一緒のベッドで寝ているぼっちちゃんがいた。

 

「おお!?」

「ん……、むにゃ……?」

 

 やべ! いきなりぼっちちゃんの顔があったからびっくりして大きな声出しちゃった!

 寝ぼけ眼でこっちを見ていたぼっちちゃんだけど、私が起きていることに気付くとふにゃっと笑った。

 

「あ、虹夏ちゃん……。おはようございます」

「お、おはよう。どういう状況なのこれ?」

「あ、はい。あの後なんですけど……」

 

 あの後倒れた私はぐっすり眠っていたらしく、お姉ちゃん達に部屋に連れて行ってもらってベッドで寝かせてもらったらしい。

 でもぼっちちゃん達も私が心配だから残りたいって言ってくれて、リョウと喜多ちゃんはリビングで、ぼっちちゃんはライブの後で疲れてるだろうから私と一緒に寝たらいいというお姉ちゃんの許可で一緒のベッドでねていたとのこと。

 

「あっ、防虫剤臭い私が一緒に寝てしまってすみません。お詫びに切腹を……」

「いやしなくていいから……。ふふっ」

「に、虹夏ちゃん? どうしたんですか?」

「いやさ、またぼっちちゃんとこういうやり取りできるのが嬉しくて」

「あっ、へへ、そうですね……」

「ねえ、ぼっちちゃん……」

「虹夏ちゃん? あっ、わぷっ」

 

 私はベッドの中でぼっちちゃんの頭を抱えるように抱きしめた。

 

「ぼっちちゃん、改めて今回の件、ううん、きっと今までも多かれ少なかれ傷つけたよね、私……。本当にごめん……」

「虹夏ちゃん……」

「私にとってリョウはずっと特別で、特にここ2年くらいの行動基準は思い返してみればリョウが最優先順位になってたと思う……。そんなつもりは無かったんだけど、いつの間にかそうなってたの」

「……」

「でもそのせいで周りがちゃんと見えなくなってて、しまいには学校で浮いた状態になっちゃって……、ぼっちちゃんを傷付けることにまでなって……」

「はい……」

「これからはちゃんと周りのもの全て、大切にしよう思う。リョウとの距離感もちゃんと見つめ直すよ。そもそもリョウのためにならないし。それでどうかな……? 許してくれる……?」

「……じ、じゃあ……」

 

 私の胸の位置にあるぼっちちゃんが私を見上げる。

 

「も、もうひとりぼっちにしないでください。……もう離さないでくださいね?」

「うっ! うん……」

 

 やば、流石に少し暑かったのか顔が赤くなってて目も潤んでて、めちゃくちゃクラっときた。

 いやいや待て待て。私にそんな趣味はないんだ。このまま流れに身を任せたらキスとかしてしまいそう。ていうかキスで止まれるだろうか。

 

「虹夏ちゃん……?」

 

 私の胸の中で可愛らしく顔を傾げる。

 なんで普段変顔ばっかりなのにこんな時にこんな表情するかなぼっちちゃんは。これはもはや趣味云々とか関係なく美味しく頂くのが礼儀なのでは?

 

 そんなことを悶々と考えていると部屋の扉の隙間からなにやらひそひそ話が聞こえてきた。

 

「いけ、いくんだぼっち……。そのまま唇を奪うんだ……」

「え、流れ的には伊地知先輩からじゃないですか?」

「いや、虹夏はヘタレだから難しいと思う……」

「いや、ぼっちちゃんが義妹になるこのチャンス。是非虹夏には物にしてほしいな」

 

 がっ……! がっ……!

 

「おまえらあああああああああああああああ!!」

「やばいバレた! 逃げろ!」

「きゃー!」

「虹夏! 私はぼっちちゃんが義妹になるのは大歓迎だぞ!」

「やかましい!」

 

 ベッドから跳ね起きて出歯亀どもを追い払う。このまま殲滅するか考えたけど、後ろから柔らかくて甘いぬくもりに包まれてそんな気も霧散した。

 

「あの、今日だけでいいのでさっきみたいに抱きしめてもらったまま寝たい、です」

 

 私もたまに天使とか言われるけど、今この場においてその称号はぼっちちゃんのためにある言葉だなそれは。

 さっきまでの邪な考えも消え去り、私はぼっちちゃんを抱きしめてまたベッドに潜り込んだ。

 今日はきっといい夢が見れそうだな……。


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