通りすがりの幻想です。
はい、という事で2本目です。
「「「おはようございます(なのです)!」」」「おはよう。」
午前9時。
朝飯のおにぎりをかじっていると、元気な挨拶が聞こえた。
寮の方から元気な足取りでやってくるのは白と黒のセーラー服を着た、特Ⅲ型駆逐艦暁型の「暁」「響」「雷」「電」の4人の、「第六駆逐隊」、通称「第六駆」だ。
祐輔「おう、おはようさん。…ほんと、いつもお前らは元気だなぁ。見てるこっちが癒されるよ。」
暁「ふふん!そうでしょそうでしょ!レディの魅力で癒されなさい!」
祐輔「お、おう…そうだな…」
暁ちゃんが、フンスと胸を張る。
うん、本当に元気でいい事だ。
祐輔「…それで、どうしたんだ?」
雷「艦隊演習の時間までまだ時間があるから、皆で日向ぼっこでもしようと思ったの!」
祐輔「ああ、なるほど。…まあ、ゆっくりしていけや。」
俺がそういうと、彼女たちは小屋の前の原っぱに寝転がって、日向ぼっこを始めた。
祐輔「…あ、そうだ。」
天気も良かったので、俺も外に出て、彼女たちの近くに折りたたみいすを広げて座り、文庫本を読み始めた。
電「…あの、祐輔さん。…ひとつ聞いてもいいですか?」
しばらく経って、恐る恐ると言った感じで、電ちゃんが聞いてきた。
祐輔「ん?」
電「…祐輔さんと司令官さんは、どうやって知り合ったのですか?」
祐輔「司令官…?ああ、提督の事か。」
響「…私も知りたい。」
祐輔「うーん…まあ、話して減るもんじゃないし、いいか。」
彼女達が俺の話を聞くために、俺を囲んで座ったの確認して、俺は話し出した。
祐輔「…俺とアイツが出会ったのは、今から大体5,6年前になるかな。」
暁「そ、そんなに昔…」
祐輔「まあ、お前らからしたら想像できないかもしれないけど、その頃は当然、深海棲艦なんて居なかったし、今と違って平和だったよ。」
電「深海棲艦のいない世界、ですか…」
祐輔「その頃の俺は、お人よしというか、お節介というか…学内の生徒の色んな困りごとを解決してたよ。無くした文房具を探したり、重たい段ボールの運搬とか。よく言えば「人助け」だ。…とはいえ、時々実力行使してたから、完全な「人助け」かと聞かれるとグレーではあるけど。いじめっ子を止めようとしてぶん殴って、結局俺も怒られる…そんなことがよくあった。……まあとにかく、そんなこんなでいつからか、『武力探偵』とか『鉄拳屋』って呼ばれるようになった。…言っておくが、そこそこ友人は居たぞ。」
雷「け、結構荒っぽかったのね…」
祐輔「…自覚はあるよ。」
そう笑いながら、一息置いて続ける。
祐輔「それで、提督との出会いだが……正直言って、あいつとの出会いは、最悪の一言に尽きるな。」
暁「えっ?仲が悪かったの?」
祐輔「ああ。あいつは、学校の中で拳を振りかざしていた俺が気に入らなかったんだよ。…まあ、当時の俺も、頭が良くて顔も良い、『ザ・優等生』なあいつの事は、気に入らなかったがな。顔を合わせればにらみ合いをしてた。」
本当に、当時はろくでもない事で言い合いをしていたものだ。俺があいつのことを「もやしのエリート人間」と言えば、あいつは俺のことを「石頭の原始人」などと、互いに罵倒する毎日。
そんな日々を思い出して、俺は笑いながら続ける。
祐輔「…そんなある日、学校である事件が起こったんだ。…色んな生徒たちの物品が盗まれていたんだ。男女、学年問わずだ。」
電「…窃盗、ってことですか?」
祐輔「ああ。…その時は、教師たちも誰が犯人なのか分からず、手をこまねいていたんだ。当然、俺も犯人を捜そうと、友人とか、被害を受けた生徒たちに聞き込みをしていたんだ。…ところが収穫はゼロ。手がかりらしい手がかりも得られなかったんだ。それで、どうしようかと思ってたところに、あいつがやってきた。またいつもの嫌みを言いに来たのかと思ったら、事件について俺が調べた事を教えて欲しいと言ってきたんだ。どうやら、俺と同じく事件を追ってたらしい。」
暁「じゃあ、協力して事件を追えば…」
至極全うなその意見に苦笑いしながら、俺は話を続ける。
祐輔「あー…いや、まあ、確かに最終的には俺が集めた情報を提供して協力したんだけど…最初は嫌だったんだよ。…その頃の俺は、自分に対してすごい自信過剰でさ。誰かに頼ったり、誰かに指示されるのが嫌いだったんだ。」
電「そ、そうなのですか…」
祐輔「…そんな訳で、当然その時も嫌がったんだよ。ましてや、相手は毎日嫌みを言い合ってる奴だ。…で、そしたら、提督、なんて言ったと思う?」
雷「何?」
祐輔「…学校の皆のために活動してきたお前がこんなつまんないことで意地張ってるなんてがっかりだな、ってどやされたよ。…あいつも、曲がりなりにも、俺が学校の皆の役に立っている事は認めてたって事だ。方法はともかくとして。……それを言われて、半ば目が覚めた気がして、俺は自分が持ってた情報を提供したんだよ。…そしたら、提督は自身が手に入れた情報と俺の情報を組み合わせて、すぐにクサい人物を洗い出したんだよ。で、フットワークが軽かった俺がすぐさまその人物の元に急行したんだ。…そして、それが大当たりだった。」
電「…だ、誰だったのですか?」
祐輔「…実行犯は学校内に居た何人かの不良だったんだけど、主犯はなんと、教師の一人だったんだよ。…そして、そいつの動機がまた卑劣だった。そいつ、校内の何人かの女生徒に目をつけてて、その生徒たちの好みを知るために、筆箱とか、色々盗んでいたんだよ。」
暁「で、でも、男性の物も盗まれていたんじゃ…」
祐輔「ああ…それは俺も思い至った。だから話を聞いて乗り込む直前に、提督に聞いたんだよ。それじゃあ男子の品物が盗まれる理由にならないって。…そしたらあいつはあっさりこういった。『物を盗まれた女生徒と男子生徒は、ほとんどがカップルだった。…これを偶然とみるのは、いささか早計だと思う。』ってな。」
響「…どういう事?」
祐輔「それを直接教師本人に聞いたんだ。…そしたら、あいつ、平然とした顔でこう言ったんだ。『そりゃ当然、男子の方の弱み握って、バラされたくなかったら別れろって忠告するためだ。』って。」
雷「…それは忠告じゃないわ。たんなる『脅迫』じゃない…!」
話を聞く彼女達の顔が怒りに染まる。
祐輔「ごもっともだ。…当然俺もブチ切れて、つかみかかろうとしたよ。…そしたら、奴の手下の不良たちが出てきたんで、いつもの様にそれをぶちのめそうと…したんだが…」
暁「え?何か問題があったの?」
言葉を濁した俺に、暁ちゃんが首を傾げる。
祐輔「…全く歯が立たなかった。『鉄拳屋』と言われたこの俺の攻撃が、だ。…まあ、パワーで押し切ろうとして、しっちゃかめっちゃかに攻撃していたら、そりゃあ倒せるもんも倒せないけどな…お前らで言えば、陸奥さんや長門さんみたいな超弩級戦艦の艦娘が、単身で潜水艦の深海棲艦に立ち向かうみたいなもんだよ。」
響「…それは確かに無理だね。」
祐輔「…それで、何もできないままフルボッコにされて、地面に膝をついてしまったんだ。…無論、まだ戦う余力は残っていたけど、でたらめに攻撃しても効かないって事は分かったから、あまり動けずにいたんだ。」
電「…それで、どうしたのですか?」
祐輔「…ここまでか、と思ったら、提督も部屋にやってきたんだ。…それで、俺に攻撃の指示を出し始めた。そいつに従ったら、さっきまでの劣勢が嘘のように攻撃が命中し始めた。どうやらあいつ、部屋に来る前に、部下の不良たちの名前と、所属する部活までも調べていたみたいなんだ。そこから、有効な攻撃方法を見抜いていた。」
水を飲んで一息はさみ、俺は話し続ける。
祐輔「…今思えば、とんだ自惚れだけど、俺はそれまで、他人のいう事をろくに聞いた事が無かった。…先生の話でさえだ。…だからその時、初めて他人の指示に従ったよ。…あいつの指示は、的確だった。本当に、頭が上がらないよ。」
響「…そういえば、海域で深海棲艦と戦う時も、提督の指示って的確だよね。」
祐輔「へぇ。そうなのか。…昔からその片鱗はあったって事か。」
暁「…それで、犯人たちはどうなったの?」
続きが待ち切れないのか、暁ちゃんが続きを促す。
祐輔「俺が不良と悪徳教師を抑え込んだ後、提督から連絡を受けた教師たちがやってきたから、そいつらを引き渡した。当然、不良たちは退学、悪徳教師も、今回の件が教育委員会に知られたせいで、教員免許を剥奪されてそのまま雲隠れ。…対して、俺と提督は、校長から感謝状をもらった。」
電「すごいのです!かっこいいのです!」
祐輔「…その件を通じて、俺たちはすっかりお互いを信用して、わだかまりを水に流したんだ。事件の後で、俺とあいつは、その経験を活かして探偵クラブを立ち上げたんだ。」
暁「探偵って何…?」
祐輔「簡単に言えば、何か困っている人の力になる人の事だ。俺たちは学校の生徒や、街の人たちが困っている事を解決していったんだ。大半は無くし物とか、迷子のペット探しとか。俺は身体張って学校や町を駆けまわり、聞き込みをしたり手がかりを探す。提督は、俺が調査で得た情報をまとめて、新たな手がかりを見つける。次第に、駆け込み寺的存在として、学校の中だけでなく、街にも認知されていったよ。…まあ、依頼の内容によっては、事件の犯人とたまーに拳のケンカをやったりもしたけど。」
雷「そ、そこは変わっていないのね…」
祐輔「…あ、そうだ。実は提督は、あの事件の後から体鍛え始めて、たまに俺と一緒に殴り合いに参加した事もあったんだぜ?」
電「ええぇ!?司令官が、殴り合いですか!?」
響「司令官にも、そんな時期があったんだ…」
祐輔「…まあ、今となっちゃ、それもいい思い出話だ。あの頃の俺たちは、まだ大人になりきっていなかった。だからいろんなことで迷いながらも這い上がった。その選択や、やり方が正しかったのかは分からない…でも、一つだけ言えることがある。」
電「何ですか?」
祐輔「…俺はあいつと出会って変わったんだ。…あいつが居なかったら、今の俺は居ない。そう断言できる。」
「よお、祐輔、何やってんだ?」
ふと左から話しかけられ、そっちを向く。
祐輔「…噂をすればなんとやら、って奴か。」
電「…あ、司令官さん。」
提督「あれ?暁たちも、一体どうしたんだ?」
暁「今、祐輔さんに、司令官と祐輔さんの出会いを聞いてたの!」
提督「へぇ。俺たちの出会い、か…そういや、知っている奴はあまりいないな。」
祐輔「お前はどうしたんだ?」
提督「いや、仕事も一旦一区切りついたし、天気もいいから、気分転換に散歩してたんだ。もう戻るところだけどな。」
響「ねぇ、司令官。祐輔さんって、昔と変わった?」
響ちゃんのその質問に、提督は少し考えるそぶりを見せ、こういった。
提督「ああ。高校の時、生意気言ってたのが嘘みたいだ。ずいぶん丸くなったよ。」
祐輔「おい、聞こえてんぞ?」
提督「何か問題か?」
満面の笑みで返され、俺は返す言葉に詰まったが、それでも、ニヤリと笑ってこう言った。
祐輔「…へっ、言ってくれんじゃねぇか。…「優等生さん」。」
提督「そっちもだ。…「鉄拳屋」。」
「大人よ、大人の風格だわ…」と、暁ちゃんが呟く声が聞こえる。
提督「…ああ、そうだ。お前たち、そろそろ演習の時間だぞ。頃合いを見て、出撃ドックの方に行ってくれ。」
「「「「はい!(なのです!)」」」」
プライベートの顔から一転、「提督」としての顔になったあいつは、暁ちゃん達に指示を飛ばす。
…本当に、あいつには感謝に堪えない。
あいつと出会っていなければ、俺も今とは違って、こんな気楽に誰かと話すことは無かっただろう。
…だからこそ、鎮守府の警備員の仕事を、二つ返事で引き受けた。
提督や、あいつの仲間である艦娘たちの居場所を守る。
そうする事で、少しでも恩返しが出来れば。
そう思っている。
いかがだったでしょうか。
近々帰省がてら東舞鶴に行こうと思って、東舞鶴までの切符も取ったのに、9月末に舞鶴の方で艦これのイベントがあると聞いて、タイミングの悪さに愕然としている今日この頃。
それでは、また。