東方傭兵譚 〜The Mercenary and the Sage Trail〜   作:文才の無い本の虫

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―――これは、これから始まる物語の前日譚

―――知られる事の無い奇譚


―――さぁ、『東方傭兵譚』はじまりはじまり~☆






第零章「黒い鳥」
第0話「AD300」


 

 

 

 

黒い西洋の外套。切り揃えられた癖のある銀髪。手を包む黒い手袋。

 

そして燃えるような蒼い瞳。

 

廃墟の上に彼は居た。

 

 

「・・・・・出て来い、ゼルレッチ(・・・・・)

 

 

虚空に放った声に、空を裂いて数多の宝石を身に着けた男が現れた。

 

 

「おお、『黒い鳥』よ。腕は鈍っていない様だな」

 

 

「覗き見とは趣味が悪いな・・・・・で、何の用だ?」

 

 

銀髪の男――『黒い鳥』はゼルレッチに視線を向ける。

 

 

「うむ、『黒い鳥』、仕事だ。『朱い月のブリュンスタッド』を倒して欲しい。このまま放置するとちと面倒なのでな」

 

 

「・・・・・」

 

 

『黒い鳥』は少し眉を寄せ、また面倒事かとため息をつく。

 

 

「倒せるだろう?―――何もかもを黒く焼き尽くす、死を告げる鳥」

 

 

「・・・・・わかった。受けよう」

 

 

この仕事が終わったら取っておいた酒を飲もう。そう考え、『黒い鳥』はゼルレッチから場所を聞き、廃墟の屋根を蹴った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

暗い空に、不可視と弾丸と捻れた空間が交差し、火花が散る。

 

『黒い鳥』は空に浮かぶ影に向かって疾走っていた。

 

 

その影、月の最強種――『朱い月のブリュンスタッド』が『黒い鳥』に向かって手を薙ぐ。

 

 

「――――"捻れよ"」

 

 

瞬間、『黒い鳥』の進行方向の空間が歪む――

 

 

「脆い」

 

 

が、『黒い鳥』は右の拳を振り、捻れた空間自体に穴を穿つ。

 

『黒い鳥』は星の引力を無視したかのように『朱い月』に向かって地面を蹴って跳ぶ。

 

瞬く間に距離を詰められた『朱い月』は目を見開き、愉快そうに口を歪める。

 

 

「空間自体に穴を開けただと?拳で?・・・・・クククッ。貴様、本当に人間か?!」

 

 

「・・・・・。吸血鬼に言われたく無い台詞だな」

 

 

心外だと思いながら『黒い鳥』は『朱い月』へ殴り掛かる。

 

『朱い月』は魔術によりその拳を防御する。そして違和感を感じ取った。

 

 

「?・・・・・貴様、何故魔術を使わない?」

 

 

「俺は強化魔術は得意じゃない」

 

 

『黒い鳥』はそう言う。

 

『朱い月』は魔術から感じる手応え――軽く城壁を砕くレベルの衝撃――を魔術無しで成した『黒い鳥』を見る。

 

 

「・・・・・本当に人間か?」

 

 

「失礼な。あの宝石爺よりは人間だ」

 

 

「褒め言葉だぞ?―――"弾けよ"」

 

 

空間が爆ぜる。『黒い鳥』はそれを躱し『朱い月』に右の人差し指を向ける。

 

 

「―――"Burn(燃えろ)"」

 

 

『黒い鳥』の指先に魔法陣が展開。魔術により魔力が純粋な熱量に変換され、熱線として『朱い月』に向かって放たれた。

 

その熱線は『朱い月』の魔術防御を砕き、彼女の肩を焼き貫く。

 

 

「ッ?!・・・・・温いぞ!!」

 

 

『朱い月』は即座に肩の傷を修復、手を広げ、魔術を行使する。

 

 

「―――"墜ちよ"」

 

 

『朱い月』が生成した重力の檻によって『黒い鳥』が地面に向けて落下していく。

 

 

「とんだ茶番だな。本気を出したらどうだ?・・・・・『黒い鳥』」

 

 

「・・・・・はぁ」

 

 

隙を伺うために落ちていた振りをしていた『黒い鳥』は落下を止め、空に立つ。

 

そして右の手袋を取り、人差し指を『朱い月』に向かって伸ばし、親指を立て、それ以外の指を畳む。

 

即座に指の先に大中小の魔法陣が三重に展開。

 

 

「―――"Fire(業火)"」

 

 

光る。

 

『黒い鳥』の指先から極太の熱線が放たれた。

 

それは、光線と言うには熱すぎた。周囲の気温は焼けるように上昇し、進行方向にある障害物はその熱量に尽く焼き尽くされる。

 

 

「―――"捻れよ"ッ!!」

 

 

『朱い月』は空間を捻じ曲げるが、『黒い鳥』が放った熱線はその空間自体を瞬く間に熱し、隔てている『朱い月』をも高温で焼いた。

 

『黒い鳥』は再び『朱い月』との距離を詰め、複数の掌程度の大きさの魔法陣を右の拳の前に重なる様に展開し、それを腰だめに構える。

 

 

「"Compression(焚べる)"――」

 

 

魔法陣が重なって輪転し『黒い鳥』の魔力を純粋な熱量に変換。その熱量を一つの杭の形に圧縮する。

 

 

そして『黒い鳥』は能力(自身の異能)で保存していた時間を消費し『朱い月』の背後に回る。

 

 

「何時の間にッ?!」

 

 

「――"Release(焼き穿つ)"!!」

 

 

その杭は『朱い月』の背中に突き刺さり、『黒い鳥』の鍵言で圧縮していた熱量を開放する。

 

 

「ガアぁアアァ!!」

 

 

瞬間、『朱い月』が内部から焼かれる。その熱は太陽の黒点温度を上回る五千度。

 

基本的にこの高温で生物だろうと怪異だろうと生存することは不可能。

 

だが、『朱い月』は体の中心に穴が空き、殆どの部位が炭化しているが・・・・・立っていた。

 

 

「・・・・・火力不足か?」

 

 

『黒い鳥』の声に『朱い月』は瞬時に体を修復させ、言う。

 

 

「いや、普通の使徒ならば死んでいるさ・・・・・まさか、使うことに成るとはな―――原理血戒【赤】」

 

 

『朱い月』の周囲が赤く染まって行く。

 

ああ、面倒な事になったな。『黒い鳥』はそう思いながら展開していた魔法陣を消し、周囲に気を配る。

 

 

「さて、『黒い鳥』。仕切り直しといこうか」

 

 

赤く染まった空間が『黒い鳥』に牙を剥く。

 

しかし『黒い鳥』は手脚で空間自体を打撃して防ぐ。

 

 

「・・・・・指図、空間の隷属と言ったところか」

 

 

「ああ、その通りだとも」

 

 

空間が『朱い月』の矛であり盾。

 

『黒い鳥』が熱線をばら撒くも空間によって遮断され、『朱い月』まで届かない。

 

 

「・・・・・貴様の強さは称賛に値する。これで屠ってやろう!!」

 

 

攻撃を止め、『朱い月』が手を掲る。するとその掌の上に小さな月が出現する。

 

本物では無いが、全てがエネルギーで構成された月の破壊力は小さな島ならば消し飛ばすだろう。

 

 

「――――では、落ちろ」

 

 

月が落ちてくる。

 

指図『月落とし』と言ったところだろう。

 

『黒い鳥』はその真下で――――拳を構え、魔法陣を展開した。

 

 

「・・・・・砕こうというのか?!」

 

 

「――――"Compression(焚べて)"、"Compression(焚べて)"、"Compression(焚べて)"、"Compression(焚べる)"」

 

 

魔力の熱量への変換、そして圧縮の魔法陣。その二つの魔法陣が重なって輪転する。『黒い鳥』は自身の魔力全てをつぎ込む。

 

『黒い鳥』の拳の前には凄まじい熱量を圧縮して成形された杭が一つ。

 

その杭の先は落ちてくる月と『朱い月』に向いている。

 

そして『黒い鳥』は拳を杭を穿つ様に振るい、鍵言を発声する。

 

 

「――――"Release(焼き尽くす)"ッ!!!!」

 

 

瞬間、杭は圧縮された熱量を開放した。

 

開放された熱は周囲を焼き払いながら進んで行く。

 

灼熱の中、『黒い鳥』は勝利を確信し、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後頭部に地面の硬さと生温い液体の感触。そして全身の至る所からの激痛。

 

『黒い鳥』は爆心地で最悪の気分で目覚めた。

 

 

「痛っ・・・・・」

 

 

「む、起きたか」

 

 

「・・・・・アレまで使って火力不足か?」

 

 

「いや、足りたとも。此方を向いてみろ」

 

 

真横から聞こえた『朱い月』の声に横を向く。

 

そこには中ぐらいの石を背に『朱い月』が座っていた。

 

だが『朱い月』は胴体の左側が抉られており、さらに吸血鬼にとっての力の源である血を傷口から大量に流し、失っていた。

 

『黒い鳥』は自身が五体満足であることを確認するが、傷は多く、最後の魔術による反動で右腕にいたっては辛うじて繋がっているというのが正しい。

 

要するにお互い瀕死の重傷であった。

 

 

「・・・・・お互い酷い有り様だな」

 

 

「ああ・・・・・」

 

 

『黒い鳥』は身体の治癒が始まっているのを確認しながら『朱い月』に言う。

 

 

「『朱い月』、お前は強かったよ」

 

 

「私も愉しめた・・・・・もうすぐ死ぬというのに悪く無い気分だ」

 

 

『朱い月』はそう言って薄っすらと笑う。

 

その時、ぴしりと音がした。

 

 

「?」

 

 

その音に『黒い鳥』は周囲を見渡し、状況を把握してため息をついた。

 

 

「・・・・・はぁ、短い人生だった」

 

 

「どうした?」

 

 

「俺達の戦闘で空間が歪んだみたいで空間が閉じてる。このままだと内側に爆ぜるな」

 

 

「ふむ、抑止力も動いているな・・・・・台無しだ」

 

 

空間に歪みが生じていく。

 

ゼルレッチでもこの空間に入ってくることは無理だろう。そして本調子でない『黒い鳥』では出ることはかなわないという事でもある。

 

『黒い鳥』は起き上がって『朱い月』の隣まで歩き、腰を下ろした。そして『黒い鳥』は能力(自身の異能)で保存してあったスキットルを二本取り出す。

 

そしてそのうちの一本を『朱い月』に渡した。

 

『朱い月』は残っている右手でスキットルを受け取り手の中で転がす。

 

 

「コレは・・・・・酒か?」

 

 

「ああ。『朱い月』、安酒だが最後に一杯どうだ?一人で飲むより他の奴と飲んだほうが美味いもんだ」

 

 

「最後に、か・・・・・頂こう」

 

 

『黒い鳥』はスキットルを『朱い月』のスキットルにカチリとぶつける。

 

 

「「乾杯」」

 

 

周りの歪みが酷くなり、もう少しで空間が爆ぜる。

 

 

「ほう・・・・・安酒にしては美味いものだ」

 

 

「悪く無いだろう?」

 

 

「ああ。悪く無い。一人で飲むよりも美味く感じる」

 

 

「そうか、それは良かった・・・・・そろそろか」

 

 

ぴしりと空間に亀裂が走る。

 

『黒い鳥』は『朱い月』に声をかける。

 

 

「じゃあな、『朱い月』」

 

 

「ああ、愉しかったよ『黒い鳥』」

 

 

瞬間、一帯の空間が爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやー、間に合って良かったよ〜☆・・・・・うん、何処に辿り着くかは君次第だよ?イレギュラー君?』

 

 

『あ、でもアーマード・コア世界とインフィニットストラトス世界は除外しておくね☆』

 

 

『お?・・・・・・・くふふふ、面白いとこに辿り着いたね!!これは長い物語になるかも!!お兄ちゃんとお姉ちゃんも呼んであげよう☆』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、『黒い鳥』は『朱い月』と相打ちか・・・・・少し寂しくなるな」

 

 

 

 

 

爆心地――――円状にくり抜かれた土地の真ん中にゼルレッチは立っていた。

 

一帯には『黒い鳥』と『朱い月』の痕跡はなく、この世界から『黒い鳥』と『朱い月』は消えたのだった。

 

そう、空間が爆ぜただけの筈なのに(・・・・・・・・・・)何の痕跡も残さずに消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう――――『黒い鳥』は・・・・・この世界には(・・)、もう居ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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