スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~ 作:高田正人
あらすじ;主人公のセシルは仲間のサムライの少女、スミレと食事をしていると、二人組の冒険家に絡まれた。スミレの細い剣と細い腕を馬鹿にする二人組に、スミレは二人の持つ盾を斬ってみせると言うのだった。
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僕の名前はセシル。妹のアンナと一緒に新米の冒険家として活動している。一応ナイトの僕だけど、見習いでしかない僕の活躍なんてたいしたことはない。むしろ語りたいのは、僕の所属するパーティのゴリゴリのアタッカー、スミレのことだ。名前の通り可憐な花のような容貌とは裏腹の、超が付くほどの戦闘民族である東国のサムライの活躍を。
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その日、僕とスミレはギルドに併設された食堂にいた。僕がパスタを食べるその隣で、スミレは黙々とリゾットを味わっている。綺麗な東国の着物を着たお淑やかそうなお嬢様――それがスミレだ。特徴のない僕の外見とは正反対の、人目を惹く華やかな容貌だと思う。黙っていれば、お忍びでこの国にやってきたお姫様だと思う人も多いかもしれない。
「セシル、この粥は美味しいですね」
「よかった、口に合って。こっちじゃスミレの国の食事はほとんどないから大変だよね」
「故郷の味は懐かしく思いますが、探せば扱っている店はありますよ」
「本当?」
そんなたわいもない話を僕たちがしていた時だった。
「なあ、サムライだのなんだの言って、本当はどいつもこいつも大したことはないな」
「ああ。まったくだ。東の果てからやってきたただの寄せ集めだな」
僕たちの後ろの席から、そんな声が聞こえてきた。ちらりとそっちを見ると、大柄な男の人の二人組が座っていた。恐らくこの町に来たばかりの冒険家の二人組なんだろう。テーブルに置かれている食べかけの皿やジョッキから察するに――お酒をかなり飲んでいるみたいだ。
サムライを大声でバカにするなんて。僕はなんだか嫌な気分がした。僕の隣のスミレはそのサムライだからだ。ちらりとスミレの方を見ると、聞こえているのか聞こえていないのか、まるで反応する様子はない。まあ、スミレのことだから絶対聞こえているだろうなあ。
「そもそも、奴らの使うあの剣は何だ?」
「ああ、あの細く曲がった剣か。連中、あれをやたらと大事にしているらしい。なんでも、魂が宿っているとか」
「まさか、あんな細くて脆そうな剣にか?」
「はははははっ。迷信深い連中だな」
二人組はスミレに気づかないのか、大声でそんなことを話している。僕は気分が悪くなるどころかハラハラしてきた。スミレはどんな反応をするのか。
でも、やはりスミレは特に動じた様子もない。静かにスプーンを口に運んでいる。このまま何事もなく、食事を終えて店を出られれば……と思った時だった。
「なあ、お嬢ちゃん。そんな剣でどうやって戦うんだ? 教えてくれよ」
「剣だけじゃなくて腕も細いじゃないか。フォークとスプーン以外持ったことがないんじゃないのか?」
どうやら、スミレがいることは気づかれていたらしい。
「隣のへなちょこナイト様に守ってもらってるのか?」
「さすがはお姫様だな。はははっ」
二人組がそうはやし立てると、スミレはぴたりとスプーンを持つ手を止めた。それからゆっくりと振り返って立ち上がる。拍子に椅子が倒れたけど、気にも留めずにつかつかと二人組の方へ歩み寄る。
「細腕――と申されましたか?」
食堂が静まりかえった。周りの冒険家たちが一斉にこちらを注視している。僕も慌てて立ち上がった。スミレではなく、二人組を心配して。
「ス、スミレ? あのさ……」
酔っぱらっている人に構っても仕方ないよ、と言って、僕は穏便に解決するつもりだった。さっさと出て行けば一晩で忘れてしまう出来事だ。
「『わいん腕はほんのこと細か。まるで小枝んごたる』」
次の瞬間、スミレの口から聞き慣れない言葉が飛び出した。
「え? は?」
「『お前の腕は本当に細い。まるで小枝のようだ』と御爺様がおっしゃっていたのを思い出します」
次の瞬間スミレの言葉は標準語に戻る。多分、猛烈に訛っているんだろう。僕だって田舎出身だから訛るのは分かる。
「なんだお嬢ちゃん、本当のことを言われて怒ったか?」
「じゃあどうする? ん?」
二人組は完全にスミレを侮ってるらしく、椅子に座ったままじろじろと遠慮なく彼女を見ている。
「ねえ、帰ろうスミレ。別にこれくらい……」
いいじゃないか、と僕は言うつもりだった。けれども、スミレは横目で僕をわずかににらむ。完全に敵を前にした目だった。
「『武家んおなごが細腕ち言われて黙っていらるわけがあっか』」
スミレはどなったわけじゃない。でも語気がわずかに強まっただけで猛烈に凄みがある。
「『そいに、こん二人はおいん刀も細かと侮ったんじゃ。許せん。目にもん見せてやっでな』」
きつい方言で凄まれると迫力がありすぎる。
「――と、御爺様でしたらおっしゃることでしょう」
けれども、すぐにスミレはいつもの穏やかな口調に戻る。僕が見ている前で、ゆっくりとスミレは腰の刀を抜く。確かに二人組が言う通り、スミレの刀は僕たちの使う剣に比べて細くて薄く見えるかもしれない。でも僕は知っている。この刀を抜いたスミレがどれほど強いのかを。並み居る敵を、まるで雑草を刈るように斬殺していくのを。
「お二方。その盾――」
スミレは刀を右手で持ち、視線を二人組からずらした。彼女の視線の先には、二人組の片方の装備らしい、恐ろしく分厚くて頑丈そうな長方形の盾があった。
「それを私が断てれば、先程の細腕という言葉を取り消して下さいますか?」
スミレの言葉には憤慨も虚勢もない。ただ淡々と「自分はできる」という自信だけがあった。
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