スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~ 作:高田正人
あらすじ:回想。セシルたちのパーティは食堂で雑談に花を咲かせている。
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これは、僕とスミレが結晶カマキリを討伐するよりも少し前のこと。密林の捕食者を仕留めたスミレが僕たちのパーティ、ストームキャットに入ってしばらくしてからのことだ。場所は冒険家たちの宿屋「黒猫の演奏会亭」。僕たちのパーティといいこの宿屋といい、猫という言葉がよく使われているのは、猫が道化の神の従者とされているだからだ。
そこの食堂で、僕たちは食事をしながらちょっとした懇親会を開いていた。このあたり、熟練のレンジャーのローガンさんは本当に面倒見がいい。僕はちょっと人と話すのは苦手だし、イザベラさんはいつも帳簿とにらめっこ、アンナは人見知りしないけど、まだ小さい。そしてスミレは刀のことしか頭にない戦闘狂。
こんな雑多な集まりをまとめてくれるのがローガンさんだ。やっぱりこの人はリーダーに向いてるなあ。頼りがいがあるし、ピンチの時も落ち着いて指揮してくれる。ただ……後先考えないでお金を使っちゃうのだけは困るけど。弱いくせにギャンブルが大好きだし。この人が賭けた馬は即刻本命からはずせ、とギャンブラーの間では有名らしい。
僕たちは遺跡産のワニのステーキを切り分けながら、それぞれ思い思いに口に運ぶ。鶏肉っぽい淡白な食感がおいしい。スミレは箸で丁寧に食べている。この子は刀を握れば容赦ないけど、こうやっていると清楚で生け花みたいにきれいなんだよなあ。
「セシル。お前にとって自分の職業であるナイトの心得はなんだ?」
一通り今後のプランを話し合った後、ローガンさんはジョッキの麦酒でいい感じになった顔で僕に聞いてきた。これは雑談だけど、こういうふうに初心を改めて口にできる機会は助かる。そうしないと、僕たちは冒険家としての仕事に忙殺されてしまうからだ。
「ええと……僕はナイトとして、パーティを守ることが役目だと思っています」
「なるほどなあ。その心構えは大切だが……俺としちゃもっと欲を出してもいいと思うぜ」
「欲ですか? でも僕は……」
「いいから言ってみろって。お前は騎士だけじゃなくて冒険家なんだ。大義だけで盾を構えちゃ疲れるだろ。本音はなんだ?」
「本音、と言われても……」
僕は首を傾げるしかない。ローガンさんにそう問われても心当たりがない。
「たとえば……そうだなあ。好きな子とかいるのか?」
にやりと笑いながら放ったローガンさんの言葉に、思わず僕はフォークを取り落として叫んだ。
「なっ!? い、いませんよそんなの!」
「おいおい、マジな反応するなよ。そういう真面目な話じゃなくてさ。お前、このパーティで気になる子くらいいないのか?」
そんなこと言われても。ローガンさんをのぞいて残りはみんな女性だ。アンナは僕の大事な妹。そして誰が見てもイザベラさんはローガンさんのことが大好きなのは分かる。本人は絶対に認めないけど。僕は自然とスミレを見てしまう。スミレは相変わらず、表情一つ変えずに箸でムニエルをつついている。
「……なにか?」
「いや、なんでもないから」
顔を上げたスミレと目が合い、僕は慌てて目をそらした。そりゃあ、スミレはすごく美人だ。僕と同じくらいの年齢の少女なのに、立ち居振る舞いが熟練の冒険家でも出せない落ち着きで満ちている。びっくりして飛びのいたり、落ち着きを失ったりしたのを見たことは一度もない。でも、一見するとか弱い女の子なのは外見だけだ。
実際は、目の前に斬り落としたモンスターの首を並べてうっとりしているような、超絶武闘派の戦闘民族。僕がかなう相手じゃない。もし付き合いたいと僕が言って「では、私に勝てたならば操を捧げましょう」なんて言いながらスミレが抜刀したら僕は逃げるね。逃げても追ってくるだろうけど。そして追いつかれて首をはねられるのがオチだ。
「ほら、言ってみろよ」
「そ、それは……みんな仲間ですし」
僕はナイトだ。パーティを守るのが仕事であって、特定の女の子に私的な感情を向けるのはふしだらだ。でも、僕の弁明をローガンさんは鼻であざ笑った。
「はあ。お前、それ本気で言ってるのか? パーティ内で恋愛感情が生まれるのは別に珍しいことじゃないぞ。そうだろ、イザベラ?」
ローガンさんが何気ない様子で、隣でウイスキーをロックで飲んでいるイザベラさんに話題を振る。
「はああ!?」
一気にイザベラさんの顔が真っ赤になった。イザベラさん、年上のローガンさんが好きすぎるの、僕たちの目から見ればバレバレなんだけどね。ローガンさんは本気にしてないし、イザベラさんは否定するから未だに進展がないけど。
「なんであたしに振るのよ!」
「だってイザベラ、お前が前いたパーティで色恋沙汰が絶えなかっただろ?」
「そのせいであのパーティ解散したのよ! 忘れたの? リーダーのバカ野郎が三股かけたのがばれて全員から半殺しにされたのよ!」
「あ、そうだったなあ。悪い、忘れてたわ」
なにその不届きなリーダー。ふしだらすぎるんですけど。
「もう、最悪。思い出したくもないのに……あれは地獄のような日々だったわ……まともなのが私だけで本当に苦労したんだから」
イザベラさんが頭を抱えてうなだれる。
「女の人の純情を弄ぶなんて許せませんね」
僕の隣でフルーツの盛り合わせを食べるアンナが、ぷんぷんと怒っている。くれぐれもアンナは、そんな悪い男に引っかかって欲しくない。
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