スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~ 作:高田正人
あらすじ:スミレは自分の冒険家としての心得は武士として死ぬことと平然と言う。その前のめり過ぎる思考に、ローガンはセシルをお守りとして組ませるのだった。
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「ええそうよ、アンナちゃん。いい? 成人したらちゃんとした職に就いているまともな男と交際しなさい。冒険家は大抵馬鹿かクズか社会不適合者だから。できるなら役人、もしくは法律関連の仕事についている男がいいわ。そもそも……」
「あはは……お兄ちゃんは立派な冒険家ですよ」
まくし立てるイザベラさんにアンナは笑いながら反論する。
「セシルは例外よ。あなたの兄さんは珍しくまともな冒険家なんだから」
イザベラさんはそう言って僕を誉めてくれる。いや、一緒にこのパーティの資金難の対策を考えただけなんだけど。
「まあいいわ。話題変えましょう。ねえスミレ、あなたも食べてばかりいないで話に加わりましょうよ」
イザベラさんがグラスを置いて隣のスミレを見る。
「失礼いたしました。膳の食事があまりに美味なもので」
スミレは箸を置いてこちらを向く。結構食いしん坊なのかな、この子。
「ナイトのセシルの心得は、仲間を守ること。私はドクターだから、皆を無事に冒険から帰還させるのが心得。軽い気持ちで答えてほしいけど、あなたはサムライでしょ。サムライの心得ってどんなのかしら?」
イザベラさんがカールした長い金髪をいじりながらスミレに尋ねる。スミレは一口水を飲んでから、平然と答えた。
「武士道とは――死ぬことと見つけたり。いかに生きるかではなく、いかに死ぬかこそが肝要なのです」
「……はい?」
「私の故郷の言葉です。つまり、何のために生きているかではなく、何をして死にたいかを考えろということです」
「うわあ……サムライらしいわね」
平然と「死」を口にするスミレに、僕たち全員は引いていた。確かに冒険家である以上危険とは隣り合わせだけど、ここまで覚悟はしていない。
「おいおい、スミレ。そりゃちょっと穏やかならねえな。親御さんからもらった命だろ? そうやすやすと捨てることばかり考えるなよ」
ローガンさんもスミレをたしなめる。
「朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり、と申します。私は、自分が生きていくために戦うのではなく、意味ある戦の中で死ぬために戦っております。もっとも、大義のため、主君のため、故国を守るために剣を振るうのもまた、武士として正しいあり方であると考えていますが」
ローガンさんの苦言にも、スミレはまったく動じる様子はなかった。
「お堅いねぇ。俺としちゃあ、お前さんみたいな若い子を神殿に持っていくのはかなりきついんだぜ。そういうことはさせないでくれよ?」
遺跡は道化の神の作った異界だ。だからそこで死んでも地上の神殿で蘇生の可能性がある。冒険家がパーティを組むのはそれが理由だ。でも、必ずしも蘇生できるとは限らない。命は結局一つしかないのが現実だ。
「ということで、おいセシル」
「はい?」
ローガンさんがにやりと笑って、僕の肩をバシバシと叩く。
「このサムライの嬢ちゃんが死なないよう、お前が守ってやれよ。お前はナイトなんだからな」
「む、無理ですよ!」
僕は当然突っ込みを入れる。僕なんかが盾を構えてもスミレの足手まといにしかならない。
彼女の緩急自在の足さばきが、絶対僕のせいでできなくなるのが目に見えている。足を引っ張って呆れられるならまだいい。スミレの性格からして、「寄らば斬ります」と言ってくるかもしれないし、「あまりにも邪魔なので斬りました」と事後報告するかも。
「ナイトの心得はどうしたんだよ。仲間を守るのがナイトだろ? お前の盾は飾りか?」
「スミレが僕のような見習いナイトの盾を必要としますか? 絶対にしませんよ!」
イザベラさんがため息をついてスミレに尋ねる。
「セシルはこう言ってるけど……スミレ、あなたはどう思う?」
スミレが僕を見た。絶対に「いりません」と言うと僕は思っていた。それなのに……
「私は防御は不得手ですので、よろしくお願いします」
そう言ってスミレは頭をぺこりと下げた。
「え? え? それでいいの? 僕、邪魔じゃない? 盾が目の前にあったらうっとうしくないの?」
「その程度で剣が乱れるようでは、武士として未熟もよいところ。暗闇の中、線香の火だけを頼りに、濡れた紙を敷き詰めた座敷で真剣勝負を行う修行に比べれば、目の前の盾程度無きに等しいものです」
スミレが変なことを言いだした。いや、この子は元から刀に関することなら毎回突拍子もないことを言ってくるんだけど。
「濡れた紙?」
「一枚でも破れれば失敗です。明鏡止水の境地に至れば、体重を乗せることなく真剣勝負を行うことも可能ですから。兄上も姉上もこの方法で私と稽古して下さいましたが、常に紙を破るのは私だけでした」
僕たちは絶句するしかなかった。いつもはスミレの突拍子もない発言も受け入れているアンナさえ、イザベラさんと顔を見合わせて唖然としている。
「いずれにせよ、私はまだ半人前。剣聖の境地に遠いのは周知の事実です。ローガン様の計らいに感謝いたします」
一通りそう言うと、改まった様子でスミレは僕を見てもう一度頭を下げる。
「セシル。よろしくお願い致します。あなたが私の盾となって下さるのならば、私はあなたの懐刀となりましょう」
「あ、うん。スミレがそう言うなら、もちろん僕も頑張るから」
僕にできることがあれば、だけど。スミレはパーティでは遊撃というか、ローガンさんが僕たちの援護で正面突破するから、スミレは必要に応じて柔軟に立ち回っている。
そもそも、いつの間にかモンスターの背後とかに回り込んで、一撃で仕留めていることが多い。だから僕の出番はないんじゃないかなって思ってるんだけど。
「それぞれの持ち場の連携がうまくいくように、お互いの力量を把握しておくのは悪い話じゃねえよ。俺としちゃあ、セシルをスミレが鍛えてくれれば御の字さ」
ローガンさんが無責任なことを言って笑ってる。
「よかったね、お兄ちゃん。これで無敵だよ」
アンナも僕とスミレが組むことに賛成みたいだ。まあ、僕はパーティの防壁で一番怪我をすることが多いから、アンナとしては安心かもしれないけど。
「アンナ、無敵などというものはこの世にはありませんよ」
しかし、アンナの発言をスミレが訂正する。
「そうなの?」
「ええ。だからこそ私たちは腕を磨くのです。斬れるのであれば、神仏さえも斬殺してみせると心に定めて」
……やっぱりこの戦闘民族に盾なんて不用じゃないかなあ。僕たちナイトは教会所属が多くて信心深いんだけど。神様に刃を向けるなんて不敬は絶対できないし。
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