スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~ 作:高田正人
あらすじ:セシルとスミレの武者修行。死闘の後、スミレはセシルに抱き着く。強敵と戦うと興奮する戦闘民族の思考である。
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遺跡のとある階層。「灼熱の洞窟」と呼ばれるそこは、あちこちから溶岩が吹きあがり、赤黒い岩がごろごろ転がる荒涼とした景色が広がっている。天井からは巨大な鍾乳石が垂れ下がり、時折音を立てて割れて破片が落ちてくる。まるで世界の終わりのような光景の中で、僕とスミレはこの階層の領主と対峙していた。
溶岩ムカデ。この溶岩が流れる地形に完全に適応した複眼だ。全身を真っ赤に染めた巨体。その顎からは常に高温の熱気が漏れ、周囲を揺らめく陽炎がその体温の高さを物語っていた。岩をも溶かす高温の体液を牙から垂らしつつ、尾でからめとった溶岩をこちらに向かって飛ばしてくる。耐熱の権能がなかったら、一瞬で骨まで焼かれる攻撃だ。
僕は盾を構え、次々と襲い来る溶岩の弾丸を受け止める。
「走って! スミレ!」
「承知」
僕の背後から、体重がないかのように軽やかにスミレが駆ける。ムカデが大顎を大きく開けた。熱波を放つつもりだ。
「させるか!」
僕も走る。片足を軸にして身をひるがえすスミレを横目で見ながら、僕は渾身のシールドバッシュを繰り出した。
熱波を吐き出そうとした瞬間、ムカデの頭が大きくのけ反る。スミレはその隙を逃さず、上向いた喉笛に刀を振るった。高温の体液が噴き出す。僕は盾を構えてそれを受け止めるのと同時に、スミレが盾を踏み台にして跳躍した。
「――お覚悟」
ムカデの体に着地したのと同時に、スミレの刀が滑らかに鍔の辺りまでムカデの首筋に埋まった。
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ゴリゴリと音を立てて、スミレはムカデの首を刀で切り落としていく。あんな剃刀みたいによく斬れる刃なのに、欠けたり曲がったりしないどころか、ノコギリみたいな強引な扱い方でもしっかり切れ味を維持している。本当に不思議だ。どさり、と落ちたムカデの生首を見て、相変わらず恍惚とした表情のスミレ。いつもながらちょっと怖い。
「これで、この階層の領主は討伐完了だね」
「はい。素晴らしい守りでした、セシル」
僕のつたない防御を、スミレが誉めてくれるのは嬉しくはある。結晶カマキリの討伐後、僕とスミレはストームキャットから独立して、こうして二人だけで依頼をこなすことも多くなった。正確には、スミレの武者修行に僕が付き合う形だ。
「あはは……生きた心地がしないけどね」
「それでよいのです。死地こそ最良の師です」
やっぱり、この子とは微妙に価値観が合わないなあ。
「では――失礼して」
一通り解体を終えたスミレは、体液の付いた刀を丁寧に懐紙で拭って鞘に納めてから、僕に抱きついた。ぎゅっと彼女の手が僕の背中に回る。スミレの息遣いと、熱い体温を感じる。
スミレは僕の胸元に顔をうずめて、深々と息を吸う。汗臭くないかな、と気が気じゃないけど、スミレは全く気にする様子はない。
「ああ――死闘の後、あなたに抱かれるのはなんと甘美なのでしょう」
一応僕はスミレを抱きしめる形ではある。でも、どう見てもスミレの方が僕を抱いてる体勢なんだけど。
「死闘の後、っていう前半がなければすごくいいんだけどね……」
「はしたないではないですか。自分から殿方に求めるなど」
「死闘の後ならいいんだ……」
僕は苦笑する。まあ、こんな感じのやりとりにももう慣れてきた。スミレは強敵を倒した後とかには、こうやって僕にじゃれついてくる。最初は驚いたけど、今ではこれも日常の一部だ。
スミレは戦いを通して、あの結晶カマキリとの死闘を何度も反芻して興奮しているみたいだ。それほどまでに、スミレにとってあの領主との戦いは衝撃的だったんだろう。つまり……スミレは僕を感じているんじゃなくて、とっくの昔に素材と大金に変わった結晶カマキリを感じているんだろうな。何となくそれは物寂しかった。
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