スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~ 作:高田正人
あらすじ:セシルは勇気を出してスミレをデートに誘い、受け入れられる。
◆◆◆◆
溶岩を避けながら、僕とスミレは帰路についていた。道化の神が戯れに作っただけあって、遺跡にはあちこちに「換地」と呼ばれる場所があって、そこにたどり着けばすぐに遺跡から出られる。まるでここは、冒険家たちを育てる修行の場所みたいだ。それはともかく。
「ねえ、スミレ」
「はい、何でしょうか?」
僕は隣を平然と歩くスミレに問いかける。ちなみにスミレは、当然あの溶岩ムカデの首を公器に放り込んでいた。溶岩ムカデの原盤は僕が所持したけど、スミレが欲しがっているのは相変わらず首だ。きっと地上に戻ってから取り出してうっとりと眺めているんだろう。容易にその様子が想像できるし、何よりも怖い。
「その……今度どこか一緒に出掛けない?」
勇気を出して言った僕の言葉を聞いたスミレは、特に驚く様子もなくうなずく。
「ええ。武者修行でしたらどこへでもご同行いたします」
「いや、そういうのじゃなくてさ」
この戦闘民族。男の僕が勇気を出して誘ったのに、それを即座に戦うことにしか結びつけないなんて。
「休日とかに、どこかにスミレと一緒に遊びに行きたいんだ。おいしいものを一緒に食べたり、きれいなものを一緒に見たりしようよ」
僕はそこまで言って恥ずかしくなってきた。こうやってスミレとパーティを組んでも、ほとんど遺跡内でしか行動を共にしないのも少し寂しかったからだ。個人的な付き合いが全然なかったからなあ。
今までの休日は僕は礼拝やボランティアだったし、スミレは鍛錬だった。でもこうやって死地を何度か潜り抜けたんだから、せめてもうちょっとくらいは親しくなりたかった。
「それはもしかして――逢引の誘いでしょうか?」
大真面目な顔でスミレは問いかける。
「あ、うん。その、デートみたいなものだと、思ってくれると嬉しいんだけど……」
僕としては、戦う時よりも普段の日常のスミレを見たかった。あ、でもこの子戦闘民族だから「不埒な。もののふにそのような遊興など不要です」ってあっさり断られるかも。失敗したかな、と僕が思った時だった。見る見るうちにスミレの顔が赤くなっていく。
「あ、あ、あの、その、セシル…………」
「え? ええ!?」
僕が戸惑った声を出すと、スミレは俯き加減になって頬を両手で押さえた。
「そ、そんなことを言われると、わ、私、困ってしまいます。セシル、私は、どうすればよろしいのでしょう……?」
「ごめん、嫌だった……?」
「いえ、むしろ嬉しいのですが……その、殿方にそんな誘いを受けたのは初めてで、は、恥ずかしくて……」
ええ……? あの階層の領主の息の根を止めてから、興奮冷めやらぬ様子で僕に抱き着いては息を荒げていたあのスミレが、今はまるで深窓の令嬢みたいに恥ずかしがっている。なにこの初心な反応。可愛いけど……予想外すぎた。僕は意を決して、スミレの手を取った。騎士らしく膝をついてみる。
「僕が君とデートしたいんだ。君と戦うだけじゃなくて、健やかで素敵な時間を一緒に過ごしたい」
「セシルがそう仰るのでしたら――あなたのお誘い、謹んでお受けいたします」
スミレは真っ赤になりながらも、僕の手をそっと握ってくれた。
「……嬉しいです、セシル。逢引の当日は私も刀を置き、一人の乙女としてお供いたしましょう」
うわあ、こういう殺し文句はぐっと来るなあ。まるでスミレの刀のように、防御なんて無視して僕の心臓にまで一撃を加えてくる。改めて、一人の女の子の気持ちと時間を引き受けるという責任に、僕も身が引き締まった。ナイトとして望むところだ。
「精一杯エスコートするよ、君を」
「はい。どうぞ私を連れて行って下さいませ」
◆◆◆◆