スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~ 作:高田正人
あらすじ:デートに至るまでのセシルとスミレのそれぞれのお色直し。
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そして待ちに待ったスミレとのデートの前日。僕は緊張で盾の持ち方も忘れそうになるくらいだった。あんな風に勇気を出してスミレを誘ったけれども、実のところ僕は未だかつて女の子と付き合ったことはおろか、デートしたことさえない。そんな見習いナイトが、いきなりあんな綺麗なサムライの女の子とデートする幸運を手にしてしまったのだ。
「これでいいでしょうか? ローガンさん」
僕は自室の鏡の前で、何度も何度も全身を確認する。この日のために服を新調したけど、気取りすぎていないか、スミレが隣に立ったらおかしくないか気になって仕方がない。
「おいセシル、これで何度目だ? 俺はいいって最初から言ってるだろうが」
椅子に座ったローガンさんが死んだ目でそう言う。
「ですけど、僕は心配で心配で……」
「はぁ……まさか式典用の甲冑を借りて着るんじゃないだろうな」
「そ、そこまではしませんよ。いくらなんでも」
完全に混乱している僕を見て、ローガンさんは一度ため息をついてから、立ち上がって僕の肩を叩く。
「とにかく、今のお前はいい男だ。安心しろ、自信を持て、ナイトなんだろ?」
「は、はいっ!」
「スミレをしっかりエスコートしてやれ。あの嬢ちゃんだって、お前に惚れてくれるさ」
惚れる、という言葉に僕は跳び上がる。
「ほ、惚れるなんて、そんな大げさな……!」
でも、ローガンさんは真面目な顔で続ける。
「なんてったって、お前はベテランの冒険家だって逃げ出すような結晶カマキリを相手に踏みとどまったんだ。そうだろ?」
ローガンさんの言葉に、少し緊張が和らいだ。そうだ。僕はスミレと共にあの圧倒的な強者と対峙して生き残ったんだ。それを思い出せ。あの恐怖に立ち向かった勇気を思い出せ。
「俺が保証する。お前はいい男だ」
ローガンさんはもう一回僕を元気づけるように肩を叩いてから、にやりと笑った。
「まあ、朗報を期待してるぜ。見習いナイト様」
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一方同じ頃。スミレの部屋では彼女の衣装選びにイザベラとアンナが付き合っていた。というより、スミレを着せ替え人形のようにして二人があれこれ服を着せているのが実状だ。しかし、当のスミレは大人しくそれに付き合っている。一通り故郷から持ってきた着物に袖を通した後は、デートと聞いてイザベラが自腹で買った洋服にスミレは袖を通す。
「よし、完成ね。上出来だわ」
「わあ……よく似合ってますよ、スミレさん」
鏡の前に立つスミレは、普段の着物姿ではなく洋服を着ていた。スカートに慣れないのか、何度かスミレは足元を見てから、改めて鏡の中の自分を見る。
「お二人とも、ありがとうございます」
「髪型は変えた方がいいかもしれないわね」
「でも、これはこれで可愛いですよ」
イザベラとアンナは、鏡に映るスミレの艶姿を口々に誉めそやす。実際、普段いつも和装のスミレが洋装だと新鮮味があるが、その根底にある楚々とした雰囲気は欠片も損なわれていない。黙っていれば東洋からお忍びでやって来た貴族かと思われてもおかしくない。
「いつも東の国の着物姿だから、洋服姿は新鮮ね。いや~、楽しかったわ」
上下だけでなく靴や小物まで揃えるのに結構な出費だったにもかかわらず、イザベラは完全にやり遂げた顔で満足げだ。
「イザベラ様、過分の計らいありがとうございます」
「いいのよ。うちの男どもはおしゃれなんてちっとも分かんないから、ストレスが溜まってたのよ。まったく、ローガンの顔についているのは眼球じゃなくてガラス玉かしら?」
イザベラはため息をつく。こうやっておしゃれについて語り合える時間は貴重だ。
「イザベラさん、ネックレスは沢山持ってますからね」
「おしゃれじゃなくて、あれはエンチャントが施されたのを装備しているだけよ」
アンナの言葉をイザベラは否定する。実際はローガンの気を惹きたくてつけているのだが、彼女の努力は今のところ報われていない。
「でも……さすがに刀は腰に差せませんよね」
「う~ん、それが少し残念よね。スミレの刀はそれ自体芸術品みたいなものだし。やっぱり、持ってないと落ち着かない?」
改めてイザベラとアンナはスミレの格好を見る。確かに、洋装では刀が合わないし、そもそも帯を巻いていないので腰に差すことが出来ない。しかし、スミレは首を左右に振る。
「もしもの時に備えて、守り刀は持ち歩きますので、ご心配には及びません。それに、一通り無手での技も修めておりますので」
短刀程度ならばハンドバッグに入る。同時に、サムライが刀がないと弱体化すると思ったら大間違いである。
「何よりも、逢引の当日は刀を置くとセシルに申し上げましたので。一人の乙女として身を任せたいと思います」
実際、スミレが刀を持たない最大の理由はこれだ。逢引は武者修行ではない。むしろ刀を持ち歩くようではセシルの好意を無碍にする、とスミレは考えていた。
「はあ……こんないい子とデートできるセシルは幸せ者だわ」
スミレの心意気を聞いてイザベラは感じ入ったようにまたため息をつく。つくづく、朴念仁そのもののローガンとは大違いだ。
「お兄ちゃんと楽しんできてね、スミレさん」
「はい。この度は快く送り出して下さり感謝いたします、アンナ」
一方、アンナはにこにこと笑いながらスミレの手を握る。
「お兄ちゃんはちょっと頼りなくて、気が弱くて、落ち込みやすいところもあるの。私、妹だからそういうところはずっと見てきたよ」
スミレも優しくその手を握り返す。
「でも、お兄ちゃんは誰よりも優しくて、責任感があって、自分の為じゃなくてみんなのために頑張れる素敵な人なんだ。私の自慢のお兄ちゃんだよ」
改めてぺこりとアンナは頭を下げた。
「だから――どうか兄をよろしくお願いします」
最愛の兄を任せるアンナの心情を理解し、スミレは深くうなずいた。
「はい。命に代えてもお守りいたしますとも」
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