スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~ 作:高田正人
あらすじ:デート当日。洋装のスミレとデートするセシルだった。
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公園の噴水前が、デートの待ち合わせの場所だった。緊張してしょうがない。懐中時計を見る。約束の時間まで残り三十分。
「ああ……待たせるのは失礼だけど、待ってる時間が辛いよ……」
ローガンさんもイザベラさんも、もしかしたらアンナもどこかで僕たちを見張っているだろうか。たとえそうだとしても、みんなに気を配ることは不可能だ。
十五分経ってから、スミレが現れた。
「セシル、お待たせしました」
「ス、スミレ……」
スミレは着物じゃなくて、洋服を着ている。ふんわりしたフレアスカートにリボンをあしらった上着と帽子。手にはハンドバッグ。ブーツに白のタイツ。露出が少なくてフリルの多い服装だから、いつもよりもさらにお淑やかで、深層のお嬢様って感じだ。
「どうでしょうか、この装束は。その、洋装はあまり慣れておりませんので…………」
ブーツが慣れないのか、ちらちらと自分の足元を見ているスミレ。
「殿方の目から見て、似合っているでしょうか……?」
「す……」
「す?」
「すごく似合ってるよ、スミレ!」
思わず僕は両手を握りしめて力説してしまった。だって本当に可愛いんだから仕方ない。
「本当ですか?」
「うん、とても可愛い」
さっとスミレの顔が朱に染まった。
「そ、そんなことを真っ直ぐに言われてしまうと、恥ずかしいです……」
うわあ。本当に、我ながら語彙が少ないと思うけど可愛いよ、この子。いつもの戦闘狂っぷりがどこにもない。
「もう、あまり私を恥じらわせて楽しまないで下さい。セシルは意地悪です」
「あ、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど」
……きっと今頃、どこかで見ているローガンさんたちはお腹いっぱいの顔をしているだろうなあ。でも、これは僕のデートだ。初々しくて見ていられないかもしれないけど、スミレを何よりも楽しませたいし、僕も楽しみたい。
「じゃあ、行こうか」
「はい、喜んで」
スミレがおずおずと手を出すので、僕は手を取る。スミレのそれは、本当に刀を握る手なのか、と思うくらい細くてきれいな手と指だった。スミレの腰を見ると、不可分なくらいいつも身につけていた刀がない。今日のスミレは武装していない。つまりそれは、何かあったら僕が彼女を守らなくてはいけないんだ。その事実に僕は少し背筋を伸ばした。
◆◆◆◆
楔石の町は、冒険家たちのための町だ。でも同時に、学院の本舎が置かれ、大陸中の商人が集まる商業と学術の都市でもある。
「セシル、見て下さい! あれは何でしょうか!?」
スミレが着ぐるみを交えたパフォーマンスを指さして、はしゃいだ声を上げている。楽器を演奏する演奏家の周囲で、微妙にブサイクな鳥の着ぐるみたちが踊っていた。
「大道芸人だね。パフォーマンスを見せて収入を得ているんだ」
あんな大がかりな大道芸を見るのは、どうやらスミレは初めてらしい。でも、僕の説明でスミレは納得したみたいだ。
「ああ、軽業師ですね。しかし、これは何とも――」
「年々大掛かりなのが増えていくみたいだね」
手を振る着ぐるみの横を、僕たちも手を振りながら通り過ぎる。
「こっちの地区にはスミレは来たことがなかったんだ」
スミレはうなずく。
「ええ。故郷から船を乗り継いでここに来てから、すぐに冒険家の組合の門を叩きましたので。この町にこのような楽しげな場所があるとは、今日初めて知りました」
つくづく、サムライはストイックな人たちだ。
「もしかして僕、スミレの鍛錬の邪魔をしちゃったかな?」
つい気になって僕は尋ねる。
「千日の稽古を『鍛』、万日の稽古を『錬』と言います。しかし――」
スミレはそこまで真面目な顔で言ってから、頬を緩めた。
「このような日も、悪くありません。兄上と姉上も、お許し下さることでしょう」
僕は内心で、スミレのまだ見ぬ兄と姉に感謝した。あなたの妹は、とても立派なサムライになっています。
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