スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~ 作:高田正人
あらすじ:二人は宝石店に入ったのだが、セシルはスミレのことをただのパーティの仲間だと店員に力説してしまう。
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僕たちは連れ立って一軒のジュエリーショップに入った。一応事前にリサーチした結果選んだ店だ。……入店したことはないけど。女性店員さんの「いらっしゃいませ」という挨拶を聞きながら、僕たちは店内の宝飾品を見て回る。どれもただの宝石じゃない。遺跡から発掘された鉱石だ。それ自体が権能を帯びているし、装飾品としての価値も高い。
「美しい宝飾品ばかりですね、セシル」
やっぱり女の子なのか、スミレはじっと指輪やネックレスを見つめている。
「遺跡で発見された鉱石が加工されて、こういうアクセサリーになるんだよね」
「はい。職人の技術には驚かされます」
「そういえば、スミレの刀もとてもきれいだよね。やっぱり、有名な鍛冶師の作品なの?」
名前が月影胴切という物騒な名前だけど、スミレの刀は柄も鍔も刀身も綺麗だ。特に彼女がいつも手入れしている刀身は、抜き身で見ると怖いくらいの輝きを秘めている。
「ええ。刀はもののふの魂であり、また鍛冶師も刀を打つ際に魂を込めます。私たちの刀は、それそのものが実体のある権能とも言えるでしょう」
スミレの言葉には誇りがあった。
しかし――店内の宝石はどれもこれもすごく高額だ。ちょっと駆け出しの僕が手が出せる額じゃない。しまった、と僕は内心頭を抱えた。何も考えずに高級店をデートの行き先に選んでしまった。これじゃ、ただの冷やかしだし、スミレに余計な期待を持たせてしまった。
「お客様」
「は、はいっ」
店員さんがこっちを見た。
「すみません。僕は――」
「宝石と人との出会いは一期一会ですよ」
店員さんは、困った顔の僕を見てにっこりと笑う。ただの愛想笑いじゃない。
「……え?」
「宝石と人とが引き合うには特別なタイミングがありますし、その言わば縁を見つけるには時には長い時間がかかります」
唐突に始まった説明に当惑する僕をよそに、店員さんは静かに展示された宝石を手で示す。
「失礼ですが、お客様は当店は初めてのご様子ですね。どうぞ、一度や二度の品定めではなく、じっくりと時間をかけて、縁を育んでくださるようお願いいたします」
僕の隣のスミレがうなずく。
「なるほど。含蓄あるお言葉。感服いたします」
「ど、どうもありがとうございます」
店員さんのフォローが嬉しい。僕の失態を自然にフォローしてくれた。
「きっと最良の宝石がお客様の大事な方にプレゼントしてください、と言わんばかりに現れますから」
しかし、店員さんは次の瞬間僕の前で爆弾を起爆させた。
「なっ!? だ、大事な方って、その、あの……!」
「あら、違ったでしょうか? お二人はどう見てもご親族という風には見えませんでしたが」
明らかに店員さんは僕をからかっている。
「た、ただの同じパーティの仲間です! 僕はナイトですので!」
どんどんと自分の顔が赤くなっていくのが分かる。店員さんは、僕が恋人のスミレにアクセサリーをプレゼントしに来たんだと思っているのだろう。
「私の父もナイトでしたが、異性交遊は禁止ではなかったのでは?」
「そ、それは……ねえ、スミレ? 僕たちはただの……スミレ?」
僕は自分の隣を見て固まった。スミレは、顔から火が出そうなほどに赤面して固まっていた。
「あの……スミレ?」
普段の変幻自在の足さばきなどどこへやら。スミレはぎこちなく僕に背を向けた。
「……こちらを見ないでください……後生です」
消え入るようなスミレの声。そのか細い声が引き金となった。
「し、失礼しました! また今度――!」
僕はスミレの手を掴むと、大慌てで店の出入り口に向かった。辛うじて、女の子を強引に引っ張らないように注意する理性だけは残っていたのは幸いだった。僕は店員さんの「お待ちしてます~」という声がかすかに聞こえる中、店から逃げ出すしかなかった。……我ながら、とんでもないチキンだ。
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