スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~ 作:高田正人
あらすじ:スミレが泣く。是非もなし。
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「はあ……はあ……」
息を切らして僕が立ち止まったのは、ジュエリーショップからかなり離れた聖堂の近くだった。
「あの……セシル、手を」
「あ、ごめん」
僕はスミレにそう言われ、ようやく手を離した。完全に息が上がっている僕に対して、スミレは少しも呼吸を乱していない。夢中で走ってしまったけど、足をふらつかせることさえなかった。
「ごめんね、変なことになって。こんなつもりじゃなかったんだけど」
「いえ。不測の事態は常に起こりうるものです」
そう言いつつも、スミレは何だか不満そうな顔で僕をじっと見る。
「あの……スミレ?」
「私、少し残念に思います」
スミレが口を尖らせるのは初めて見た。
「な、なにを……?」
「女の私の口から、それを言わせるのですか?」
ああ……怒らせちゃった。絶対にスミレは気分を害している。
「ごめん、スミレ――僕、謝ってばかりだ」
そりゃそうだよなあ。せっかくデートに誘われて時間を割いたのに、肝心の誘った張本人がチキンなんだから。わざわざ宝飾店を一緒に見たのに「ただの同じパーティの仲間です」なんて言われたんだから。スミレが怒って当然だ。
「あのさ、僕たちナイトは簡単に恋して女の子と付き合える仕事じゃないんだ」
自分でもみっともないと思いつつ、僕は言い訳する。
「貞潔で、公正で、節制を旨とし、品行方正でなければいけない。僕は見習いだけど、立派なナイトになりたいんだ」
ええそうですよ。僕は奥手でチキンで、今まで女の子に縁なんか一つもありませんでした。
「だから女の子と付き合うことなんて今まで一度もなかったし、スミレとはキスしちゃったけど、もしかして僕が一方的に意識しているだけかもしれないし、スミレが僕をそんなに意識してなかったら格好悪いって言うか……」
そうなのだ。スミレがただの同じパーティのよしみでデートに付き合っているだけだったら、僕はもう目も当てられない。
「セシル」
そんな僕のぐちゃぐちゃになった心情は、僕の名を呼んだスミレの言葉で一刀両断された。スミレの声が氷のように冷えている。
「はい!」
思わず僕は姿勢を正して返事をしてしまう。それくらいの凄みがある。
「私が、たいして思い入れもない男にふらふらとなびくような、ふしだらな女だとお思いですか?」
「いや、そんなことは――」
「私が時間をかけて着飾って、命に等しいほど大事な刀を置いて、胸のときめきを抑えつつ、逢引に身を任せたことはなんとも思って下さらないのですか?」
あ……これ、本当にまずい。まずすぎる。僕、あらゆる会話における選択肢を全部間違えてる。スミレは僕をわずかににらんでから、目を伏せた。
「私――少し悲しく感じてしまいます」
スミレの目から一粒の涙が、舗装された地面に落ちた。
「すみませんでしたッッッ!」
それを見た瞬間、僕は稲妻の速さで地面に這いつくばい、頭を地面に擦りつけていた。
「セシル!?」
「僕が馬鹿でした! 女の子をデートで泣かせるような男はナイト失格です! 人間のクズです! 正真正銘の大馬鹿野郎です!」
「いえ、何もそこまで……」
スミレがちょっと退いているみたいだけど、僕としては本気だった。僕はなんという馬鹿なんだ。なんでデートに誘った女の子を悲しませているんだよ。ナイトとしてどうこう以前に、男として、いや人間として最低ランクを更新し続けている。ええと、こういう時はどう言うべきだろう。東の国では、本気の謝罪をどう示すんだっけ? そうだ!?
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