スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~ 作:高田正人
あらすじ:ほんのこて済まんやった。今から腹を切って詫ぶっで最後までしっかり見届けてほしか。こいが男ん謝罪じゃ!
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「スミレが望むなら、腹だって切ります! セップクします!」
がばっ、と頭を上げて僕はスミレに叫ぶ。確か腹を切る、というのが東の国では心から責任を取ることの表現だったはずだ。
「セシル、何もそこまで言わなくても」
「僕は本気です!」
ここでさっさと納得したら、本気の謝罪とは言えない。だから僕はなおも食い下がった。
「そうですか――」
スミレの目が細められた。その眼光が研ぎ澄まされた殺気を帯びる。
「――私も本気にしますよ?」
「ひいっ!?」
サムライの鋭い目ににらまれ、僕はびっくりした子イヌのように跳び上がった。自分の頭の悪さが嫌になる。腹を切るって慣用句じゃないんだ。いきなりスミレが「では、割腹で謝意を」なんて言いながら小刀を僕に差し出したら困る。
――いや、むしろ。
「では」
すっ――と僕の腹部に走る一筋の赤い線。
「え……あ……」
「――介錯仕る」
スミレの手にはいつの間にか抜かれた小刀。したたりおちる赤い雫。上着の腹の部分が見る見るうちに染まっていく。そして腹圧でアレが……。体ががたがた震えだした。想像なのに死のイメージがリアルすぎる。何この命がけのデート。
「落ち着いてください、セシル。どうぞあの時を思い出してください」
完全に腰が抜けた僕を見下ろし、心配した顔でスミレが言う。
「あ、あの時……?」
「結晶カマキリに挑んだ時です。あの時のあなたは、千の修羅場を潜った武者の如く落ち着いていましたよ」
それは、たぶん背にスミレがいたからだ。僕一人なら悲鳴を上げて逃げていた。
「僕は、スミレの思っているように強くないよ。きっと、君ががっかりするほど弱いから」
ようやく立ち上がることができたけど、僕は情けなさに穴があったら入りたかった。女の子に気の利いた言葉一つかけられないばかりか、ナイトとしても冒険家としても弱い。もう僕にいいところなんて何一つないんじゃないか、とまで思えてきた。
「私は、セシルに逢引に誘っていただいてとても嬉しかったです。刀を求められるのではなく、私を一人の女として見て下さっていることに、胸がときめきました」
でも、そんな僕を笑うことなく、スミレはむしろ励ますようにそんなことを言ってくれた。
「セシルは、私とのこの時間はただの戯れですか?」
「そんなことないよ!」
だからこそだろう。僕はスミレに励まされ、今度こそ本心を声に出す。あの時結晶カマキリに対峙した時のように。スミレの盾となって死ぬ覚悟さえ決めた時のように。僕はなけなしの勇気を振り絞る。
「初めて君を遺跡で見た時から、なんて綺麗な子なんだろうって思ってた。お淑やかで、落ち着いていて、華やかで――しかもとてつもなく強くて」
強さ。その言葉に僕はまたも足がすくむ。
「僕のようなナイトの見習いが……」
でも、スミレは僕を助けてくれた。
「セシル。どうかご自分に自信を持って」
ああそうだ。勇気を出せ。僕はナイトだ。ナイトでありたい。
「僕は君よりも強くない。でも、君のことを思う気持ちだけは、君のことを知りたい、君と親しくなりたいという気持ちだけは――」
そうだ。弱い僕でも、そこだけは――
「――きっと、ううん、絶対スミレの親族以外には負けないつもりだ」
僕はそう言いきって、スミレの手を取った。
「君と過ごしたい思いは、気まぐれでも戯れでもない。本気なんだ」
思えばずっと、僕は遠慮してこういう力強いことは言わなかった。戦闘民族のスミレはさぞかし歯がゆかっただろう。
「やっと、おっしゃってくれましたね。あなたの本音を、ようやく聞くことが出来ました」
スミレはようやく、笑顔を見せてくれた。陽光に輝く彼女の刃のような、きらめく笑顔を。
「セシル、あなたは強い男子です。そんなあなたにこそ、私も身を任せたいと思います」
「うん、僕に任せて」
こんなナイトに寄り添ってくれるスミレがありがたかった。
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