スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~   作:高田正人

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第26話:無理ですよ! この子サムライなんですから!

あらすじ:圧倒的暴力でスミレは強盗たちを全員片付けるのだった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「生身デ複眼ニ勝テルワケネエダロウガッ!」

 

 なんでそんな危ないものを服用しているんだ。あれは複眼の原盤を使った違法薬物だ。一時的に複眼の身体能力が得られるけど、肉体と精神への負担が大きすぎて命に関わる。全身が甲殻で覆われ、二足歩行の複眼となった巨漢が叫ぶ。完全に複眼の鳴き声だ。でも、スミレは一切ひるまなかった。

 

「目」

 

 スミレがそう呟くと同時に、巨漢が目を押さえ悲鳴を上げた。スミレの指には、空のワイングラスがいつのまにか挟まれていた。中身を甲殻に覆われていない目玉に浴びせたんだろう。

 

「耳」

 

 ワインの瓶が二本、同時に両耳の部分に投げつけられた。割れてガラスが飛び散る。巨漢が今度は耳を押さえてのけぞった。鼓膜に衝撃が来たに違いない。

 

「鼻」

 

 スミレがテーブルのナイフを取って振るってから、何かを投げつけた。巨漢が顔を押さえて悶絶する。床に落ちたのは胡椒の瓶だ。ナイフで瓶の蓋を切り落として、中身をたっぷりと顔に浴びせたんだろう。全身を甲殻で覆っても防げない、感覚器に対するピンポイントのえげつない攻撃。なんて言うか……あまりにも残酷すぎる。

 

 のたうち回る男にスミレは近寄ると、近くの椅子を持ち上げて何度も何度も振り下ろす。最初は呻き声が聞こえていたが、やがて聞こえなくなった。スミレは巨漢が動かなくなったのを確認してから、椅子を静かに元す。甲殻が液化して床に流れていく。その場にいる全員が固まっていた。戦闘と言うより暴力や暴行の類だ。

 

「動くな!」

 

 クロスボウを構えた残った一人が叫ぶ。

 

「てめえ冒険家だな! それ以上動くとこいつが脳天に突き刺さるぞ!」

 

 ほとんどその声は悲鳴だった。

 

「どうぞ」

「は?」

「遠慮なさらず」

 

 スミレは当然のような顔で両手を広げた。ボスがたまりかねたように僕に叫んだ。

 

「お前どうにかしろよ! こいつ頭がおかしいぞ! なんなんだよこの女!」

「無理ですよ! この子サムライなんですから!」

 

 完全にスイッチが入っているスミレを止めるなんて、絶対に不可能だ。

 

「撃たないのでしたら、こちらから参ります」

 

 スミレがクロスボウを構えた強盗の方に近づく。

 

「ひいぃ! く、来るなあっ!」

 

 複眼に襲われた新米冒険家みたいな悲鳴を上げて、クロスボウの矢が放たれた。足を狙っている。

 

 さすがに女の子を撃つのはためらったらしくて、少しほっとした。何だかこれじゃ、強盗の方がまともみたいだ。……でも。

 

「遅い」

 

 スミレがひょい、と屈むや否や、その人差し指と中指が矢を挟んでいた。

 

「なんという気合いのない矢。心根が歪みきっています」

「なんで掴めるんだよお前!?」

 

 誰もが思う疑問を叫んだ男の手に矢が刺さった。

 

 え? いつの間に投げ返したの? 全然分からなかった。矢を抜こうとする男の頭をスミレがつかんだ。

 

「失礼」

 

 ゴキッ、という音と共に首を回されて男は悶絶した。あれ、間違いなく手加減してなかったら首が真後ろまで回っている。かくして、レストランを襲った強盗たちは、ボスを除いて全員スミレによって戦闘不能にされていた。

 

「は、ははは……」

 

 僕を掴んでいたボスは、やけくそ気味に笑いながら僕を放り投げた。

 

「いいぜ。俺だって元冒険家だ。勝負だサムライ!」

「そういうスミレをたきつけるようなことは言わないでください!」

「うるせえ! ここまでぼこぼこに女の子にやられて一人だけ逃げられるかってんだ!」

 

 変なところで義理堅そうなボスが剣を抜く。

 

「来いよサムライ! 手加減したら死ぬから本気で行くぜ!」

「――望むところ。悪党ながら潔し」

 

 スミレはハンドバッグの中から小刀を取り出した。

 

「抜いちゃだめ! スミレ!」

 

 抜いたらスミレはサムライに戻ってしまう。もう遅いかもしれないけど、刀だけは抜いて欲しくなかった。

 

「果たし合いを望まれたのならば、応じるのが武士の務め」

 

 ああ――なんでこんなことになっちゃったんだろう。なんでただのデートのはずが、こんな血みどろの鉄火場に変わってしまったんだろう。何度考えても分からない。僕が何か馬鹿な選択をしてしまったんだろうか。せめて、せめて僕に何かできることはないだろうか。

 

「僕が代わりに戦うから! スミレは下がって!」

 

 僕はスミレに近づいて叫ぶ。

 

「いいえ。どんなことがあっても、セシルは傷つけさせません」

 

 スミレは大まじめな顔でそう言う。

 

「スミレ……」

 

 嬉しいようなふがいないような困ってしまうような、そんなめちゃくちゃな感情が状況を無視して心に襲いかかってくる。

 

「見せつけてんのかお前らぁ!」

 

 案の定、ボスが大声でどなってこちらに突進してきた。

 

「スミレ!」

 

 僕が叫ぶのと同時に、スミレの手が僕の上半身に触れた。骨まで染みるような衝撃で突き飛ばされる。ボスが剣を振り上げた。スミレが腰を落とす。小刀の柄を逆手に握った。次の瞬間――耳障りな金属音がした。

 

「――え?」

 

 スミレの小刀の切っ先が天井に向けられている。男の剣の刃が半ばから斜めに断たれ、上半分が離れたところに突き刺さる。

 

 ……なにあの小刀の切れ味。そしてスミレが一歩踏み出すのと同時に、肘を男のみぞおちに浴びせた。離れた僕のところにまで衝撃音が響く。くずおれたところに小刀が二度ひらめき、ボスの絶叫が響いた。

 

「二度とこのようなことはなさらぬように」

 

 血が床に滴り落ちる。ボスの両耳が、薄皮一枚で辛うじてつながっていた。

 

「学べぬようならば、さらに化粧して差し上げますがいかがでしょうか?」

 

 小刀を鼻先に突きつけるスミレの目が怖すぎる。明らかに「次は鼻を削いであげましょう」と言わんばかりの顔だ。ボスはがたがた震えながら剣から手を離した。

 

「す、すみませんでした……。俺の負けです」

 

 完全に心が折れている。

 

「そうですか」

 

 ボスが負けを認めると同時に、あっさりとスミレは小刀を鞘に収めた。敗者を必要以上に痛めつけるつもりはないらしい。

 

「悪党とはいえ、武士を前にして一歩も退かぬその勇気は認めます。罪を償った後、この仲間たちと再び冒険家になられた方が良いかと」

 

 まるで剣術の師匠のような顔で、スミレはボスにそう忠告するのだった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

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