スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~   作:高田正人

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第27話:セシルは、こんな私は嫌ですか?

あらすじ:スミレはさすがにやりすぎたと少し反省していた。結果的に、また彼女を悲しませることになってしまうセシルだった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 キリワタリの霧が晴れると同時に、すぐに騎士団の面々がレストランに突入してきた。悠然としているスミレの横で、騎士団は失神したり戦意を喪失した強盗たちを捕縛していった。僕以外の客と店員たちも、スミレを遠巻きにして近づかずにいたのも仕方ないだろう。何しろ彼女一人で強盗たちを全員倒したのだから。それもかなり無惨な方法で。

 

「お努め、ご苦労様です」

 

 スミレの言葉に、騎士団の隊長が微妙に引きつった顔で応じていたのが印象的だった。その後、僕たちはテーブルについてデザートをちゃんといただいてから店を出た。なんというか――すごく血みどろのデートだった。スミレは最後まで平然としてたけど、僕はげんなりすると同時に、無力感に苛まれていた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 いつの間にか、時間は夕暮れになっていた。遠くで教会の鐘が鳴らされている。普段の僕はあそこでボランティアや礼拝に勤しんでいたはずだ。でも、今日はこうしてスミレとデートしていて、そしてよりによって今日、強盗たちと鉢合わせしてしまった。でも、いい方向に考えてみよう。そうするしかない。

 

 もし僕とスミレがあのレストランにいなかったらどうだろうか。強盗は成功して、お客さんたちはお金を奪われていた。小さい子供だってあそこにいたんだ。子供にとって強盗はトラウマになるだろうし(スミレの残酷無惨な行為が別の意味でトラウマになったかもしれないけど)、誰かが変なことをして彼らを怒らせ、怪我をしたら大変だ。

 

 結果的に言って、スミレと僕があそこにいたのはよかったはずだ。そう思うしかない。

 

「――セシル」

 

 考えに耽る僕が気を取り直したのは、スミレに声をかけられたからだった。

 

「あ、スミレ……どうしたの?」

「心がよそにさ迷っている、といった顔をしていますよ」

 

 さらりとスミレは言う。表情からは何を考えているのか判断できない。

 

「ごめん。君を蔑ろにしたつもりじゃなかったんだけど……失礼だったよね」

「私、今日はとても楽しかったです」

 

 そうスミレが言っても、レストランに行く前までは喜べたかもしれない。でも今は、少し反応に困る。顔色一つ変えずに強盗たちを叩きのめしたスミレ。戦闘民族の彼女のことだから、彼らはちょうどいい食後の運動になったことだろう。

 

「――申し訳ありません」

 

 けれども、スミレはいきなり頭を下げた。

 

「スミレ!?」

「今日は、せめて今日だけはもののふではなく、一介の乙女であろうとしました。セシルの好むような女子になろうとしていたのです。本当です」

「スミレ、それは僕もちゃんと分かっていたから――」

「ですが」

 

 僕の言葉は、スミレの一言で止まる。

 

「料理店で無法者たちに絡まれているセシルを見た時……我知らず体が動いてしまいました。きっと、頭に血がのぼっていたのでしょう」

 

 うわ怖い。よく誰も死なずに済んだと思う。もしあの時スミレが着物姿でしかも帯刀していたら、強盗たちの生首がその場に転がっていたかもしれない。トラウマ必至の光景だ。

 

「セシルは勇敢ですね。我が身を盾として、悪漢たちから客や店員を守っていたのでしょう?」

 

 いいえ。どちらかというとスミレから強盗たちを守ろうとしていたんですけど。うまくいかなかったけどね。

 

「それなのに、私は先走ってばかりです。血気にはやるあまり、手を出してしまいました。乙女であろうとしていたのに、私はやはり未熟者です」

 

 スミレの自省に、僕は慌ててフォローする。デートで女の子に反省させてしまう自分が情けない。

 

「そんなことはないよ。スミレも見たでしょ? あのレストランには小さな子供もいたよ。あの強盗たち、そんなに極悪人じゃなかったけど、もしかしたら誰かが怪我したかもしれないんだ。スミレが頑張ったから、誰も傷つかずに済んだんだ」

 

 その代わり強盗たちはボコボコにされたけどね。特にスミレに目と耳と鼻を潰されたあの巨漢、二度と違法薬物を使う気にはなれないだろうな。

 

「それでも、セシルをがっかりさせてしまいました」

「そんなこと……」

「セシルは、こんな私は嫌ですか? 帯刀していようと無手であろうと、常在戦場のもののふは女として見ることができませんか?」

 

 スミレの目は必死だった。

 

「私、私――」

 

 でも、その顔がうつむく。

 

「……弱くなりたいです」

 

 弱くなりたい。あり得ない言葉を、僕はその時耳にしていた。あの強さを無心に求めるスミレが、平常心を保ったまま刀を振るうスミレが、戦闘民族で首狩り大好き女子のスミレが――弱くなりたい、と言った。一滴の涙が、スミレの目から滴り落ちる。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

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