スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~ 作:高田正人
あらすじ:『おなごを二度も泣かせてしめ、おいは情けなか! 生きていらるっか!』とはならずに、セシルは勇気を振り絞ってスミレよりも強くなると宣言するのだった。
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「まことにッッッすいませんでしたッッッッ!!」
僕はその一瞬、間違いなくスミレの刀の速度に匹敵する速さで地面に手をついた。石畳にひびが入る勢いで額を叩きつける。
「セシル!? 何も一日に二度も平伏しなくても……」
驚いたスミレの声が頭の上で聞こえるけど、もはや弁解の余地さえない。
「許して欲しいなんて言えません! 僕は古今無双の大馬鹿野郎です! ナイト失格待ったなしです! 人類のゴミです! デートの相手を二度も泣かせて真に、真に、真に申し訳ありませんでした!」
いったい僕は何をしているんだ。スミレにアイデンティティさえも否定させて、これでナイトとは笑わせる。今正義の女神に断罪されても仕方ない。
「……セシルは悪くありません」
ややあって、スミレはぽつりと呟いた。
「どんな拠ん所ない理由があろうとも、弱くなりたいなどと口走るのはサムライとして恥ずべきことでした。どうか、お忘れ下さい」
「でも……」
僕は頭を上げる。
「お願いです。私の言ったことは、私を鍛錬して下さった兄上と姉上に対する無礼なのですから」
スミレの懇願に、僕はうなずかざるを得なかった。「お立ち下さい」と促され、僕は立ち上がる。夕日に照らされて、スミレは寂しそうに笑った。
「セシル。今日はありがとうございました。また明日から、冒険家として遺跡に挑もうではないですか」
それは、今日のデートの終わりを告げる言葉だった。スミレに気付かれぬよう、僕は拳を握りしめる。
このまま、丸く収めていいだろうか? 絶対に駄目だ。頭では分かっている。僕がたとえ人間を辞めても、スミレにはかなわない。彼女の刀の前には盾など意味を成さない。でも、それでも、気持ちで最初から負けていてどうする! 僕はこれでも男だ! 理性を捨て、羞恥を捨て、知恵まで捨てて――僕は死地に飛び込む。
「スミレ!」
「え? はい」
やや驚いた感じのスミレに、僕は叫ぶ。
「君が弱くなりたいというなら、君が自分の強さを恨むのだったら、僕は、僕は――――」
僕は、刀を振り上げて絶叫と共に敵に打ちかかるサムライとなった。今だけ僕は正義の女神を奉じるナイトじゃなくてナチュラルボーンバーサーカー、人に遭っては人を斬り、神に遭っては神を斬る狂人になってやる。
「僕は君よりも強くなるから!」
ああ――言った。言ってしまった。
「セシル……?」
「僕は強くなりたい。もっともっと強くなって、君を守れるくらいに強くなるから! もう二度と、君が弱くなりたいなんて思わない男になるよ、絶対に!」
もう後には引けない。でも後悔はない。スミレの涙を無視するより百万倍マシだからだ。
「信じて……いいのですか?」
スミレが信じられないものを見る目で僕を見る。その純粋な瞳。彼女の持つ刀と同じ輝きを放つその目。……僕が一目見た時から、ずっと心を奪われたままの女の子の目だ。
「うん。僕の信じる正義の女神に誓う」
「ああ……セシル!」
感極まったように、スミレが僕に抱きついてくる。ぎゅっと強く腕で抱きしめられる。
「私は果報者です。故郷を遠く離れた異国で、あなたのような心優しい騎士に出会えました」
「僕こそ、スミレのような強くて綺麗なサムライに出会えて幸せだよ」
「恥ずかしいです……」
僕もスミレの背中に腕を回す。スミレの体温と匂いを身体と鼻で感じる。もうどうにでもなれだ。僕の将来の設計図とかを全部書き直したって構わない。
スミレを悲しませるくらいなら、どんな地獄にだって喜んで突っ込んでいこうじゃないか。好きな女の子のためだったら、男はきっとどこまでも強くなれるはずなんだから。スミレが背伸びして、僕の頬に唇を触れさせた。僕もつられてスミレの柔らかな頬にキスをする。口と口のキスは、ちょっと衆人環視の中でするには難易度が高すぎた。
本当にめちゃくちゃなデートだった。下手くそで空回りしてばかりの僕のせいで、スミレを何度も困らせてしまった。でも――終わりよければすべてよし、とうぬぼれてもいいかな? 耳元に口を寄せて、スミレは熱っぽく囁く。
「では私と一緒に――『肝試し』、いたしましょう?」
「……へ?」
何それ。すごく怖そうな単語が聞こえたんだけど。
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