スミレの剣~薩摩系女子のサムライと見習いナイトの武士道とは死ニ狂イとなる物語~ 作:高田正人
あらすじ:東の国の『肝試し』が始まる。それは無数のモンスターの中で平常心を保つという頭のおかしい鍛錬だった。
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「むーっ! むぐーっ!」
「さあセシル。楽しい楽しい『肝試し』の時間です」
「むぐーっ! むむーっ!」
「私は慣れていますので自然体で行いますが、セシルは初めてですので僭越ながら少しお手伝いさせていただきました」
「むむーっ! むーっ! むーっ!」
じたばたとイモムシのように暴れる僕だけど、スミレは一顧だにしない。
「下手に動くとかえって危ないのですが、そうと分かっていてもつい動いてしまうもの。手足を縛るのはそのためです。また、舌を噛むのは本当に命に関わるので、猿ぐつわを噛ませていただきました」
「そして――」
公器からスミレが取り出したのは、二つの香炉だった。
「片方は虫除けの香。もう片方には虫呼びの香が入っております」
「むむむむーっ!」
虫除けの香は冒険家におなじみだ。焚けばある程度複眼を追い払うことが出来る。でももう片方は最悪だ。虫呼びの香。そんなものをここで焚いたら、凶暴化した複眼が続々と集まってくる。
「では――東の国の肝試し、ご堪能あれ」
スミレは満面の笑みを浮かべて、のたうち回る僕を熱っぽく見つめるのだった。
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何? 何これ? なんでこうなっているの? 夜中、ふと目を覚ましたら、なぜか夜の遺跡、それも密林のど真ん中に放り出されている。そう言えば、今夜はスミレが東の国のお茶を点ててくれた。苦くて独特の風味だったけど、スミレがくれたものだから有り難く頂戴したんだけど――もしかして僕、一服もられたんだろうか。
僕は驚愕と恐怖と混乱で頭がおかしくなりそうだった。なぜか知らないけど、両手両脚が縄で縛られているし、口には布の猿ぐつわを噛まされていて唸ることしかできない。遺跡の空にかかる月に照らされているのは、以前破ってしまったものとは違う着物姿のスミレ。月の光を浴びるスミレの顔は、ちょっと色っぽくてドキドキしてしまう。
でもそんなことより――なんで僕は縛られているんだろうか。そして始まる先程の口上。僕の抗議を全部無視して、スミレはうっとりとした顔で対面に正座した。
「むぐーっ! むーっ!」
「いつ、いかなる時、どのような状態であろうと恐れずに平常心を保つ。その鍛錬がこの肝試しです。セシルとこれができるなんて、私の本望です」
スミレが再び公器に手を入れ、中から取り出したのはマッチだ。刀の鞘に当てて擦ると火がつき、それをスミレは香炉に当てた。虫除けの香がゆっくりと立ちのぼり、僕たちの周りに立ちこめる。続いてスミレは「印紙」を取り出す。権能を文字化して紙に書き込んだこれは、いちいち触媒や様式を使わないで権能を使えるアイテムだ。
「風洞」
スミレが呟いて印紙を置くと、それは燃え上がって灰になる。僕とスミレの周囲だけに空気の断層が出来た。虫除けの香を閉じ込めた形になる。
「懐かしいですね、この感覚」
優雅に湯飲みからお茶を飲むスミレ。僕は気が気じゃない。
「それでは続いて、虫呼びの香に火をつけてこの結界の外に置きます」
「むむーっ!」
なんてことするのスミレ!?
僕は跳びはねるけど、スミレは無視してマッチを擦り、もう一個の香炉に火をつけた。虫除けの香は植物系のいい香りだけど、こっちの香の匂いは生臭くて血のような臭いだ。すぐにそれをスミレは空気の断層の外に置く。
「こうすれば、私たちの周りに沢山の複眼が集まってくるでしょう。この結界から出たら……どうなるかお分かりですよね?」
「むーっ! むーっ! むむーっ!」
ええ分かりますよ。周囲に群がった複眼に襲いかかられて、骨も残さずバラバラにされるに決まっています。
「さあ、香が燃え尽きるまで平常心でいましょう」
もしかして東の国のサムライってみんなこんなことをしてるの? 頭がおかしいぞ! 僕が必死で猿ぐつわを噛まされた口で抗議したその時だった。
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