吾郎の妹ポジになった転生者 作:とくめいです
「あ、おっつー。アクたん♪」
「お疲れ様です、メムさん」
「かたいなぁー。事務所の先輩なんだからもっと砕けてよぉ」
メムとは
だからといって、間違いは訂正しなければならない。
「事務所所属と言っても芸能人じゃない。今の俺は事務のパートタイムだよ」
俺はあの日から正式に事務所との契約を解除している。
アイやルビーに思うところがある訳では無いし、社長やミヤコさんが悪かったわけでもない。
あの人の居た場所から退くという訳ではなくて。これはただのけじめだ。
「そうだ。マネージャー居る?」
「今日はころも達の取材に同行してるから帰るのはもう少しあとかな。急用?」
会話に気まずい要素を含んだと気づいたメムは話題をさり気なく変えてくる。こういう大人な対応も出来るようになったのだから、人の成長というのはバカに出来ない。
というか、成長出来てないのは自分ばかりかと心のなかで嘆息するまで有る。
それはともかく、彼女は要件をさらっと伝えてきた。
「アネモネに頼んだ動画が出来たんでその報告がてらだよ〜」
「ならメールでもいいのに」
「そこはほら。せっかく要件出来たんだから事務所に顔出さないとね」
「さいで」
メムはアイドルとは言っても従来の型に嵌まらないタイプの活動をメインにしている。ネットアイドルというやつだ。
元々この事務所はそちらに注力していたのだが、彼女の家庭の事情からこういう形での起業と相成ったわけである。
ふと、最近めっきり会わなくなったカントクの『時代だなぁー』との言葉がふと思い出された。最近は何か企画をしているらしいけど俺は距離をおいているからよくは知らない。
メムはホワイトボードを見て聞いてくる。
「あの二人は雑誌の取材だっけ。ティーン誌かな?」
「ファッション誌だ。そろそろそっち方面のオファーは断ってるそうだと」
「あー……そりゃ、そうかぁ」
「そっちだって、こないだの取材はパソコン誌だったろ」
「まあねえ……案件だし、需要はあるから」
知名度のある人間の使うモノというのは特別な意味を持つ。服飾然り、パソコン然り。熱心なファン以外にも客層があったりするのでとかく広告に芸能人が使われるのである。
あと、年齢的な問題もあってティーン誌からの取材自体少なくなっている。世間一般から見ればころもにしても、まなにしても、すでにアイドルとは呼べなくなっている年齢なわけだし。
すると、メムがホワイトボードの端の文字を目敏く見つけた。
「あれっ? 第二会議室、ルビーちゃん使ってるの?」
「らしいな」
「新規プロジェクトとかあったっけ?」
「内内では動いてる、らしい。俺は部外者だから敢えて聞いてないけど」
「そーいう立ち回りだけは上手くなったねえ、アクたん」
「実際、知ってると思われて絡まれる事も多いんでね。自衛手段だよ」
「まあ、アイさんの子供だもんね」
アイの事が明るみになった当初は、マスコミがわんさと押しかけて大変だった。
その頃は小学生と言うこともあって、事務所から離れて行動することを心掛けていた。
今でこそこうしてバイト代わりに手伝っているけど、詳しい事には首を突っ込まないようにしている。
俺はすでに一般人。
そう思うことが肝要なのだ。
ガチャリ
「あー、つかれたー」
「まな、オッサンくさい」
「取材って面倒なんだもーん」
「それは分かる」
なんて会話をしてる最中に二人が帰ってきた。
鈴城まなは、少し疲れた様子で。
不知火ころもは相変わらず超然とした姿で。
その後からミヤコも現れたのでそちらにも挨拶をすると、ただいまと返事が来る。
「お疲れ様でーす」
「おつかれ、アクア君」
「出迎えご苦労」
「出迎えじゃねーよ。挨拶だ」
常識人なまなと比べて、ころもは少しズレている。まあ、あのフリルの姉と言うなら推して知るべし。
「そろそろ上がっていいわよ。あとはやっとくから」
「承認済みの奴は終わってるから」
「さんきゅ。助かるわ」
そこへ行くとミヤコはやはり年長者として貫禄がある。PCをログアウトして席を立つとまなが声をかけてきた。
「アクア君。姉として言っとくけど、妹たちとは清い関係でいてよね?」
「はあ?」
思わず聞き返すと彼女はおもむろにスマホをこちらに見せてくる。
「なっ!?」
「いやー、私もビックリしたよ」
「ちょちょちょちょ」
慌てて彼女の腕を掴んで廊下へと連れ出す。「浮気?」とか抜かしてるころもや「まなぴとアクたん急接近?」とか週刊誌紛いの事を言ってるメムは無視する。
そんなことより、問題なのはこっちだ。
入学式当日に出くわしたあの双子と一緒に写るまなの日常的な姿の写真。彼女のスマホに映るそれは、彼女たちがただならぬ関係であることを示唆していた。
「あ、あの。これは?」
「うちの妹たち。こっちがつきでこっちがはる。もう会ってるから知ってるよね?」
「ま、まあ知ってはいる。だけど……」
今朝方、ルビーに問い質されたことを思い出す。
悪いことはしてないのに、なぜか正座でこんこんと問い詰められた。俺は悪くないはずだけど、なぜか謝罪する羽目になってた。
その
そして、彼女たちを妹と呼び、一緒に写真に写る鈴城まな。同じ姓という事もあり、これは間違いなく姉妹なのだろう……ていうか、鈴城なんて苗字珍しいんだから、先に気づけと自戒したい。
「二人揃って頭良くてさ。秀知院行くって言うからそのうち会うかもとか思ってたらまさか入学早々とはねぇ。アクア君、相変わらず手が早いなぁ」
「メムみたいなこと、言わんでくださいよ……」
「あはは♪」
無邪気な笑顔に内心で胸をなでおろす。自分の妹たちとなれば警戒するのが普通であり、俺の方はと言うと(実際問題はともかく)女に対して手が早いという印象が強い。むしろ近づくなと釘を刺される可能性もあった。いや、積極的に関わるつもりは無いんだけどね。
「あの二人はさ〜、ウチの中ではアイドルなんだよね」
そう語るまなの顔は、憧憬を宿していた。彼女がこの事務所に入りたての頃、アイと顔合わせをした時もこんな感じだったと思う。キラキラとした瞳には星のような輝き。それは彼女もアイドルとしての素質の表れでもあった。
「二人とも歌もダンスも凄くて。お姉ちゃんとしては負けらんないって頑張ってこれたの。だから、恩人でもあるの」
「まなさん、努力家ですからね」
素質があっても磨かなければ光らないのが芸能界の掟だ。そこも含めて鈴城まなには素質があった。そして、そんな彼女が自分よりも高いと妹たちのことを言う。だとすれば。
「けど、秀知院行くって聞いてから……少し戸惑ってるの」
「何がです?」
「……えっと」
困惑するようなまな。その素振りからアレだと理解する。もう何年も経った話だし、いつまでも子供ではない。腫れ物を触るような扱いに少し意地悪をしてみたくなった。
「もしかして、ハルみたくなると思ってます?」
「!」
自分から言葉にすると、あっさり舌から滑り出てきた。ほら見ろ、もうかなり前のことなんだから。
「アレは特殊なケースですよ。今はウチもそれなりの規模だし、警備とかにも金はかけられます」
「……まだ、苺プロに入れるとかの話じゃないし」
「才能とやる気があるなら応援するべきだと思いますよ。まなさんの妹さんならブレイク間違いなしだ。なんなら俺から社長に話を通して「!」」
いきなり、頭を掴まれ抱きかかえられた。
彼女の柔らかい部分に顔を押し付けられたのに、俺はなぜか動揺していなかった。
「……」
「そんな顔して、フツウに喋らないで」
……そうか。
俺は、すでに動揺していたのか。
顔が青ざめていたせいか、彼女の体温が心地良く感じる。レッスン後の消臭剤とほのかに混ざる優しい香り。
アイとも、ルビーとも違う女性の香りに、安らぎを感じてしまっていた。その背徳感がどこからくるものなのかは分からなかったけど、吾郎の頃には感じたことが無かったような気がする。
「……ごめんね」
「……謝らないで下さい。情けなさすぎるんで」
いつまでも抱擁され続けるわけにもいかずに離れる俺。ここは廊下だから、誰が通るかも分からない。関係者しかいないとしても。
「そ、それじゃあ、ね」
「あ、ああ。おつかれさまです」
「……うん。おつかれさま♪」
照れ隠しに笑うその姿が少しだけ眩しく見えて。だから俺は、ぼんやりとした足取りで家路につくのだった。
星野アクア
ハルナの事がトラウマになっているもよう……お前はどこでも悩み苦しむカルマでも背負ってるのか(笑)
メム
苺プロネット部門所属のアイドル。とはいえユーチューバーみたいな事ばかりしてるのでPVは少な目。
不知火ころも
まなと組んでデュオでの活動をしている。掴みどころのない性格なのは変わらず。
鈴城まな
憧れのアイドルの子供という目線から、少し男の子を感じてドギマギ中(笑)
ミヤコ
すっかりマネージャーが板についたミヤコ。苺プロは原作よりも大きくなってます。だから本来アクアを事務のパートタイムに使う必要はありません。