突然だけど、私の愚痴を聞いてほしい。
私には、好きな人がいる。始まりは、高校2年生の頃。
私の不注意で足を骨折して、困っていた時の話だ。
私は高校生時代、初めのグループ作りに失敗して、うまく友人を作ることができなかった。そのせいか、私が足を骨折しても、女子の誰も私のことを助けようとはしてくれなかった。別に悪意があったわけじゃない。ただ、私との関係がそこまで深くなかったから、干渉して来なかっただけ。
一応、体裁のためか、心配する素振りを見せたり、『何か困った事があったら気軽に話しかけてね』なんて、思ってもないことを言ったりはしていたけど、そんなのは頼りにならないし、できない。
でも、そんな時、私に手を差し出してくれたのが、彼だった。
クラスメイトの皆は、私のことを気にかけるフリをしているだけで、本当の意味で私のことを心配してくれてない。でも、彼は違う。私が困っていたら、実際に手を貸してくれた。私が骨折のせいで不便で辛い時に、彼は慰めてくれた。それも、上っ面の慰めなんかじゃない、本当に今私が欲しいって言葉をかけてくれた。
優しくて、誠実で、なんの後ろめたいことのなさそうな、素敵な彼。
だから、その時から、私は彼のことが好きだった。
その後、私は彼と同じ大学に行くために、足りない頭を振り絞りながら勉強に取り組んだ。結果、何とかギリギリ、彼と同じ大学に入学することができた。高校ではできなかった友人も、親友と呼べるレベルのものができた。好きだった彼との距離も縮めることもできた。私の大学生活は、まさに順風満帆だった。
でも、それはまやかしだった。
私は裏切られた。1番信頼していた、親友に。
勘違いでも、誤解でもない。私は、ちゃんとこの目で、耳で、確認したのだ。
私の好きな彼と、親友が、恋人関係だということを。
許せなかった。私の方が先に好きだったのに、私の方が彼の良いところをたくさん知っているのに。
ぽっと出のお前如きが、なぜ彼の隣にいる?
私はそれが許せなかった。だから、私は親友に対して、彼と別れるように迫った。けれど彼女は取り合わず。でも、そんなの許されない。彼女と彼は何としてでも別れさせなくちゃいけない。
時には冷水や罵詈雑言を浴びせたり、彼女の私物を隠したりもした。ありもしない噂を流して、彼女の名誉を乏しめるようなこともしてきた。そんなことを繰り返すうちに、親友はとうとう大学に来なくなった。
悪いとは全く思わない。だって、先に彼女が彼に手を出したのだから。私は被害者だ。彼を取られた、だから、彼を取り返すために、しかるべき手段をとっただけ。そう、これは所謂正当防衛というやつだ。やられたから、やり返しただけ。私は、私の身を保護するために、親友を害したにすぎない。いや、害すだと不適切か。だって私は、何も悪くないのだから。
ともかく、ここまでは良かった。途中、親友に彼を寝取られるというアクシデントはあったが、その障害の排除は完了した。男女の恋愛において、障害は多ければ多いほど、それらを取り除いた時、2人の仲はより深まるものだ。だから私はてっきり、彼との仲は最早おしどり夫婦もびっくりなほどラブラブなものだと思っていた。
けれど、彼の反応は、私の予想したものとは全く異なるものだった。
まるで、私のことを親の仇かのように睨みつけてくる彼。最初は、私への求愛行動かと思ったが、彼の態度を見るに、どうもそんな風には思えないことに段々と気がついた。もしかしたら、何かすれ違いがあったのかもしれないと、恋愛において、すれ違いもまた、2人の仲を深める良いスパイスになり得るからと、そう呑気に彼に触れようとしたその時だった。
『触るな』と、その身が凍りつくほど冷徹で、聞いたもの全てが思わず畏怖してしまうような、迫力あふれる彼の度低音ボイス。
私の子宮は一瞬疼いたが、それはいい。
美しい度低音ボイスに気を取られてしまい、ついつい見逃しそうになるが、こんなえっちな度低温ボイスを出したということは、彼の私に対する敵意は、すれ違いで済まされるようなものではないということだ。
本当にあのクソ女は余計なことしかしない。あいつのせいで、私と彼のハッピーライフが土砂崩れを起こしてしまっている。
と、ここまで長々と話してしまったが、これが私の愚痴だ。聞いていて腹が立つものだっただろう?気持ちはわかるよ。私も今無性に腹が立ってしまってしょうがないからね。本当に、どこの時代にも、人の色恋を邪魔にする輩というのはけしからんものだ。私なんて物語の主人公そのものじゃないか。主人公の邪魔をするなんて、読者のヘイトを買うだけだというのに。きっとこの話をネットに投下すれば、大多数が私の味方をしてくれることだろう。まあ自然な流れだ。客観的に見ても、悪いのは十中八九私の親友で、私は邪悪な魔女に将来を誓った白馬の王子様との仲を引き裂かれた悲劇のヒロインなのだから。だから、ネットに流して、大勢の見方をつけた上で、魔女狩りを行うのも悪くないかもしれない。しかし、それじゃ少し陰湿すぎる。少なくとも、物語の
ならどうするか?簡単だ。
私は物語の
具体的にはどうするかだって?
そんなの決まってる。
大丈夫。安心して。無駄な出費にはならないよ。だって、この道具は、私が彼に手料理を振る舞うためにも使うことができるから。
ふふっ。楽しみだね。これでようやく、私達を阻むものは何もなくなるんだ。それに、ちょうど良いかもね。彼、頑張り屋さんだから、たまに貧血で倒れちゃったりするみたいだし。この機会に、たくさん鉄分補給して、貧血にならないよう体調を整えてもらわないと。
ねぇどうして後退りするの?だめだよ、目を逸らしちゃ。これは君の選択の結果。一度やるって決めてしまったんだから、しょうがないよね。誰かに強制されたわけでもない。自分の意思で決めてる。そうでしょ?だったら、自己責任だよね。自分の面倒は、自分で見なきゃ。いつまでも他人に頼ってばかりじゃ、成長できないよ?あ、今の私ちょっと
まだ目を逸らし続けるんだ?へぇ。軟弱者だね。そうやっていつまでも現実を見ないでいたって、何も変わらないよ?周りは皆頑張ってる。だからさ、私たちもそろそろ始めないと、じゃないと、置いてかれちゃう。
大丈夫。安心して。1人じゃないから。邪魔者は排除するし、なるべく迷惑はかけないようにするから。ね?一緒に頑張ろ?
ああ、もちろん、君が現実を直視する勇気がないっていうなら、それでもいいよ?私は寛大だから、なんでも許しちゃう。あーあ、出た、私の悪い癖。どうしても甘やかしちゃうんだよね。こんな甘いから、あんな女狐に隙を見せてしまったのかもしれないけれど。
ただね……。
に が さ な い か ら
もう逃げられないよ。覚悟決めろ。