一人称が「おじさん」のホシノの先輩   作:惡喰

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「いかないで」のアフターです。

蛇足ととるかはあなた次第。


それでも夜明けはきっと来るから

キヴォトスの外に来てから一年が経った。

 

私は、家事を行っていて。リョウジ先輩は外でお仕事をしていて。

 

まるで新婚さんみたいだな、なんて思ったりして。

 

でも、新婚さんと形容するには私たちの間には溝がありすぎて。

 

リョウジ先輩の顔も段々と元のものに戻ってきたけれども、それは上辺だけのもので。

 

家に帰ってきてからは、必要最低限の事をしている時以外はただぼうとしていることが多い。

 

そうだ。何も、変わっていないんだ。

 

こんな状況を作り上げた私が言うのも烏滸がましいのだけれども。

 

あの人は死人に囚われ過ぎている。

 

そっちは死者の領域で、生者が立ち入るべきではないのだから。

 

「そろそろ決めないとね」

 

今は一人だけの部屋で口に出す。

 

ごめんなさい。ユメ先輩。

 

もう一度私はあなたからリョウジ先輩を奪います。

 

届くはずがなくて、許されたいとは思っていないのだけれど。

 

それでも、謝罪の言葉を口にする。

 

覚悟はとうに、できているから。

 

 

 

 

 

夜になると、ガチャリという鍵の音と共にリョウジ先輩の帰りを告げる。

 

その音を聞いて私は玄関の方に小走りで向かう。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい!リョウジ先輩!」

 

私は場違いなほど元気な声で(・・・・・・・・・・・)リョウジ先輩を出迎える。

 

「ん?なんだ、今日はえらく元気だな。なにかいい事でも────あった、のか────────」

 

私の姿を見て硬直するリョウジ先輩。それもそのはずだ。

 

今の私の格好はアビドスの制服を着ていて、それもユメ先輩を想起させるような(・・・・・・・・・・・・・)見た目になっていて。

 

ソレを直視したリョウジ先輩は口を押えて蹲る。

 

────────ああ、そこまでか。そこまでなのか。

 

わかってはいたけれども。それはちょっと酷過ぎじゃないだろうか。

 

そうまでして自分一人で抱えることはないのに。

 

「…………なんの、つもりだ。小鳥遊」

 

「リョウジ先輩。今日が何の日か、知っていますか?」

 

そう。今日は私たちがこっちに来た日。

 

言ってしまえばユメ先輩との訣別をした日。

 

そんな日にこんな格好をするのは本当に、本当に笑い話にもならないのだけれども。

 

それでも、どうしても必要だから。

 

「忘れるわけ、ないだろう。アイツとの────────」

 

もう(・・)、一年経つんですよ」

 

まだ(・・)、一年経っただけだ」

 

そう、これだ。

 

この認識の差こそが、私と先輩の溝。

 

これを何とかしない限り、溝は埋まらないし。何よりリョウジ先輩はいつまでも過去に囚われたままになってしまう。

 

それは見ていて辛い。

 

結局のところ私の為と言われればそれまでなんだけれども、それでも好きな人が傷ついている姿を見続けるのはちょっと堪えられない。

 

「…………そろそろ自分の事を許してあげてもいいんじゃないですか?」

 

「許す?許すだと?アイツの願いを、想いを踏みにじったこの俺を?冗談!俺は許されざることをしでかしたんだ。だからこそ、俺はアイツに報い続けなければならない!赦されざるとわかっていても贖罪を続けなければならないんだ!そうじゃないと、俺は。ユメは────────」

 

本当に、どこまでも優しい人。それでいて自分には厳しい人だ。

 

「でもソレ()は、私の物です。あなたの物じゃないんですよ」

 

「そ、れは────────」

 

私の罪だと理解していても、私に重荷を背負わせないために。私が壊れてしまわないために。全てを一人で抱えてしまったリョウジ先輩。でもそれは、到底人一人では背負いきれないもので。

 

「…………いや、ダメだ。お前にコレは背負わせられない。たとえお前の持ち物だとしても。これだけは決して」

 

────────本当に、どこまでも優しい人。

 

「────────そうでしょうね。私一人だと、きっと抱えきれないです。重くて、重くて。重さで潰されてしまいます」

 

「だろ?だから、俺に任せておけ。俺は、大丈夫だから────────」

 

ああ、もう。見ていられない。聞いていられない。

 

そんな有様で何が大丈夫だというのか。小突けば崩れてしまいそうな状態で、何を言っているのか。

 

あまりにも、あんまりだ。

 

────────本当に、どこまでも優しくて。どこまでもバカな人。

 

「────────小鳥遊?」

 

無言で私は蹲っている先輩を抱きしめる。

 

「リョウジ先輩。人の話は、最後まで聞いてください。確かに私は一人だと背負いきれないと言いました。先輩も背負うとは言っていましたけど、絶対に無理です。なんてったって、私より弱いじゃないですか。リョウジ先輩は」

 

「な、何を────────!?」

 

「だから、人の話は最後まで聞いてください。ダメダメリョウジ先輩」

 

リョウジ先輩の目を直視する。その目にはまだ私は映っていなくて、少し腹が立つ。

 

「一人で無理なんですから。二人で背負いましょう。というより、背負わせてください。いつまでも私の荷物を持たせてばかりというのは、ちょっと」

 

「でも、お前は。俺たちの後輩で、俺が護ってやらないといけないわけで」

 

ああ、そういう事か。そんな、単純なことだったのか。

 

「先輩。先輩の目には私はどう映っていますか?今でもただの後輩のままですか?先輩の隣に立つには、力不足ですか?」

 

「そんな、ことは。でも────────」

 

もう、頑固者なんだから。私が良いって言っているのに。

 

「先輩、あの時はなんだか流れで言っちゃったみたいになっている気がするので、もう一度言いますね────────好きです。好きなんです。リョウジ先輩。あなたの事が。大好きです。好きな人の力になりたいと願う事は、そんなにおかしなことですか?」

 

私の言葉に固まるリョウジ先輩。目はちょっと焦点が合っていないけれども。

 

「…………おかしくは、ない。でも、お前はまだ子供で。俺が、大人の俺が守ってやらないと。せめて、お前だけは────────」

 

「そうですか。先輩にはまだ私が子供に見えてるんですね。でも、残念でしたね先輩。他の子たちよりも早いですけど、そうならざるを得なかったというのもありますけど。私はもう大人なんですよ?ほら、大人だったら先輩に守ってもらう必要はないでしょう?」

 

「────────────────」

 

焦点が合っていなかった目は動きを止め、私をじっと見つめる。

 

「本当に、私が言えた義理じゃないんですけど。それでも私たちは前に進まなきゃいけないんです。それは、私一人じゃダメなんです。リョウジ先輩も一緒じゃないといけないんです。なにより、ここに連れてきたのはリョウジ先輩なんですから。責任、取ってください」

 

「…………そうか。お前もいつの間にか、大人になっていたんだな」

 

「はい」

 

私の返事を聞くとリョウジ先輩は目を閉じ上を見上げて、長い、永い呼吸をする。

 

「────────今すぐにというのは無理だけれども。きっと凄く長い時間が必要だと思うけど。そんな、情けない先輩だけれども。それでもお前は、俺の隣に立ってくれるか?」

 

「────────はい」

 

「そうか────────ありがとう。ありがとう、小鳥遊────────」

 

そうして先輩から抱きしめ返される。

 

それはあの日のような私を気遣うものではなく、荒々しいもので。力任せで、痛くて。

 

でも、それが何よりも嬉しくて。

 

「こうしてるとなんだか、先輩の方が子供みたいですね」

 

「…………うるせぇやい」

 

「ふふっ」

 

ああ、これならきっと。大丈夫。もう、大丈夫だ。

 

私達の過去は灰色のままかもしれないけれど。それでも、そんなこともあったねって笑いあえる。そんな色鮮やかな未来がいつかきっと、来るはずだ。

 

あ、そうだ。

 

「ね、先輩」

 

「ん?」

 

「────ん」

 

私は先輩の顔の前で目を閉じる。それが何を意味するかは多分先輩にもわかるはずだ。

 

「────────ハハッ。ホント、欲張りになったな。でも、良いじゃないか。その方がよっぽど人間らしいよ」

 

「もう、ムードが台無しじゃないですか。私、待ってるんですけど?」

 

先輩は「悪かった」なんて軽い謝罪をして、流れるような。でもどこかぎこちない動作で唇を重ねてきた。

 

短い、本当に短い刹那。

 

でもその一瞬は、私の人生のどれよりも幸せで。

 

「「────────────────」」

 

唇を離しても、しばらく見つめあうだけで。

 

でも、そんな一瞬が本当に幸せで。

 

「…………先輩、私初めてだったんですけれど。なにか、無いんですか?」

 

「…………悪いな。俺は二回目(・・・)だ」

 

「む」

 

何という事だ。ユメ先輩め、ちゃっかり抜け駆けしているとは。

 

「…………まぁ、でも。なんだ、初めてが血の味ってのはちょっとな」

 

「────────あ」

 

しまった。地雷だったか。

 

それにしても何という場面でしているんだユメ先輩。

 

そんなことをするから余計にリョウジ先輩に荷物を背負わせることになるんですよ。

 

「…………ロマンスの欠片もないですね。でも、安心してください。私が塗り替えてあげますから」

 

「えっ、あっ。ちょ、待ッ────────!」

 

「ダメです。待ちません。観念してください」

 

今度は強引に唇を重ねて、舌を捻じ込む。

 

リョウジ先輩も口では抵抗していたけれども、その実すんなりと受け入れているあたり何と言うか。

 

部屋には、息遣いと少し粘ついた水温が響く。

 

舌と舌を絡め合わせて。指と指も絡め合わせて。

 

もう二度と、離れないように。

 

頭がぼーっとしてきて唇を離す。

 

唇を離した際に、お互いの唾液が混ざり合った銀の橋が架かる。

 

「…………ふふっ」

 

「…………意外と、積極的なんだな」

 

「…………こんなこと、ユメ先輩とはしていないでしょう?」

 

「…………まぁ、そうだな」

 

よし勝った。

 

「これから、二人でいろんなことをしていきましょう。大丈夫です。二人ならきっと。乗り越えていけますから」

 

「────ああ、そうだな。きっと大丈夫だ」

 

それを聞いて、リョウジ先輩の胸元に飛び込む。

 

「リョウジ先輩、大好き────────ううん。愛しています」

 

「────────俺も、愛している。ホシノ(・・・)

 

「────────────────はい、はい!」

 

────────────ああ、ようやく。漸く、名前で呼んでもらえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつかの日と同じように、指を絡めあって夜空を見上げる。

 

星空はいつも、どこでも変わらずきれいなままで。

 

「ねぇ、リョウジ先輩」

 

「なんだ?」

 

「先輩は今、幸せですか?」

 

「そうだな────────お前はどうなんだ、ホシノ?」

 

「私は幸せですよ。先輩が居てくれるので」 

 

「そうか────────そうか」 

 

そう言って先輩は星空から私の顔へと視線を移す。

 

そこには、いつかの日に見た顔と似ていて。でも、少しだけ影がある。でも、何よりも大好きな顔があって。

 

そして、その瞳にはちゃんと私が映っていて。

 

「…………まあ、まだいろいろとしがらみとか心残りとかはあるけどな。でも、お前が居てくれて。ホシノが幸せだと言ってくれて────────────俺も幸せだよ」

 

────────────────ああ。

 

ごめんなさい、ユメ先輩。

 

私達はユメ先輩の死を越えて先に進みます。

 

それがきっと、私たちの為すべき事だと思いますから。

 

どうか、見守っていてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が幸せなら、私はそれでいいんだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────聞こえる筈の無い、懐かしい声が聞こえた気がした。

 

「──────────────────────よかった」




一人なら無理でも、二人ならきっと。

そう信じて、前に進むしかないから。





是にて、ifのネタも尽きました。

書きたいことは大体書けたかなと思います。

私もまた一読者に戻ります。

また会う日まで。




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