“私はよく眠っていた”
“これ以上悩み、考え込むことはない”
“なあ、日の出が見たかっただけなんだ”
――――Thinker reprise 意訳
最終話、Day After Day
時は流れて。とある場所。病室にて。
痩せた男と、美しい女性がいた。
「ウォルター……あのね」
可憐な美少女が、ベッドに寝る男に話しかけている。赤い虹彩。切れ長の、整った目元。体つきは女性的で、見るものを魅惑する豊かな膨らみに覆われていた。
「私、結婚するんだ。カーラも、エアも、みんな喜んでくれてね」
彼女は外見以上に大人びていた。まだ、大人になりきれない、微妙な年齢であるにも関わらず、老練すら感じさせる成熟した雰囲気をまとっている。
彼女はきれいに整えられた銀色の髪の毛を腰まで垂らしていた。キューティクルによどみはなく、照明を反射して、輪ができている。
「ラスティ、すごくいい人なんだ。強くて、優しくて……解放戦線のスパイだったけどね」
眼の前で寝ている男はぴくりともしなかった。
「ねえ、ウォルター。結婚するんだ、私。……寂しいよ。ウォルター」
五年後。
ルビコンの戦いは解放戦線の勝利で終わった。企業戦力を壊滅させ、事実上の撤退に追い込んだ。しかし、企業は諦めずに、ルビコンに介入を続けた。
そのいずれにも属さない独立傭兵を支援する組織―――『レイヴンズネスト』が立ち上がったのはこの頃だっただろうか。誰がリーダーでもなく、誰が指示を与えるでもなく、目的もあやふやなその組織は、しかし確かに、戦争というあだ花に咲き誇っていた。
企業が、独立傭兵が、解放戦線が入り乱れる戦場。それは、ある意味で平穏であった。
「レイヴン……」
ノック。入室してきたのは、義体に入った、エアだ。技研都市にて発見された義体に入り込んだ彼女はその外見を、銀髪の彼女に似せた。同じように、赤い目。銀色の髪。まるで、かつての彼女をトレースしたかのような、小柄。
「ウォルターは……」
「ウォルターは……きっと、起きるよ。ウォルター、運動しようね」
エアの言葉に返事をすると、日課のストレッチをさせていく。淀みなくほとんど毎日繰り返してきた作業だ。間違いなどなくスムーズに実施する。
『今日で五年目だよ、ラスティ』
五年後、返答をくれると約束させたことを、レイヴンは覚えていた。
ラスティも覚えていた。
二人は相棒として、任務を受ける独立傭兵であった。もっともレイヴンも、ラスティもエンブレムも機体構成を変えて、別人として任務に従事していたが。
『ルビコンの解放者』『ルビコンの乙女』『黒い鳥』『例外』など数々の異名を誇った彼女と、それに付き添うように行動する『大狼』。有名になり過ぎた。故に名前や所属を隠して、活動するようになった。
ラスティは真正面から彼女の姿を見据えた。ここ数年でぐっと身長が伸び、健康的に成長を遂げた彼女。目もくらむような魅力的な、一人の乙女。
返事は決まっていた。今まで、一番近くで見てきたのだ。断る道理などなかった。
『戦友……いやレイヴン。君の気持ちに答える日が来たようだな。こちらこそよろしく頼む。私と添い遂げてくれ』
『………キス、しようか』
『積極的だなぁ。本当に君は変わったよ』
『変わってないよ。前からこうだったんだよ』
『嘘をついちゃいけないなぁ。キスのやり方もよく知らなかった子供だったのが、つい数年前なんてなぁ』
五年という歳月は、レイヴンを美しい女性に変えていた。前より少し年を取ったラスティは、喜んで彼女を受け入れた。
その返事を聞いたレイヴンは、その日、彼の誘いを受けた。
長い年月を埋めるかのように、互いを求め合い、高め合う。手を重ね合って、笑って、お互いの境界線を埋めていく。それは一日で収まらずに、仕事をそっちのけで耽ってしまうほどには深く、くたくたになるまで。疲れれば一緒に寝て、起きれば、また、繋がった。
甘い日々。かつては考えもしなかったこと。二人はお互いの体にできた傷跡を確認し、なぞって、過去を想った。
手術と再生医療を繰り返したレイヴンは、機能をほぼ完全に取り返していた。子を産むことさえ、できる程に。膨大な金がかかったが、ウォルターが自分の取り分だと言って、レイヴンに渡すつもりでメモを遺していたため込んでいた金を使えば、処置は難しくなかった。ただし彼女は唯一、脳内のコーラルデバイスを取り除くことはしなかった。
エアの言葉を聞けなくなるのは嫌だと、彼女はそうすることを選んだ。
「ウォルター………もう一度お話したいよ………」
ウォルターは、救助されて一命を取り留めた。しかし、昏睡したまま目覚めなかった。レイヴンは懸命に戦い、稼ぎ、大金を手に入れた。そしてその金で企業から施された処置を手術で取り除いても、目覚めなかった。
そして5年の歳月が流れてしまった。
「……お父さん……ウェディングドレス姿、見たいって言ってたよね」
「621……」
ウォルターの声。かつてより体重が落ち、げっそりとしてしまった彼は、レイヴンの声で覚醒した。
辺りを見回し、そして呟く。
五年だ。五年という年月はしかし彼からすれば、夢に落ち、そして起き上がる程度の時間感覚でしかない。
視線を合わせる。ぼやけた視界の先に、銀色の乙女がいた。
顔立ちがほとんど一致するが、けれど、大人の姿になっている。
悟った。
「お前は……621……なのか……」
「うん!」
「……済まなかった……俺は、お前に銃を向けた。コーラルは……どうなった……」
「ウォルター、あのね」
告げられる、真実。
エア。オーバーシアーの事実上の解散。コーラルリリース。プロジェクト・フレイムリンク。そして、現在。
ウォルターはただ静かに話を聞いていたが、ややあって呟いた。
「そうか…………」
全て、621……レイヴンが選択した結果だ。
共に生き、共に死ぬ。それは“愛”の一つの形だ。
災禍でしかなかったコーラルを、闇ではなく光に変えたのは、確かに彼女だった。
ウォルターは外を見た。
巨大な、聳え立つバスキュラープラント。それは破綻することなく、コーラルを封じ込め、世界を守っている。あるいは、延命とでも言おうか。先延ばしに過ぎないはずの選択肢。けれどウォルターには、それは希望の光にも見えた。
「共に生きる……その先に破綻が待ち受けようとも……………俺はそれで良いと思う……迷惑でなければ、これからも一緒にやって行こう……」
「うん!」
ここに一枚の画像データがある。
RaDのアジトだろうか、古びた構造体の中。あるいは、今は洋上の交易都市として栄えている、ザイレムかもしれなかった。
大勢の人が集まっている。RaDのメンバー達。シンダー・カーラ。彼女が作った、AIロボット。コーラル駆動する義体に入ったエア。独立傭兵仲間。その他、集った大勢の人々。
ウェディングドレス姿のレイヴンと、タキシードを着込んだラスティがいる。
レイヴンの前には、車椅子に座ったウォルターがいて。
皆楽しそうに笑っていた。
『レイヴン、準備が整いました』
「了解。準備完了だね、エア。心の準備はいい?」
『そういえばレイヴン。今度カーラが“笑える”新商品を作ったから試して欲しいって言ってましたよ』
「えー? またー? 撃ったら手元で爆発するショットガンとか、色々使い物にならないものも多いんだよねぇ」
レイヴンはヘリから降下すると、機体をゆっくりと着地させた。
仕事の時間だ。
本格的にオペレーターとしての業務を始めたエアと、レイヴン。この組み合わせは、外せるはずもなかろう。
レイヴンは独立傭兵として戦い続ける道を選んだ。
『普通の人生を送ることもできるんだぞ』
『いいの。哀れまないで。私は戦う為に生まれてきたんだと思うから』
『………そうか。俺はお前の選択肢を尊重する。レイヴン』
『ありがとう、お父さん』
ウォルターも、それを認めてくれて。
だから、
着地した機体がメインカメラを光らせて、直立した。
エアが言った。
『メインシステム、戦闘モード、起動』
The End.
Next...?
あとがき
予定では10万字で完結の筈が少し長くなりましたね。
「コーラル」って人間性の闇そのものじゃねぇか、じゃあ篝火にしてやるよというフロム信者特有の発想から生まれた二次設定で書き始めました。
オマージュもとい丸パクリのセリフも結構あるので探してみてください。オールマインドとか喋る台詞全部語録クラスだったり(AC1,2,3,4,V,VDのセリフと要素全部乗せラーメン)します。
レイヴンを幼女にするんじゃ! おじロリおねロリあにロリ最高じゃ!
という欲望が最初に来ていたのは秘密です。
ハッピーエンドにしたかったんです。本当だよ。
さて簡単にはなりましたがあとがきをこれで終わらせて頂きます。
アフターとか、えくすたしー(お察しください)版を書いたりするかもしれません。それか普通に絵の練習に戻るか。
それでは、皆さま。ルビコンで会いましょう。
メインシステム、戦闘モード、起動!
おまけ
子供版621ちゃん
【挿絵表示】
大人版621ちゃんイメージ
【挿絵表示】
Next?
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アフター
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えくすたしー
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学パロ
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幕間