朝、事務所のソファでいつもの如く寝ていると何やら騒がしい。その煩さに目が覚め体を起こせば何やらカヨコとムツキが話しているのが見える。その顔には焦りがあり、何かあった事を雄弁に伝えている。
「ふぁ〜、なんかトラブルでもあったか?面倒な依頼とか」
オークション会場の護衛とかな。バニースーツ着て護衛する便利屋の姿は結構面白かったが強盗に襲われるわでドタバタだった。
私か?バニーなんて着る歳でもないからパスさせてもらった。指差して笑わせてもらったけどな。
しかし、どうやら違うらしい。
「先生が……」
「『先生』?またなんかやってんのあいつ?便利屋も大概だけどシャーレも忙しいな」
「──倒れたらしい」
ゴロゴロピッシャーン!とその言葉に合わせて窓の外で雷鳴が轟く。いや別に大したことではないのでは。あいついっつもブラック企業並みに働いてたし。いつか倒れるだろうなとは思ってたし。
しかし、ムツキやカヨコは心配らしく顔を見合わせどうするかと悩んでいる。
「それ、どこの情報だよ?」
「モモトーク。先生が倒れたってもう大騒ぎだよ。シャーレに人が殺到してるとか」
「ほー、人徳の成せる技かな?人が殺到とは」
いつも酒とか融通してもらってるし見舞いくらいはしてやるかな。心配する必要はないと言葉を掛けて私は出掛けた。
いつものコンビニに顔を出してデコの広いアルバイト店員を冷やかしながら適当に消化のいいものを買ってシャーレへと向かった。
そこまで時間もかかる事なく到着するも私の顔は顰めっ面だ。それもそのはず
「人でごった煮になってやがる。特売スーパーの主婦バトルじゃねーんだぞこれ」
入口も見えないくらいに人が沢山いたからだ。その入口を抑えるようにメガネをかけたクールビューティーって感じが特徴の連邦生徒会、七神リンが立ち塞がっていた。
「ですから!特に問題はないです!」
どうやら心配できた生徒たちを宥め、説明をしているようだが糠に釘らしい。
ため息一つ。面倒な事になってるらしい。慕われているのはいい事だがこういった弊害が出るのはいただけない。ここは一丁私が片付けてやるか。少し手荒になるが勘弁しろよ?ここにいない「先生」に向けて心の中で呟き、行動開始。
「落ち着けお前ら」
片足を上げて地面にドン……ッ!と叩きつける。衝撃は地面を伝い大きな揺れとなる。
視線がこちらを向く。
「揃いも揃って……お前ら少し考えろ。心配なのは結構だが、こうして大人数で押し寄せれば結果その皺寄せが来るのは誰だ?」
「真にお前らが「先生」を心配するなら、やるべきはこうして押し寄せる事じゃねーだろ。先生がいなくちゃ何もできないガキじゃあるまいし。こういった時こそ、何もなかったって言えなきゃいつまで経ってもあいつの苦労は絶えんぞ」
その言葉に返ってくる言葉はなかった。しかし、その場で皆顔を見合わせ。確かにその通りだと納得して1人、また1人とシャーレから離れていった。
やれやれ、銃持ってドンパチやる割に中身はまだまだ子供だな。
「……助かりました、感謝します」
そうリンはこちらに頭を下げるが私は手を振って流す。
「気にするな、私も見舞いにきた1人だったしな。様子見てって平気か?」
そういって手でぶら下げていたビニール袋を掲げればリンは少し考え頷いた。
「正直言って先生に付きっきりとは私もできません。申し訳ありませんが看病をお願いしてもいいでしょうか」
主にトラブルの後処理が……と呟くリンの顔は中間管理職特有のアレだった。苦労してるなお前も。
「了解、まあ軽く見てやるよ」
そういって会釈するリンを横目に私はシャーレへと入っていった。
まあ通路に純情狐とか忍者娘とか忍び込んでいたが拳骨を頭に一発入れて外に放り出しておいた。余計な苦労掛けさせるなって言ってんだろ。
「おーい、生きてるかー?」
扉を開けて覗き込むように顔を覗かせればゴホゴホと咳による返事が返ってくる。見るからに風邪と言った様子で仮眠室のベットで布団に包まる「先生」の姿。
「なるほどダメそうだな?しゃーねぇなぁ」
袋の中からガサゴソと冷えピタを取り出し、「先生」の額にペチンと貼り付ける。
よし、適当にキッチン借りてちょいと飯作るかね。
「どんなもんなのか知らんからとりあえずで買ってきたが……」
風邪だと言うのなら、雑炊でも作るか。米は……ある。器とか……よし。卵とかもあるし意外と料理してんのか?ちょうどいい、これでちゃっちゃと作るか。
そこらにあった輪ゴムで長い自分の髪を後ろにまとめて束ね、手を洗う。
「……しかし、私が料理ね」
料理をする手を止める事なく呟く。
成り行きとは言え、私が料理する事は少ない。出来なかったわけじゃないが自分1人のために作るのは面倒くささが勝るのだ。片付けも面倒だしな。柄にもないとは自覚しているが、たまにはこれもいいだろう?
適当に包丁で食材を切り分け、鍋に入れて火を掛ける。
脳内で知り合いの褐色白髪頭の心は硝子野郎が逐一小言を言ってくるが知らん。なんであいつは武器握るより包丁握ってた方が様になってんだか。それでいいのか守護者?
「っと、いかん」
思考に耽っていると鍋がグツグツと音を立てている事に気づき慌てて火を止める。
「あいつ猫舌だったか?」
よく知らんがその場合は無理やり口の中に押し込むとしよう。鍋をそのまま持っていき、「先生」の横、ベット備え付けの机に置く。
「ほれ、飯作ってやったから食え。無理やりにでも胃に突っ込まねーと体調は回復しないぞ」
そういってお粥がたっぷり掬われたレンゲを頬に近づける。熱気とうっすら香る美味しそうな匂いで「先生」は目を開け、こちらに向かって口を開けた。それが意図するものは一つ。
「私に食べさせろってか?贅沢なやつだな」
仕方ない。まるで雛鳥に餌をあげる親鳥の気分で口の中にレンゲを突っ込んだ。もにゅもにゅと口の中で咀嚼し、苦労して飲み込む「先生」は一言、おいしいと言った。
「なら良かった。後は適当に食えよ、今じゃなくても楽になった時にでも」
レンゲを鍋に戻して立ち上がる私を弱った手が掴んだ。
「ん?」
腕を掴まれ視線を戻せば「先生」がこちらを見ていた。
──寝るまで、居てほしい。
普段とは違って弱っている「先生」はそうこちらに懇願してきた。
「んー……」
めんどくささとかそういったもので悩んだ末に
「しょーがねえなぁー?」
どかりと近くにあったパイプ椅子をベットの側まで引き寄せて座る。
「まあ普段そんな我儘言わねーしこのくらいはしてやるよ、世話になってるしな」
──ありがとう
「子守唄でも歌ってやろうか、そうすりゃ眠れるだろ」
──激しくないので頼むよ……?
「私をなんだと思ってんだ、確かにロックなのは好きだがTPOくらい弁えるぞ、私は」
そうだな、子守唄にはそこまで詳しくないが……ガキの頃に歌ってもらったやつでいいか。
「出来は期待するなよ?」
そう前置きして、息を吸い込む。
──きらきらひかる おそらのほしよ
普段聞くことのない、穏やかで澄んだ声がシャーレの中で響く。
──まばたきしては みんなをみてる
その声に目を閉じて「先生」は聞く。その声色には何があるのか。単純な歌の中に思い出が確かに感じられた声色だ。
──きらきらひかる おそらのほしよ
みんなのうたが とどくといいな
きらきらひかる おそらのほしよ
そこまで歌って、気がつけば既に「先生」は眠りについていた。やれやれと嘆息し、立ち上がってその場を音を立てずに立ち去った。
「さて、覗き見。いやこの場合は覗き聞とでも言うのか。お仕置きが必要か?」
その後、一部生徒の悲鳴が響いたとかなんとか。
きらきら星なのは私が個人的に好きだからです。他意はナイヨ?