澄んだ記録を目指して   作:上条@そぉい!

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悪友みたいな関係って良いですよね。気兼ねしないというか。先生には出せない空気感を出せていたなら良いです。


『お嬢様は辛いよ』

 今日の私はトリニティに来ている。普段はあまり好きじゃないんだが……

 

「ちょっとー、手が止まってるよー?」

 

「はいはい、我儘な奴だなお前も」

 

 心底辟易した返事を返しながら手元の紙袋から出来立てのシュークリームを取り出して机の向かいに座る奴に放り投げる。

 

「あむっ……投げるなんて酷くない?」

 

「そう言いながら口でキャッチしてんじゃねーか、今度欲しいのはお手か?」

 

 モグモグと口を動かしながら器用に怒るのは聖園ミカ。お嬢様とは思えないくらいのお転婆のクソガキ。あまりにクソガキなのでとある一件でバチバチに喧嘩したことがあったのだが、その縁で今こうして2人でいるわけだ。

 

「犬じゃないんですけど」

 

「じゃあゴリラか?どっちにしろ魔女なんて呼び名はお上品にも程がある。精々クソガキがいいところだろお前」

 

「はー?また殴られたいの?」

 

「おーおー、やってみろやクソガキ。今度は頭から地面に埋めるぞ」

 

 

 一触触発、そんな空気が蔓延する。

 

「……あほみたい」

 

 しかし、一言で霧散した。椅子から浮かせた腰をどかりと座り直して足をバタつかせるミカ。その視線は私ではなく背後。監視員らしきトリニティ生徒が隠れる事なく露骨にこちらを見ていた。

 流石に目の前で喧嘩をし出せばどうなるか、その立場が危うくなるのを理解しているらしい。まあそれでもやる気になればコイツはやるだろうなって確信はあるが。

 しかし、何故こうして私がミカと一緒にいる事になったのか。それは少し前に遡る。

 

 

 

「──監視役ぅ?」

 

 私は足を机に乗せてだらけた形で椅子に座り、訝しむ。「先生」を通して私にトリニティから依頼が来ていると聞いた時から裏があるんじゃねーかな、と思ったが予想外な言葉が来た。

 

「ええ、あなたが適任かと思いまして」

 

「先生じゃダメなのか?」

 

 優雅にティーカップを持ち、こちらを見るのは桐藤ナギサ。

 ティーパーティの1人でトリニティ学園をほぼ統括してるみてーな奴。いかにもお嬢様って感じで私は好きではない。

 

「先生も多忙でしょう。次善の案としてあなたが。エデン条約後のイザコザの時に一度ミカさんを抑えたという実績もありますし、いざという時のセーフティとして適任です」

 

「今更そんな事するタマには見えないけどな、あいつ。クソガキだけど馬鹿ではないぞ」

 

「そんな事は分かっています。しかし、内外に大丈夫と太鼓判を押さなければミカさんは外出もできませんから」

 

 エデン条約の後、私はそこまで深入りしてない為に詳細は知らんがミカは色々やらかして拘束されている。牢屋生活ってやつだ。しかしずっと閉じ込めるというのもな。

 コイツにもコイツなりにミカに負い目があるのだろう。見え隠れする親切心。まあ付き合わされる私からすると迷惑なのだが。

 

「要は建前ってことか。あーやだねお嬢様社会。ゲヘナの方が直情的でいい。ここに居ると肩筋が張っていけねーや」

 

「私の前で言いますか、それ……とにかく。お願いしますよ」

 

「わーったわーった。面倒だがやるさ。先生にも世話になってるしな」

 

 ぐーっと両腕をあげ背中を伸ばし立ち上がる。となれば早速行くとしようか。つーか。

 

「人の心配してる前に自分はどうなんだよお前。聞いたぞ、なんか友達と仲違いしたらしいじゃねーか?」

 

 その言葉にナギサは何でもないように答える

 

「別にそんな事ないですちょっとたまたま会えてないだけで会おうと思えばいつでも会えますしそもそも何を根拠に仲違いなどと虚言をいや別に何も気にしてませんが──」

 

「いやいや震えてる!めっちゃ溢れてる動揺隠せてねーって!お前だけ震度8だろ、気になり過ぎてお前の言葉頭に入らねーよ!」

 

 目を閉じて手に持ったティーカップに注がれたお茶を口につけようとしてガチャガチャと中のお茶を派手に溢しまくり口の端から飲み損ねたお茶がダダ漏れになっている。

 

「コ、コホン。失礼しました」

 

 未だ震える手をそのまま取り繕おうとしているけど全く取り繕えてないナギサ。

 

「まあ身から出た錆ってやつだろ、自分で何とかしな。どーしようもないなら先生が何かしらするだろう」

 

 私からどうこうする義理もない。そこまで優しくはないからな。

 

 

 

 と、まあこんな話でミカとお出かけな訳だ。どうせなら先生が良かった、とはミカの談だ。私の目の前で言うあたりコイツも良い根性してる。

 

「で?どっか行きたい場所でもあるのか?道すがら買い食いしかしてねーぞ今」

 

「結構このシュークリームも美味しいよ?牢屋じゃ三食ロールケーキだったし」

 

 マジで?想像以上に過酷じゃねーか砂糖口から吐くぞ。って押し付けた紙袋の中身もう空かよ!可愛らしく口の端についたクリーム舌で舐めてんじゃねーぞ!

 そういうのは「先生」にやれ、私にやってもあざといだけだぞ。

 

「だからってシュークリームなのはどうなんだ?50歩100歩っつーか、パンがダメならお菓子を食べ的なあれか?」

 

「ちょっと何言ってるのか分からない」

 

「何で分からねーんだよ」

 

 と、そこで椅子を引き立ち上がるミカ。くしゃくしゃっと丸めた紙袋を私に投げながら

 

「それじゃ行こっか。久しぶりの外出だし色々まわりたいんだー」

 

 パシッと投げつけられた紙袋の塊を掴み、私も立ち上がる。

 

「はいはい、全くお嬢様ってやつこれだから……」

 

 さっさと行ってしまうミカの後を追いかけた。

 

 




 顔を見られていないだろうか。今の顔を見られたくなくて、私は少し前を小走りする。
 
──魔女なんて呼び名はお上品すぎる。お前なんてクソガキだ。本物の魔女はもっと悪辣だぞ?
 
 かつて言われた言葉を思い出す。遠慮のかけらもない乱暴な言葉。しかし本心から言われた言葉に私は悔しいけど嬉しくなってしまった。ただの子供として接してくる彼女は今まで出会ったことのないタイプであった。先生とは違う。しかし一緒に居て心地は悪くない。でもそれを本人に知られるのは癪だから私はいつもの様に憎まれ口を叩く。
 
「ほらほら遅いよ!もう歳なのかなー?介護施設ならおすすめがあるよ!」

 今日は悪くない一日になりそうだ。
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