「本当にやるのか?」
昼下がりの日。ここは人気がない裏路地の一角。人がわざわざ来ようとは思わない行き止まり。そんな場所で鬼巫女は彼女と対峙する。
向かう相手はストレッチをしながら
「ああ、実戦に近い訓練がしたい。貴女が一番適任だと思った」
「物好きだなぁ……」
帽子に口を覆うマスクが物々しい。目つきも鋭く気の弱いやつが見たらそれだけで気絶しそうだ。それもそのはず。相手はガチガチの軍隊教育をした錠前サオリだ。以前に私がキレてたせいでフルボッコにしてしまった過去がある。いや、まあ大人気なかったと私なりに反省しているけども。
そんな事されてもこうして訓練を頼みに来るサオリは中々根性がある。トラウマになってもおかしくなかったろうに。
「ま、暇つぶしにはなるからいいけどよ」
ポケットから取り出した紙パックにストローを突き刺し口に咥える。もちろん中身は酒だ。
「……?準備はいいのか?」
そんな様子にサオリは困惑するが
「ハンデだハンデ。遠慮しねーで、はよ来い若造」
ちょいちょいと片手で手招きすればサオリは完全に戦闘体制に入る。目が据わってるあたり怒ったか?
構えたアサルトライフルから放たれた弾丸の雨をひらひらと躱していく。しかしサオリに動揺はない。織り込み済みだったのだろう。射撃を続けながら接近してくる。
それに対して私は片手で酒を飲みながら後ろに床を蹴って距離を取ろうとする。しかしその前にサオリが追いつく。銃口を突きつけようとしてくるので片手で横から抑えて銃身を逸らす。行き場をなくした銃撃は背後のコンクリート壁に弾痕を残す。
「動きが直線的だぞ」
「フッ──」
即座に持っていた銃を手放し、鋭く放たれた顔を狙う蹴りの一撃。
「あっぶな」
すれすれのところを上体を仰け反らせて回避する。サオリは姿勢が崩れた今がチャンスと判断。勢いのまま再び攻撃を──
「キレがあるのはいいが、この至近距離で蹴りはあまりよろしくない」
蹴り終わった直後を狙うように自身を支える軸足を足払いされる。一瞬の浮遊感を味わいながら空中で姿勢をグルン!と変えて胴回し。勢いのままに回転蹴りを鬼巫女の頭に叩き込む。
「いってーなおい!」
非難の声があがる。
直撃した。だが、サオリは失敗したと判断する。確かに当たったが、当たる直前、鬼巫女はあえて微前進しインパクトをずらして威力を殺したのだ。音こそ派手だが大したダメージにはなってない筈。
ここだ。鬼巫女は一見ふざけているようでその動きには、自分では及ばない程の経験値の高さが垣間見えるのだ。その動きを盗むだけで訓練の価値があるとサオリは考えている。
懐から取り出した軍隊モノのサバイバルナイフを取り出し果敢にサオリは猛攻を仕掛ける。右に左に、フェイントも織り交ぜながら鬼巫女に肉薄する。しかしそれら全てを時にずらされ、防がれ、流される。どれだけその攻防が続いたか。額から汗が流れる頃には太陽が傾き、昼の終わりを告げていた。
「満足か?」
「……あぁ、付き合い感謝する」
肩で息をする自分を落ち着かせ、武器をしまう。
「ま、悪くないんじゃね?後は経験だけ積めば一流だよ。アドリブに強くなれば言う事なし」
「経験……か」
サオリは今日の動きを忘れないよう努めながら気になっていた事を聞いた。
彼女は強い。以前アリウススクワット全員を同時に相手にしながら蹂躙された過去を振り返って、遥か高みにいる強さだと理解している。しかし、彼女は一体どこでそんな強さを身につけたのだろうか。
参考になれば、との思いもあるが実際のところ好奇心があった。そんな事を尋ねてみれば帰ってきた返答はシンプルだった。
「ガキの頃から喧嘩してたからだな。強くなきゃ死ぬような所にいたから必要に迫られて、ってやつよ」
どんな所だろうか。キヴォトスでの話ではなさそうだが。
「だけど真似はすんな、私のやり方は邪道もいいところだ」
そういう彼女の顔は何処か憂いを帯びていた。
錠前サオリに対する鬼巫女評価
生真面目でなんでも吸収しようとする意欲は認めるが、参考にするものは選んだほうがいい。私のようなゴリ押しを覚えても悪癖にしかならんぞ。
単騎での強さなんてあまりキヴォトスじゃ意味がないだろう。折角チーム組んでるんだから強みを活かせ。
ただ身のこなしは中々いい。今後に期待できる。