『便利屋68』
──きて
微睡の中、誰かの呼ぶ声が聞こえる。モゾモゾと動くが声は止まない。
──起きて
止まない声を無視して目を閉じる。次第に体を揺らされ
「起きて!」
ゴロゴロと押し出されて寝ていたソファからずり落ちた。ゴンッと鈍い音が床から響き、強制的に覚醒させられた。
「随分と刺激のある目覚ましが来たな……」
痛む頭を抑えて立ち上がるとそこに居たのは白い髪の中に黒髪が混じる少女、鬼方カヨコだった。
「掃除の邪魔だから、早く起きて」
ブスッとした表情で腰に手を当て、やれやれといった雰囲気を出すカヨコに半眼で見るも効果はなさそうだ。仕方なしに立ち上がり伸びをして窓の外を見る。既に陽の光がうっすらと建物の隙間から覗き始め、朝の到来を告げていた。
「ふぁ〜……もう朝か」
ポリポリと頭を掻く。二度寝って感じでもないな。
「立ってないで手伝って。やる事ないんでしょ?」
「おいおい、もうちょっと優しく言って欲しいな。それに暫定だ。依頼でも来ればそれなりに動くさ」
そう言いながら、社長机の上に広がる資料、もとい雑誌やらの物を適当に取って一箇所に纏めておく。
「しっかし、あの社長も物好きだなぁ」
ちらりと見れば本棚にはハードボイルドを纏めたような小説やら漫画が並んでいる。
「私のどこかハードボイルドなんだか。私は好きなようにやってるだけだぞ?」
適当に本棚から一冊抜いて見てみる。うぇ、フィリップマーロウとはまたベタな。
「それがアウトローってやつなんじゃないの?社長が決めたことだし」
「なんだ、不満はないのか。私が言うのもなんだが、こんな何処の馬の骨とも分からん奴だぞ」
私ならやらんね。こんなの。あの社長の提案に乗ったのだって、酒が飲めて煙草も吸えるかもしれん。と言う話だったからだ。
どうにもこの街は特殊らしく、通常の金銭が使えないようだ。そうなれば結局何らかの方法で金がいる。かっぱらってもいいが、お巡りに追いかけられるのは面倒だ。
「かもね。でも自分からそんな事言う怪しい人はいないよ。だからとりあえず文句はないかな」
「そーかい」
適当に掃除を切り上げて私は便利屋68、その事務所を出ることにする。
「依頼が来たら知らせ……ってあれだ、連絡取れるもんがねぇや。まあ適度に事務所に寄るわ」
「分かった」
そう言って壁につけられたフックに吊り下げられていたコートを肩から羽織って外に出る。慣れないものだが、こうでもしないと怪しいらしいので便利屋が所属しているという学園のコートを借りた。しかし、焼け石に水だと思うのは私だけかね?
外は陽が出てきているとは言え、まだ早朝。冬もそろそろ終わりにも関わらず、寒さが肌を刺す。良い加減暖かくなって欲しい。
「さてと。外に出たはいいが何もする事がねぇ。適当にブラックマーケットでも冷やかしに行くか」
金がまだないからな。酒が恋しい。もしくは金になる話でもないものか。そんなことを考えながらキヴォトスの街を私はブラブラと歩く事にした。
──『鬼巫女』と呼ばれる女性について
そうだね……一言で言えば破天荒な人、かな。私も見た目で不良だって勘違いされる事がよくあるけど、あの人ほど見た目と一致する人も珍しいんじゃないかな。一応、うちの顧問って事になってるけど居候だし。
──なんでそんな事に?
うちの社長が一目惚れしちゃってね……あ、別に変な意味じゃないよ。「あれこそ私が目指すハードボイルドそのものよ!」って目を輝かせてね。本人も突然そんなこと言われて手を握られて珍しく目を白黒させてたかな。
──最初の印象は?
すごいだらしない人、かな?ヘイローもついてないのに物凄く強いんだけど、普段の生活はだらけてて。暇があれば酒を飲んでた。あれで素面のままなんだから凄いよね。
──今の印象は?
ふざけ倒してるけど、やる時はやる人かな。見てないようでちゃんと見てる事が多いし。あと怒らせたら多分キヴォトスで一番怖い、というよりヤバい人。見た事ないけどそんな感じがする。
──答えてくれてありがとう、カヨコ。
こんなのでいいの、先生?あと、こういうのは本人に聞いた方がいいと思うよ。あの人、隠さないだろうし。