澄んだ記録を目指して   作:上条@そぉい!

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真夏のある1日


『めっさ暑いわ』

 ジリジリと、熱が音を放つような気がする。日差しを避けて事務所に籠っているはずなのに汗は滝のように出てくる。しかし、事務所にいる皆は何も言わずに各々のやりたい事をしている。

 これは……あれだ。サウナに一緒に入ろうぜ!と皆で入ったはいいものの、心は既に根を上げているのに見栄を張って外に逃げ出さないチキンレース。

 誰もが『暑いから出たい』と言いたいのに言えないジレンマを抱えているアレだ。

 

「…………」

 

 何気ないように周りに視線を移せばサッと全員が目を逸らした。全員が全員、『早く誰か言えよ』という空気に耐えられないからである!

 

「社長?」

 

 ここで、大人として言わなくてはと。鬼巫女が仕掛ける──その心はファッキンホット一つである。

 

「な、なによ」

 

 私の視線を受けてたじろぐ社長に私は圧をできるだけ出さないよーに抑えながら何気無く聞く。

 

「今日、暑いよな」

 

 ──言った

 

 何も言わぬままに事務所内へ電撃が迸る。

 

「えぇ……暑いわね」

 

 そう言いながらも社長は一切目を合わせようとはしない。部屋の隅に視線を向けている。

 

「エアコン、あるよな?」

 

 圧を出さないままに会話を進めるも、相手の返事は曖昧だ。オウム返しの返答に私は苛立ちを込めて追求を開始した。

 さしずめ、社長は被告人で私は検事だろう。逆転できるならしてみろ社長。

 

「も、もちろんあるわよ!」

 

「ほう?()()()()()()このクソファッキンホットの中で節電、だなんて殊勝な心掛け──アウトローには似合わないよなぁ?」

 

 その視線はキリキリと鋭く変化していく。心なしか、暑いはずの社長の顔は青い。

 

「も、もももちろんそうよ!」

 

 社長と私を隔てる空気は夏だと言うのに冷ややかなものであった、と後にカヨコはこの時の事を告げる。

 

「じゃあ、聞くんだけどよ」

 

 ゴクリ。蛇に睨まれたカエルのような面持ちで社長は喉を鳴らす。いつもなら口を挟むハルカすらオロオロとするばかり。ムツキもカヨコも見守るスタンスへ移行。アルを助ける者はいないのだ。

 

「社長の背後、上にあるエアコンから煙が吹いてんのはどういうことなんだ?」

 

 ん?とにっこり笑って聞く。もはやバイブレーションのように震えながらアルはバシンと机を叩いた。

 

「わ、私は何も知らないわよーッ!何もしてないのに壊れたんだから!!」

 

 そう叫ぶアル。そう。現在真夏のクソ暑い日にも関わらず。事務所のエアコンはお釈迦になってしまったのだ。これでは灼熱の日差しを受ける砂漠である。唯一のオアシスであるエアコンがないという重みは全員に危機感を持たせた。

 

「何もしてないのに壊れる、ねぇ?機械関係で一番聞きたくねーワードだわ」

 

 何もしてねーなら壊れるわけないんだわ。しかし、このまま暑さへの苛立ちをアルにぶつけても問題は解決しないだろう。

 

「直すのはいつだよ?」

 

「……今は、ちょっと……」

 

 なるほど。直したくても直せないと。はー、ファッキン。手っ取り早く金が必要だな。私1人なら強盗でもしてやろうかと言う気になるが、それをすれば「先生」が黙ってないだろうしなぁ……。

 いや、待て。それなら「先生」に相談してみたらどうか。アイツなら何らかの依頼を斡旋してくれる可能性がある。そこまで結論を出し

 

「社長」

 

 未だビクビクしていた社長は

 

「は、はいぃ!いや、何よ!」

 

「落ち着け、こういう時は先生に相談しよう。この暑さの中で互いに責めても生産性はねー。クールに行こうぜ社長」

 

「流石はうちの顧問!私が考えていた事にすぐに気づくとはね!」

 

 ふふんと胸を張るアル。調子いいなコイツ、と思う私。しょうがないな、とため息を吐くカヨコ。いいねー!とこっそり「先生」にイタズラする事を考えるムツキ。流石ですアル様!といつもの如く社長を褒めるハルカ。

 結局のところ、便利屋68は暑さの中でもいつも通りだった。

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