今日も今日とて私はいつも通り。事務所のソファにだらしなく横になり雑誌を読み、片手で酒を飲む。いつもならそれを咎めるカヨコもいない。どうやら便利屋総メンバーでの依頼が舞い込んでいるらしく出払っている。私?興味がなかったのでパスだ。
そんな紙を捲る音だけが満たす事務所に、来客のノックの音が鳴り響く。電話ではなく直接事務所に来る依頼人は限られている。今回は……
「トイレなら他所当たってくれ、ここは満員だぜ」
雑誌から目を離すことなく扉の向こうに居るであろう誰かに呼びかける。
── 入るよ、鬼巫女。
扉を開けて入ってきたのは「先生」だ。片手には酒瓶が握られておりこちらに見えるように掲げる。
── 聞きたいことがあるんだ
「酒を人質にされちゃあ私も無視はできんな、何か話か」
パチン、と音を鳴らして両手で雑誌を勢いよく閉じ机に投げ、体を起こす。
── 今やってる案件で、第三者からの意見が聞きたくて。話が長くなるけどいい?
「だから酒持ってきたんだろ?私からすりゃタダ酒飲めるし断る理由もねーよ」
真面目な顔で一息入れ、話し始めた。それはどうやらトリニティ、ゲヘナの二大学園を巡る話のようで。あれやそれやを聞かされる。酒をちびちび飲みながら聞いて私は思ったことを口にする。
「そもそもガキ共がそこまでの権力を持ってることに私は違和感しかねーけど。外から来た私だからかもしれねぇがそれは歪だぜ」
ここにいるのはどいつもこいつも思春期の子供だ。そんな奴らが冷静で公正な判断ができるとは思えねぇし、それが普通に罷り通るのがまずおかしい。
「そのティーパーティだったか?ナギサって奴の言ってることも一理ある……だけど、こいつは私の経験則というか談になるんだが。疑うことは悪くない。だが『こうに決まっている』と思った上で疑うのは不味いぜ、目を曇らせる原因だ」
「疑った上で疑う事と、信じた上で疑う事は全くの別物だ。そこ履き違えてると致命的な間違い犯すぜ、そいつ」
そこまで言って酒をグビリと一口。
──危うい、とは思っているんだけどね
「分かってるならいいけどな。それとそのエデン条約ってやつが中々にクサい。側から聞いてる私ですら悪用できるだろうって思いつくくらいだ。裏で考える奴は必ず居るぜ」
裏のまた裏、その裏くらいには潜んでるやつがいると思ったほうがいい。案外狙われるのは「先生」だったりするかもな?
── その時は依頼しようかな
「この酒はその先払いか?参ったな、もう飲んじまってて断れん。策士だな」
──勝手に開けて飲んだの鬼巫女でしょ……
と、そんな訳で私は現在、ゲヘナとトリニティが調印するとかいう大きな聖堂に来ている。関係のない生徒たちからすれば大きなお祭りと変わらんが、その実関係者達はバチバチに睨み合ってて撃ち合いがそのうち始まりそうな気配すらある。
「はぁ……」
真面目な所だから、と「先生」に黒スーツ着せられて息苦しいってのに。こういう空気は好きじゃない。もっとだらだらしてたい。
──もうちょっとだから
辟易した様子の私にそう声を掛ける「先生」だが。その目にクマが出来てるし中々に忙しかったのが見てとれた。こうして調印式当日になる前にも色々あったらしい。内紛というか、ティーパーティの誰々が云々と。私の忠告は無意味に終わったか?
護衛らしく突っ立ていれば終わるんだろうが退屈には勝てない。「先生」も同意見のようで、シスターフッドだかのシスターに案内してもらいながら聖堂の中を探検していた。
確か若葉ヒナタって言ったか。最近の子供はみんなデカいのか?なんかキヴォトスはやべーヤツが多くて私の感覚がおかしいのかと思い始めたぞ。
──鬼巫女、行こう。
そんなこと考えてたら、どうやら主賓が到着したらしい。すぐに調印式が始まる。
「あいよ」
そう言ってふと広間へと繋がる廊下、その窓の外を何気なく見た。今考えるとお気楽というか、能天気すぎたと反省している。先に裏で悪用を考えるやつはいる、まで予想してるくせにな。
窓の外、上空にはミサイルがいくつも見えた。
──は?
そんな声が漏れた。次の瞬間、聖堂を含め、その周囲をまとめて巡航ミサイルが着弾。聖堂に仕掛けられていた爆弾と共に私は吹き飛び、瓦礫の下敷きになった。
直接的なストーリー話を書くのは最初の方以来ですが、書いていてつまらないと感じたら速攻でまた短編に戻ります。バニタスバニタス