どれくらい気を失っていたか。実際のとこは数分程度だろうが、私からすれば長すぎる数分だった。
「──ッ」
パチっと目を開ければ眼前には瓦礫の山が。全身が瓦礫に埋もれ潰されていたがこの程度なら。
「フンッ!」
ドゴーンッ!と激しい音を立てて瓦礫が宙へ吹き飛んだ。その中からのそりと立ち上がる。スーツは所々に穴が空き、泥と血でその長い髪は燻んでいる。
しかし、未だ御体は満足である。
「いってー……」
節々の痛みを軽く体を動かし様子見しながら鼻血を手の甲で拭い、ボロボロになった上着を脱ぎ捨てる。
「キヴォトス来てから私、油断しすぎかもしれん。銃があって戦車もあるならミサイルだってあるのは当然だろバカめ」
自分に悪態をつきながらも、状況を整理する。辺りに「先生」の気配はない。こんな事をする奴らの目的は分からん。トリニティとゲヘナの協力を不都合と見た奴らの妨害工作かもしれないが……真実は今どうでもいい。
護衛の依頼を受けた以上、私の最優先は「先生」である。既にこんな体たらくでは、依頼を達成したなんて口が裂けても言えない。だが、ミスはこれから取り戻せばいい。
その時である。ぬらり、としか表現できない威容の人間達が私の前に現れた。それらはシスター服を纏い、顔をガスマスクで覆う人間達。
「救助にきた……って感じじゃなさそうだ。下手人はお前らか?」
そう尋ねるも返事はない。代わりに帰ってきたのは手に持った銃から放たれる弾丸であった。額目掛けて飛んでくるそれを首を横に傾けて避ける。
「お喋りは嫌いらしい。お友達にはなれそーにないな」
更に撃ってくる集団を前に突撃。正確無比に放たれる弾丸は逆に避けやすい。合理に基づいて放たれるそれは丁寧すぎるからだ。
ひょいひょいと避けて手近にいた2人の人間の顔を両手で鷲掴み。そのまま勢いで地面へと叩きつけた。
──ん?
その時、手に伝わる感触に違和感を覚える。まるで中身がないスカスカの寒天のような気持ち悪さに、鬼巫女は即座にその正体を予測できた。
「こいつら人間じゃねぇな?機械みてーな射撃するから妙だとは思ったが」
人外の相手など死ぬほどやってきた鬼巫女にとってそれはむしろ好都合。何故なら。
「なら手加減は抜きだ。時間もねーしな」
もしもこれが生徒なら手加減をしていただろうが、その必要がないなら容赦はしない。
「そぉい!」
叩きつけた人間モドキのそれを持ち上げ、石でも投げるかの如く、目の前にいる奴らに叩きつければ、それらはひしゃげて周りを巻き込みながら紙屑のように吹き飛んでいく。
「はっはっは、中身が軽いとよく飛ぶ」
薄く笑いながらもその目は鋭い。ふざけているようで相手を分析する思考は回り続ける。投げた後、着弾するまでの間に先程叩きつけたはずの人間モドキの顔は再生を始めていた。
少なくとも結構な力でやった筈だが……
「再生持ちか。だとすりゃ定番は無限湧きか?おいおいゾンビ映画じゃねーぞこれは」
映画の主人公ならば薙ぎ倒し続ける場面だが、そんなのに付き合うほど悠長に構える余裕は鬼巫女にない。時間を掛ければ掛けるほど、「先生」の生存は薄くなる。一刻も早く合流する必要があった。故に。
「そっちがその気なら、私もズルさせてもらうぞ」
普段禁じている力の解放を即決。漏れ出た力が赤黒い霧のように鬼巫女の足元を纏わりつく。
地面を砕きながら前へ加速。集団に向かって拳を一振りする。それだけで人間モドキの集団はその数を減らし、空へと吹き飛びながら消えていく。辛うじて被害の薄い者たちも、受けた傷は一切の再生をやめていた。
「何処だ先生」
走り回り、人間モドキに襲われていた生徒をついでに助けながら視線をあちこちに走らせその姿を探す。気配もない以上、既に避難したか。もしくは──
「チッ、そんな事させねーからな」
死んだ姿を想像して舌打ち。一度受けた依頼である以上、出来ませんでした。では社長達に顔向けできない。そんな思いで更に駆ける足は加速していく。
「あなたは……ッ!」
そんな時、急ぐ私を見て反応したのは助けた生徒の1人。トリニティの生徒会みてーなポジションにいる奴らだった。確か正義実現委員会、だったか。普段なら揶揄いの一言でも言っているんだが時間がない。単刀直入に聞いた。
「先生は何処だ!」
「先生は無事です!先程風紀委員会の空崎ヒナを連れて離脱しています!」
そんな私の思いを察してあちらも端的に答えた。答えたのは背中というか腰についた大きな黒い翼が特徴の生徒。羽川ハスミだった。その横にいたのは爆発前にいたヒナタか。
「オッケー、生きてたか」
最悪の展開はない。そう安心して一度慌てていた頭を落ち着かせる。あの委員長がいるなら余程のことがない限り「先生」に危険はないだろう。あの容姿だが、実力はある。
「色々と話したいところだが今はちょいと立て込んでる。ここの奴らを任せていいか」
「分かりました、どのみちそのつもりでしたから……随分と傷が酷いですが平気なのですか?」
側から見ればボロボロだからな、結構血も出てるし。ヘイローを持っていない私を心配しているのだろうが、この程度なら軽傷だ。
「慣れっこだから気にすんな。それと分かってるかもしれねーが、ここに湧いてる奴ら化けもんだから容赦なくやっていい。つーか多分無限湧きだ」
その言葉に対するハスミ達の驚きは少ない。既に経験した後だったか。
「分かっています。貴女は先生を追うのでしょう?先生達はあちらの方向に行きました」
そう言って方向を指差すハスミ。こうして会話してる間にも人間モドキの奴らが襲っているが、なんかすんげー怖い笑い方する生徒が両手に持った散弾銃二丁で周りを暴れてるためこちらにまできていない。ヒナタは援護しながらもオタオタしている。気が弱いタイプか?
「ん、助かる。私の手伝いは要らないようだしさっさと合流してくるよ」
この様子なら大丈夫だろう。私はその場で空高くジャンプ。ふわっと浮遊感を感じながら高い位置にまで飛んだら、そのまま空気を蹴って加速。市街地に入ったらビル等の足場を蹴りながらその反動で更に加速していく。
と、その時。市街地の何処かで聞き慣れた銃声がした。
「ヒナの銃の音か、向こうだな」
音を拾った瞬間、ビルに蹴りを入れて方向転換。勢いを殺して反転。再び加速する。この速さで向かえば到着はすぐ。
「──待たせたな!」
その姿を最初に見つけたのは空崎ヒナだ。必死に先生を逃がそうと、重い体を引きずって敵の銃弾を身で受け止め。先生が車で離脱できたのを見て力が抜ける。
倒れて仰向けになったヒナが空を見て、安心した。
「待たせすぎ」
いつもふざけていて好きではないけれど。その実力は誰よりも買っているつもりだから。もう大丈夫だと、ふんばっていた体の力を自ら抜いた。
空から急降下し、コンクリートの道路を砕きながら。アリウススクワットの目の前に現れたのは──
突如の乱入にアリウススクワットリーダー、サオリはは油断なく銃を構える。
「──小便は済ませたか?神様にお祈りは?」
ボロボロ、しかし、乱れた髪の間から覗く鋭い紅い目はハッキリとこちらを見据えていた。
「スクラップの時間だ。部屋の隅でガタガタ震える時間もいらねーよな!」
怒気を放ちながら、空崎ヒナを背にようやく到着した鬼巫女であった。
今回、依頼云々を省いても彼女が介入する条件は揃っている為、割と容赦なく動きます。
それにしたって登場の仕方が味方じゃなくてBOSSとかそういう類のそれです鬼巫女さん。総力戦の開幕ムービーかな??