あれからヒナも私も救急医学部によって野戦病院みてーなところに連れて行かれた。ヒナは意識を失いそのまんま。私も重傷らしいが無視だ無視、この程度なら休んでるうちにある程度なんとかなるわ。
問題は……タバコの一つでも吸いたいんだが、その度に忙しそうにしている看護の奴らに睨まれるんでお手上げな事か。酒もタバコも無けりゃ私に何が残るのか。
仕方ないので廊下の隅で壁に寄りかかってるワケ……しかし目の前のコイツは落ち着きがねーな。
青い髪に横乳が丸出しの制服、制服なのか?確か名前は天雨アコだったかな。普段は便利屋にいる事もあって私に対する当たりが強いが、ヒナのことが心配でそれどころではないらしい。
さっきから私の目の前で爪を噛みながら廊下を右往左往している。
「落ち着けよ横乳。バルンバルンと揺れてて目の毒だぞ?せっかくの美人がまるで般若だ」
「誰が横乳ですか!?ヒナ委員長が大変だというのにこれが落ち着いていられる訳がないでしょう!?」
だからこそクールにならなきゃいけないんだろうに。沸騰したお湯は蒸気となって消えて行くだけだ。
「仮にも組織の上にいるんだから動揺した姿見せてどーすんだ。こんな時こそどっしりしてなきゃ下はいつまでも落ち着かねーぞ」
「ッ……分かってますよ!でもそれとこれは別です!貴女が居ながら何故こんな……!」
「私があの場に来れたのはギリギリだった。それに今回ばかりはあいつがMVPだ。あそこまで時間を稼いでなきゃ先生はおろかヒナも危うかったからな」
そういう意味では私の立場はない。大人しく責められておくべきなのだろうが……私もちょいと腹が立っている。このまま終わらせるつもりはない。
しかし……状況は思った以上に悪い。エデン条約とやらが何者かに書き換えられ、今やゲヘナもトリニティも滅びの危機を迎えている。詰みが近い。私が全部ぶっ飛ばせるなら話は早かったんだが、今の私じゃその前にダウンする。
……こういう時は一度情報を整理してみるに限るな。まずこれをやった犯人について。ゲヘナでもトリニティでもない、私が相手した奴らとは特徴が違う。そいつらの狙いは何だ?
あの聖堂には権力者、つまり組織のトップ達が集まっていた。そこを狙い撃ちにする事でゲヘナとトリニティの動きを麻痺させた?いや、それもあるだろうが恐らく本命は違う。それに「先生」を狙う理由がない。あの人はゲヘナともトリニティとも違う所属──
その時、私の中で閃くものがあった。
もしや「先生」が狙われた理由は、相手にとってこの詰みをひっくり返される可能性があるからではないだろうか?確証は何一つない。ただそれだけの理由だが。まだ詰みは回避できる気がしてきた。
「──先生が目を覚ましました!」
そんな報告が飛んでくる、その言葉に私は即座に寄りかかっていた壁から離れて「先生」の元へ向かう。アコは何やら別の報告を聞いて顔が青くなっていたが後回しだ。
私は「先生」に言わなくちゃならん事がある。
病室に入れば生徒達に止められながらベットから立ちあがろうとする「先生」の姿があった。
「悪い先生。依頼達成できなかった」
こちらに気づいた「先生」は歩いて向かってくる。
──その傷じゃ鬼巫女も大変だったんでしょ?気にしてないよ
「そうは言ってもだな……いや、言い合っても仕方ないか。どうやら事態は他人事じゃないらしい。だから──改めて依頼して欲しい」
本当ならそんなもん要らない。だがこれはケジメだ。便利屋として動く以上、只働きは社長にどやされるし。何より依頼しくじったのにそのまんまは私が許せない。次は、次こそは──という宣誓である。
──じゃあ、依頼するよ。
──ゲヘナとトリニティ。この事件を解決する手助けを。1人でも多くの生徒を助けて欲しい。
その言葉に私はニヤリと笑う。先生も穏やかに笑っている。
全くこの「先生」は……危険なヤツはぶっ飛ばせとも言えたのに。わざわざ助けてと。自分だって撃たれた癖に。
わーったわーった。ムカついてたがそれは飲み込む。やるよ。
「その依頼、受けたぞ」
そう言って2人で片手をあげパチンとハイタッチして、私は窓から外へ飛び出す。「先生」も事件解決の為に動き出した。
「いや、貴女もまだ傷の治療してないから入院して欲しいんですけど……?」
その一部始終を見ていた鷲見セリナがボソリと呟いた。
なんだかんだ雰囲気で病室から脱出した彼女。逃げられた救急医学部は泣いていい。