「あーくっそ、何処行ったアイツゥ!」
追いかけているうちに見失った。まだこの事件の終わりが見えない以上、前のような高速機動で動き回って体力を消費する事も出来ない。だから現在私は、適当に路駐されていたバイクをかっぱらって乗り回していた。
「闇雲に探しても埒が開かない、なんかヒントになるようなもんでもねーか」
甲高い音を鳴らしながら疾走していたバイクを止め、物音の有無で何らかの方向が分からないかと思案する私の近くでバチャバチャと水溜まりを足が叩く音がした。
「あん?」
そちらに顔を向ける。そこには複数の生徒と一緒に走る「先生」の姿があった。
「よぅ先生!お急ぎかい!?」
声を張り上げれば向こうもこっちに気づいたようだ。
──鬼巫女!生徒を探してるんだけど見なかった!?
向こうも探し人が居るらしい。
「奇遇だな、私も探してる!白い翼した生徒なんだけど見失ってよ。何かやらかす前に見つけたいんだわ!」
──もしかして、アズサ!?
「もしや同じ奴か?ちょうど良い、乗ってくか!?」
「私分かります!多分あそこに……!」
そんな2人の会話に割り込むのは1人の生徒。気弱そうで、変なキャラクターのリュックを背負った生徒だ。
──わかるの?ヒフミ。
「はい!何となくですけど……」
どうやらヒフミと言うらしい。話はいい、分かるならさっさと行くべきだ。多分時間はねーぞ。
焚き付けた本人であるが、ああして向かったあの時の生徒の顔にはある種の覚悟があった。何かやらかす前触れにしか見えなかったからな!
「だったら乗りな!先生達は後からついてくれば良い」
──分かった!ヒフミ、お願い。先に行って。
「は、はい!」
こちらに来るヒフミは、恐る恐る、私の乗るバイクの後ろに座り、私の腰に手を回した。
「え、えっと。よろしくお願いします?」
「喋ると舌噛むぜ、全開で行くからな」
アクセルを回して吹かし、全開でトップスピードにまで加速していく。
風と一緒に雨粒が全身を叩く。道には人間モドキ達も居たが関係ない。全部跳ね飛ばしていく。
「こっちです!曲がって真っ直ぐ!」
「あいよ!」
タイヤを滑らせながら瓦礫をジャンプ台代わりに派手にバイクごと大ジャンプしていく。
そうして目的地に辿り着く。そこには前に私がフルボッコにした生徒達と、目的の生徒、アズサと言われていた生徒が対峙していた。
「アズサちゃん!」
急停止したバイクから飛び出して今にも倒れそうなアズサを支えるヒフミ。
「どうやら間に合ったか。どうしたものかねこれは」
このまま私が間に入ってフルボッコにしてもいいが、それが果たしていいのか。まあ「先生」も来るなら私は静観していた方がいいか。そう結論つけて私はバイクを停めてそのまま跨ったまま事態を見守る。
「私は……私は!普通の人なんかじゃありません!アズサちゃんがそうでないように!私も……『覆面水着団』のリーダー、ファウストです!」
なんか、トンチキな事言い出してないかアイツ?あ、紙袋被った。っておい、あれもしかして前に銀行強盗の時にいた奴か!?
「はっはっはっは!!やばい腹いてー!」
まさかそこでそれが出てくるとは思わず私は腹を抱えて笑った。いいねぇ!真面目系かと思ったが不真面目系か!
そんな私を置いて、周りの空気は困惑だ。何を言い出しているのか、といった感じだろう。
「だから!私たちが別の世界にいる、なんてありません!同じです!隣にだって立てます!拒絶されようと、必ず近くに行ってみせます!私は!」
ヒフミの宣言は雨の中、よく通った。
「……ヒフミの気持ちは嬉しい。でもそんな嘘なんて」
それに対するアズサの言葉は弱い。嬉しさと、しかしダメという拒絶が混じった言葉には力がない。
──誰が嘘だって!?
そんな時、更なる乱入者達が現れた。
「いや〜、大変なところみたいだね?」
事態に似合わないほんわかした間延びのある声が。
全員がそちらに顔を向ける。
そこには、額に番号が振られた覆面姿の生徒達がいた。
あっ、後ろに先生とさっきいた生徒達もいるじゃん。合流できたか。
「目には目を、歯には歯を、無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く」
「ん、それが私たちのモットー」
「普段はアイドルとして活動していますが、夜になると悪人を倒す副業をしているグループなんです」
マジかよやべーなアイドル。
「別にそんな事してないから!?あと変な設定つけないで!」
私は既にゲラゲラ笑っている。いやー、こんな時に来るとは。「先生」が呼んだのか?しかし……この数が相手なら、向こうもタダじゃ済まないぜ?どうするよ。
「…………うぅ」
あっ、ヒフミが紙袋取っちまった。それに合わせて覆面水着団のメンバーも覆面を取っていく。
設定はどうしたアイドル。
「あちゃー、流石に恥ずかしかったかな」
「の、乗ってあげたのに!」
そこにいたのはアビドス対策委員会のメンバー達だ。皆、ヒフミを助けようと集まった奴ら。チラッとこちらに視線を向けるホシノにはスルーさせてもらうが。
「私はすっごく怒ってましたが、それ以上にアズサちゃんが無事で安心しました。ですが、あの人達にはまだ怒ってます」
そう言って、視線をアズサからアリウススクワッドに移すヒフミ。
「殺意だとか、憎しみですとか。それがこの世の真実である、なんて強要して。全ては虚しいのだとか言い続けてましたが」
そこまで言って、ヒフミは体ごとアリウススクワッドに向き直る。そして宣言する。
「それでも私は、そんな暗くて憂鬱な話は嫌なんです。それが真実だって、この世界の本質だって言われても。私は嫌なんです!」
「私には、好きなものがあります!」
ヒフミの宣言を、皆静かに聞き入る。声こそ出さなかったが、鬼巫女もまた、その言葉に笑みを浮かべ頷く。
「平凡で、大した個性もない私ですが……私の好きなものについては、絶対譲れません!」
そうだ、それでいい。人たらんとする者達に必要なのは欲だ。それだけは譲れない欲が必要なんだ。
「友情で苦難を乗り越えて、努力がキチンと報われて。辛い事は慰めて、友達と慰め合って。苦しいことがあっても……誰もが最後は、笑顔になれるような!」
「そんなハッピーエンドが私は好きなんです!!誰に何と言われようと、何度だって言い続けてみせます!私たちの描くお話は!私たちが決めるんです!」
「終わりになんてさせません!まだまだ続けていくんです!私たちの物語……!私たちの、青春の物語を!!」
その時、淀んだ世界を晴らすかの如く、雨は止み、空には雲が消え、日が私たちを照らし出した。
それに合わせて「先生」も宣言する。
──ここに、宣言する。私たちが、新しいエデン条約機構。
その宣言をした途端、アリウススクワッドの後ろに控えていた人間モドキ達に変化が現れる。その実像は薄れ始め、挙動がおかしくなっていた。
「ほー、要は条約に捩じ込んで混線させたのか。こうなると想定された動きは出来なくなるよなぁ」
前もって聞いていたエデン条約の話と合わせて察した。こういった真似は私には思いつかん。頭悪いからな。流石だ「先生」見事に詰みを解いたな。
しかし、アリウススクワッドはそれでも諦める気はないらしい。ここで「先生」達を倒せば元に戻ると考えたようだ。
そうして「先生」率いる生徒達と、アリウススクワッドは衝突。すぐに勝敗は決まった。
負けたアリウススクワッド達は聖堂の地下道へと逃げ込み、それをアズサと「先生」が追いかける。
「っておい、私を置いていくな。あんな事があったのにノーマークは不味いだろ」
なんでこう、「先生」は自分に対する警戒心が薄いのか。仮にも撃たれた後だぞ。
ヒフミに対する鬼巫女さんの評価は爆上がり。欲を全面に出す人に弱いのです彼女は。敵であれ味方であれ、欲がなくちゃ始まらないので。(それはそれとして敵なら容赦なくぶっ飛ばしますが)