あれから、戦闘中のどさくさに紛れアリウススクワッドは姿を消した。分かっていたが私も無視した。理由は簡単。やるからには落とし前をつけさせなきゃならん。
かと言ってそれをすれば「先生」との依頼を破ることになる。それはできない。故にわざと無視した。
アイツらが今後どうなるは分からないが……できるなら、虚しい世界の中で『それでも』が見つかる事を願う。でなきゃ喧嘩もできん。
先生達は事態が一端の落ち着きを見せたところで解散。事後処理が大変だとぼやいていた。
──まあ、現実逃避はこれくらいにしておこうか。
私は心の中で嘆息し、今の現実を見る。
「ねぇ」
事件の余波でボロボロの事務所。冷ややかな声が聞こえる。誰もが無言の中でトントンと床を足で叩く音だけが響く。
「はい……」
私?帰ってきたら速攻で正座させられて今に至るんだが?氷より冷たい目でカヨコに言われれば従わざるおえないのである。
社長が便利屋の中心なのは間違いないが、それでも人事の事を一任されているのはカヨコなので、一番便利屋68の中で権力があるのは実はカヨコなのである。
「帰ってきたら事務所はボロボロだし……いや、事情を考えれば仕方ないのは理解できるし、前にも事務所爆破事件あったからまあ良いんだけどさ」
何も知らないけど、その爆破事件絶対ハルカもしくはムツキが犯人だよね??
ってツッコミたいが今それをすれば相手の怒りをヒートアップさせてしまうのが分かるので私は無言を貫く。人は見えてる地雷を踏まないのである。
「私は無事に帰ってこいって言ったんだよね。で、今の鬼巫女の現状はなに?」
えー、全身擦過傷に体の骨の幾つかはヒビが入ってて、なんならどっかに風穴も開いてるんじゃないか。風通しがいいよね。
「……スゥー……えぇまあ。無傷、とは言い──難いですよね?」
カヨコの圧力に私も敬語である。
「人はそれを重傷って言うんだよ」
ごもっともである。ぐうの音も出ません。いやまあ治療受けてる暇なかったし、私ならこれでも動けるし。なんて言えばただでさえ冷たい目が氷点下である。
「はぁ……」
カヨコのため息で事務所の温度はさらに下がった気がする。ちなみにカヨコと私以外のメンバーは私達を見ないようにしながら片付けに勤しんでいる。ただあれ巻き込まれたくないだけだろ!!という私の無言の主張は素気無く否決された。
「ほら、行くよ」
そう言って、正座する私の腕を掴んで引っ張り上げるカヨコ。え?何処っすかカヨコさん??
「病院、この場合は医学部かな」
それだけは勘弁してもらえないっすかねカヨコさん。私そこからどさくさに紛れて逃げてきたところなんすよ。この傷じゃ入院間違いないじゃん?それはつまり私から酒とタバコを奪う事と変わらないんすよ。絶対没収されるし!
そんな私の小声かつ高速の言い訳は全て
「は?」
という一言に一刀両断された。私は強引に引き摺られながら考える。
──今後、カヨコは怒らせないようにしよう……うん。
しみじみ思った。
その重症であの動きしてたってマジ?
何でもないような顔してダメージはちゃんと受けてますからね、この人。弱体化してなきゃ無傷でしたけど。