あーあー聞こえなーい。私は耳を塞いで聞こえないふりをする。
「ちょっと、話は終わってませんよ」
「もー耳にタコができるくらい聞いたわ!何度も言ってんだろ酒よこせーっ!」
私は今、救急医学部の部室にいる。鷲見セリナがあれやこれやと世話を焼くのだが私には良い迷惑なのである。せめて酒をよこせ酒を!
「怪我人に酒なんて毒です!」
「良薬は口に苦いんだから酒も薬だろーが!」
苦くないものもあるけど大概そんなもんだろ酒ェ!
「これはもうアルコール依存症なのでは……そっちの治療もしたほうがいいかも」
「おい待て今不穏なワードが聞こえたぞ!やらんぞ!やらんからな!?」
包帯ぐるぐる巻きにされてベットに拘束されてその上酒断ちまでさせられるとかふーざーけーんーなー!いいのか!?大人の本気の駄々こねが見たいのか!?
「──失礼するよ」
そんな騒がしいやり取りの中、部屋に入ってくる生徒がいた。ケモ耳に小柄な体型、トリニティ制服。
「あ、あなたはティーパーティの……!?」
「初めまして、になるね。私は百合園セイア。周りに無理を言って君に会いに来たんだ」
そう言って私を見るセイア。私の第一印象はガキの癖に達観した目してんなーである。すましててムカつく。
「私もこれが夢なのか現実なのかはまだあやふやだが、君がこうして見える以上現実なのだろうね」
セリナに視線を向けるセイア。要は話したいことがあるから出てけ、と視線で促したのだ。察しのいいセリナはお辞儀を一つして部屋を退室した。
「なーに言ってんだお前」
さては会話のキャッチボールできないタイプだな?まあ煩かったセリナを退かしてくれたのは有難いから話は聞くけど。
「ふむ、こうして対面するとよく分かる。君は一体何者なのかな?」
そう言って私の眼を覗き込むセイア。その目は何を見ようとしているのか。
「どういう意味だよそれ」
「私は予知夢が見えるんだ、それが未来であったり、はたまた直近の事であったり。或いは過去かもしれないね」
勿体ぶった言い方をする。ガキはガキらしくハッキリ言えとイライラするわ。こういったタイプは私の嫌いなタイプにあたる。
「ほーん、宝くじでもやってりゃハッピーになれそうだ」
「そんな都合のいいものではないんだが……まあいい、本題はここからだ」
ゴホン、と咳払いをし佇まいを改めセイアは語り出す。
「今回のエデン条約について、私はあらかじめ予知夢という形で知っていた。だからこそその忠告という意味で先生に話をしていたんだ」
ほー、この結果を見るにその忠告は役に立ったのかは懐疑的だけどな。
「ここで、一つ不審な点があったんだ。これまでに前例のないことだ」
「回りくどいな、ハッキリ言ってくれ。長話は好きじゃない」
そう催促する私を徐にセイアは指差す
「──君だよ」
「あん?」
怪訝な顔をする私を見ながら彼女は話す。
「どんな未来を見ても、君の姿だけは映らなかった。そこだけホワイト修正でもされているかの如く、真っ白。そして今回の顛末を聞けば、私の見ていた未来とは明らかに違う点が幾つもあった」
「ほーん……」
なるほどね。そういう話か。確かに映らないだろうな私は。
「だからこうして君が未来におけるイレギュラーなのか、それともjokerとなるのか。それを見に来たんだ」
明確に未来を変えられる存在がいると分かった時点で放置はできないって事か。
未来を見る自分ではなく、知らない誰かが未来を弄る事に忌避感を持っているのかもしれんが。それは未来を見るという感覚を知る者にしかわからないものなんだろう。しかし私の答えは一つしかない。
「そんなもん知るか。私は私のやりたいようにしかやらんしお前もそうだろ?」
「──そうだな、その通りだ」
「未来ってのがどんな風になるのかは知らないが、未来ってのはそこにいる誰かの『やりたい事をやる』が地層みてーに重なって作られるものだろ、弄り回すのは歴史学者だけで十分だ」
私は未来を想像して動いたことなんてねーし、私は私の心の征くままに動く。それをイレギュラーだの言われても知らんわ。
「……その結果、より悪くなるかもしれない。その時はどうするんだい?」
「そうだなぁ……そん時はまあ」
私は少し考え結論を出す。
「笑って誤魔化すさ」
その時のセイアの顔は傑作だった。間抜けな顔をしていて私は笑った。難しく考えるからそんな顔になるんだよ。未来も過去も難しく考えるのは学者だけで十分。今を生きるお前らはがむしゃらに踊ってりゃいい。
キヴォトスは地獄かもしれないけれど、鬼巫女さんは笑って言うでしょう。『地獄を楽しみな』と──