澄んだ記録を目指して   作:上条@そぉい!

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思っていた事とか、色々詰め込んだら文字数が4000越え……見苦しいかもしれませんが、お付き合いください。


『クソガキ』

 そうして先に進む事数分。向かってくる複製を消し去りながら走って漸く辿り着いた最奥へと繋がる回廊。埃まみれで使われていない事が一目瞭然だ。

 

「この先は一直線だ。この先にマダム……ベアトリーチェがいる」

 

 ──行こう。

 

 皆が顔を見合わせ頷く。複製との戦いを消耗少なく進めた事でアリウススクワッドの状態は思ったよりもいい。これならば遅れをとる事はないはずだ。しかし、鬼巫女の顔は真剣さを帯び始めており、それはこの先にあるであろうベアトリーチェ──

 

「待ってたよ」

 

 ではない。薄暗く光のあまり差さない回廊、その奥に誰かが立っていた。服はボロボロ、その端々に血がついていたが。目の奥が濁り切っている。しかし倒れそうにない嫌な力強さを感じさせる。

 

 ──ミカ。

 

『先生』は驚く。何故ここにミカ──聖園ミカがいるのか。

 

「あはっ、やっぱり来たじゃんね先生。うん、生徒を助ける。とっても先生らしいけど……それだけはさせられない。錠前サオリ、貴方だけ救われるなんて不公平だと思わない?」

 

 鬼巫女は深くは知らない。彼女に何があって。何を持ってこの場に立つのか。だがしかし、現状を考えた時──ここで時間を喰われるのは不味い。そして生徒達だけでこの場をすぐに済ませるというのは、難しい事を理解した。だから出した結論は──

 

「先生達は先に行け、ベアトリーチェは任せた」

 

 ボロボロのスーツの襟、引きちぎれて垂れ下がるだけのネクタイの根元を緩めて地面に捨て、首元をスッキリさせて誰よりも前に出る。

 

 ──いや、ここは

 

「いいから行け。生徒第一なのは理解してるがここで足止めされるだけでアウトだ」

 

 後ろで逡巡する先生を振り返る事なく私は強引に話を断つ。

 ベアトリーチェを自らぶっ飛ばせないのは残念だが、『先生』ならやってくれるだろう、と信頼しているからこそ私がここに残る。

 

「先生、行こう」

 

「行かせないじゃんね!サオリ──貴女だけは」

 

 私とミカの横を走り抜けようとする先生達を止めようとするミカ。

 

「お前の相手は私だ」

 

 動こうとするミカを飛び出して顔を鷲掴み、そのままぶん投げて近くの壁に叩きつける。派手に崩れて土埃が舞う。

 

 ──……ッ。ごめんミカ!後で話そう!任せた鬼巫女!

 

「任せろ。ただし私がやるのは足止めだけだ。生徒を導くのは私の仕事じゃねーからな。最後に必要なのは先生だってことは忘れるなよ」

 

 そこまで私は優しくない。遠ざかる足音を聞きながら私は土煙の向こうを睨む。立ち上がり、こちらに歩いてくる影。

 

「いったーい……女の子に乱暴だね」

 

「お上品なヤツだな。キャットファイトは女の子の特権だぜ?良い勉強になったろ?」

 

 土煙を掻き分け姿を現したミカは勢いのまま突撃。銃を乱射しながらこちらに接近してくる。

 銃弾を避けながら突っ込んでくるミカを迎撃。こちらを掴もうとしてくるので腕を避けて蹴りを下から顎に叩き込む。

 顔を跳ね上げられたミカはしかし怯まない。こちらが蹴り上げた足を掴んで乱雑に振り回して壁や近くの柱に何度も叩きつけてくる。

 振り回されながら、空いた片足の裏、靴裏でミカの顔をスタンプ。

 掴まれた足の拘束が緩み、私は勢いのまま壁に背中から吹き飛んだ。

 

「貴女がアリウスの言ってた不確定因子って人?私を投げるなんて凄いね」

 

 踏まれた顔を痛そうに摩りながらミカは呟く。返事が返ってくるとは思わなかった。ヘイローもない。ただの人。先生と同じでこうすればすぐに終わると思っていた。だが──

 

「そういうお前は聞いていたよりもお転婆だな。ここまでクソガキだとは」

 

 巻き上がる土煙の中から声が聞こえて、動きが止まる。肩に手を当ててぐるぐると腕を回しながら鬼巫女が姿を見せる。まだまだ健在だ。

 

 しかし、なんだ。さっきのコイツの言い分からして目的はサオリに対する復讐か?やったらやり返すはよくある話だがら否定はしないが。

 

「なんつーか、チグハグなやつだなお前」

 

 アリウス自治区に来てから視線を感じていたが、それはベアトリーチェだけではなかった。それにはコイツの視線も含まれていたんだ。復讐と言いながらこちらをずっと見ていた理由がわからん。チャンスを伺っていた?なら場面はいくらでもあった。

 私はコイツの腹の底が知りたい。理由はいくつかある。その一つは、ここから先は足止めではなく喧嘩になりそうだからだ。

 

「何がしたいんだお前?」

 

「急に何?今更怖くなったならそこどいて欲しいんだけど」

 

「ぬかせ、余裕のないやつにビビるほど弱くねーよ」

 

 こいつは軸がない。空気でなんとなくわかるんだ。後がないやつの緊迫した覚悟っつーか。そういうものが。

 

「復讐なら復讐、一本軸ってものがあるんだが……お前にはそれが感じられない。お前は何がしたい、何をしたかった?」

 

 喧嘩ってのは意地の張り合いだ。人が持つ『それでも』ってやつがぶつかり合って生まれるもの。だがそれを隠したままなんて張り合いのない喧嘩は私がしたくねー。やるなら何処までも意地を見せるもんだ。

 だからコイツからそれを聞きたいんだ私は。

 

「何って……私は……」

 

 彼女はそう聞かれて、答えに詰まった。復讐だと言えば良い。その為に私はここにきたんだから。簡単な筈だ。しかし、喉の奥で詰まる様に口は動かない。

 

「サオリ達にはあったぞ。『それでも』って言えるものが。お前はどうなんだ。復讐がお前の『それでも』か?」

 

 その通り……な筈だ。だから私はトリニティからここに来た。私がアリウスを、サオリを連れてきたから。ナギサちゃん、セイアちゃんが。そして私は何処にも居場所は無くなった。なのに全てを奪ったサオリにはまだ救いを求めて自分にとっての光を助けようとしている。

 許せない。許せなかった。だけどこうして問われて言い返せないのはなんで?私は何がしたいの?分からない。

 

「……分からないよ、もう何も」

 

 動かなかった口から言葉が漏れ出た。もう分からない。私が何をすれば良いのか。何をしたら良かったのか。何もかもが手遅れ。私が──居なければ、皆幸せだったのかもしれない。

 私がやってきた事は許されない。でも、慈悲が欲しくて数え切れないほど祈った。だけど現実は違った。何をすれば許されるのか私には何も分からない。

 

「……私は魔女だから。ハッピーエンドなんて無くて。泥に塗れて主人公にやられて皆ハッピー。それがお似合い」

 

「何言ってんだお前、馬鹿なやつだな」

 

 その言葉に私は腹が立った。怒りのままに殴り掛かるが、手のひらで掴まれて抑えられる。そこで思いっきり鬼巫女の鼻めがけて頭突きしてのけ反ったところを押し倒して体に跨り、顔を思いっきり殴った。

 

「何も知らないくせに……!私がどれだけ苦しんでるかもわからない癖に!」

 

 ボコボコと顔を殴り続ける。そのうち気絶するだろうと思った。だけど、鬼巫女は違った。不意に伸びてきた手が私の襟元を掴み、引き寄せられたところを頭突きされて思わず怯んだ。

 

「知るかよそんな事。お前が飲んできた辛酸はお前だけのものだろ」

 

 拘束を抜けて、額やら鼻から出る血を手の甲で拭う鬼巫女。

 

「お前なんて魔女じゃねーよ。精々いいところクソガキだろ。散々殴りやがって」

 

 イテテ、と呻く鬼巫女。ミカの収まらない怒りが口から出る。

 

「私だって、私だって救いが欲しかった!幸せが欲しかった。やり直せるなら何度だってやり直したかった!でもそんな事許されない!私がやった事は──!」

 

「だから馬鹿だって言ってんだよ」

 

 鬼巫女の鋭い視線はミカの心を見据えていた。なんと無くコイツが見えてきた。

 

「お前は馬鹿だ。その癖、変に真面目だから振り切る事もできずに声にならない悲鳴を上げてる大馬鹿のクソガキだ」

 

 もう少しコイツが助けて、と声を上げられたなら。あるいは悩みを素直に話せたなら。話は変わっていたかもしれない。だけどな。ひとつだけこいつは今バカもバカ、大馬鹿なことを言ったぞ。

 

「決めたのは誰だよ?」

 

「──え?」

 

「決めたのは誰だって言ってんだ。なるほど、許されない事をした。それは確かだろう。自他共に認めてる。だけどな」

 

 やりなおしちゃいけない、なんて決めたのは誰だよ?

 

「決めたのはお前だろ?誰よりも先にその罪を。その後悔を諦めたのはお前じゃねーか」

 

「サオリは諦めなかった。『それでも』足掻いた。やり直しを決めるのは他人では無く自分だけ。事実?現実?知るかよそんな事。誰がなんと言おうと、望む事は誰にでも許された権利だぜ」

 

 それが欲だ。お前が望む欲がどんなに突拍子のないことでも。

 どんなに我儘で、非現実的だろうと。やり直しはできる事だ。どんな時でも。例え──死ぬ瞬間であろうと。

 

「お前にはこれから、死ぬより辛い事が待ってるかもしれない。だが……それでもやりなおしちゃいけないってのを決めたのはお前だクソガキ」

 

「……私には無理だよ。セイアちゃん達はもう」

 

 ……はぁ、仕方ねーな。二度とこんな事はしねーぞ。自分でも自覚してる。私は今らしくない事をしている。

 ミカから背中を見せて私は先ほど吹き飛んだ時に回廊に放棄されていたものを取り出す。刃が潰れて錆びた鉈を指で挟むように両手で6本掴む。この掴み方は知り合いの独眼竜を思い出す。

 

「だったら後は物理だ。そんな考え無くなるくらい頭空っぽにすりゃ少しは信じられるだろうさ」

 

 こいつは真面目な馬鹿だ。世界の全てが⚪︎か×の二択で決まるなんて考えて足を踏み外した。だけどそれは違う。必要なのは正解だと信じる自分自身だ。誰になんと言われようと。これは自分にとっての正解であると信じる心だ。変に真面目なコイツは信じることもできず、もがき苦しんだ。

 私にはこれ以上、コイツに欲しい言葉をあげられない。だから後は体で教えてやる。この虚しい世界で、『それでも』足掻く事の面白さを。

 

「行くぞ、耐えろよ」

 

 一気に加速する。爪のように握られた片手の鉈で肉薄する。振るう手首を掴まれ止められたが関係ない。そのままガラ空きの腹に前蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。回廊の壁を突き破り、外へと飛び出す。

 

「ちと変則的だが」

 

 さっきの殴り合いでただでさえ少ない体力を消耗してる。正直遊んでる余裕はほぼ無い。だけど……

 

 ──私には無理だよ

 

 そう言ったクソガキの顔を見て、何もしねーなんて出来るわけがねーだろ!?教えてやる。世界ってのはもっと面白くて、もっと美味しいって事を!

 

 更に加速する。ボロボロの廃墟はその余波で崩壊を始めているが気にしない。両手の鉈を吹き飛ぶミカに向けてぶん投げる。

 

「──ッ!!」

 

 吹き飛びながら地面に足を突き刺し、ミカは耐える。そのまま飛んできた鉈を弾き飛ばし、鬼巫女を見据える。

 幾つもの鉈が吹き飛び、円を描きながらミカの周りの地面に突き刺さる。

 

 ──模倣遊戯(なんちゃって必殺技)その2!

 

 加速した勢いのまま飛び蹴りをミカに叩き込む。しかしミカはその衝撃を受けながらも反撃で拳を振る。しかしその拳は空振り。姿の消えた鬼巫女を探して周りに視界を向けて驚く。鬼巫女の姿がいつくもの分身となりミカを囲んでいたからだ。

 

 地面に突き刺さる鉈の一本を手に取り、高速で動き回りながらミカを切りつける。一発目は耐えた。

 更に分身が違う鉈を掴んで切りつける。それは回避した。

 3発目。耐えた。

 4発目。耐えられずに吹き飛ぶ。

 5発目、その先で待ってた分身の鉈で切られる。

 6発目、下から上へ掬い上げるように切られて上空へ吹き飛んだ。

 7発目、8発目、9発目、10発目、11、12.13、14と空中で何度も切られ続ける。そこで一度攻撃が止まり、ミカが周りを見る。

 

「消えた……?」

 

 周りにいた分身がいない。一体何処へ──

 

「これでフィニッシュだ!」

 

 その声は真上、頭上から聞こえた。顔を見上げる。そこには空から急加速、急降下する鬼巫女の姿が見えたと同時に。振り下ろされた鉈の一撃で地面へと叩きつけられた。




思い出の中でじっ(ry
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