「ようクソガキ。まだ動けるか」
地面に大きな亀裂を生みながら叩きつけられたミカは大の字で仰向けだ。定期的に隆起する胸の動きからして息はある。
「……いったーい……」
「元気はあるな、よーく聞け。一回しか言わねーぞ」
ガキが一丁前に悩んで悩んで、どうにもならない現状に自棄を起こしてる。そんなもん投げ捨てろ。
「子供の仕事は周りを振り回す事だ。それに付き合ってやるのが大人の仕事だ。悩みなんて持つ前にもっと周りを振り回せ。振り返るのはいつだって良いが今は一瞬しかないんだからよ。そうして生まれるものは誰にも分からない可能性を秘めた面白いものだぞ」
振り返ると言う行為は道を走り終えた者にのみ許された行為だ。走り終えても居ないガキが悩む事じゃねー。
「……後悔しない?」
ミカは不安そうに呟く。さっきまでの雰囲気は見る影もない。嘆息して私はこう返す。
「後悔はするもんだ。どんな選択をしようが後でこうすりゃ良かったなんて幾らでも出てくる。だから重要なのは反省しない事だ。そうすりゃきっとお前にもチャンスは生まれるさ。無いなんて私が否定してやる」
例え何度やり直せたとしても、自分はこの選択をした。という確信が必要なんだ。後から後悔はしても、その選択に反省してちゃ胸を張ってその宣言はできないだろ?実際そんな事できるか、と言われると怪しいが気持ちの問題さ。
「先生と違って乱暴で口下手だからな、言えるのはこんなもんだ。まだ分からねーなら後は先生に聞きな。少なくとも納得できる答えは出るだろうさ」
やれやれ、ガキをあやすのも楽じゃないね。あちこち殴りやがって、既にフラフラだちくしょうめ。だが私にはまだやる事がある。こっちを出歯亀してるクソな奴をしばく事だ。
「見てたんだろベアトリーチェ。趣味が悪いやつめ」
視線を空中は向ける。すると再び通信が開き、ビジョンとしてベアトリーチェが映し出された。
「……可能性?よくも私の前でそんな戯言を言えたものですね。興がさめました、余興はここまでにいたしましょう。私が何もしないとでも?ただ見ていただけです。既に生徒達は倒れ、先生だけ。そして警戒すべき『特異点』ももはや瀕死。今から私の全力を持って轢き潰してあげましょう」
「御託が長いな、言葉が軽いと頭も軽く見えるぜベアトリーチェ」
その言葉にベアトリーチェは目尻をヒクヒクとさせながら、私とミカの周りに大量の複製を召喚。その中には一際デカい複製とは違う化け物まで混ざっていた。
──多いな。
このままやっても私の体力が先に尽きそうだ。ちょっと使いすぎたかもしれない。ここで負ける気はないが、ベアトリーチェをどうこうするのは難しくなる。
「……先に行って」
その時。のそり、と立ち上がり私に背を向け前に立ったのは聖園ミカだった。
「おいおい、そんなんで勝てるわけ──」
「いいの、私がやりたいんだから。振り回すのが仕事なんでしょ?だから行って」
そう言うミカの表情はまだ晴れない。だけど、きっかけにはなったようだ。
「……それを言われると困るんだよな。先に言ったのは私だし」
仕方がない。最速でベアトリーチェをぶっ飛ばしてここに戻りゃいい。
私はミカを背にして走り出す。目的はもちろんベアトリーチェの場所へ突撃する事。依頼の達成に必要なのもそうだが。私は先程のベアトリーチェとの通信で少し気になる事があった。
「本当に微かだが……アイツの匂いを感じたぞ」
私が心底嫌いで昔にぶっ殺したヤツの匂いを感じた。黒服が『道化師』の名前を出した時から嫌な予感はあった。ここにきてその可能性が高まってきたのを感じて、私は走る足に更に力を込めた。