『アビドス』
「っと、そんな場合じゃなかった。さっさと逃げねぇとアレが来るぞ。お前らが言ってた幼女」
よっと、戦車の上から飛び降りてずり落ちるコートの襟を掴んで肩に乗せてタバコをひと吸い。
「幼女って、もももも、もしかしてヒナ!?」
「あ、そうそう。そんな名前のやつ。しつこく追いかけられててな。目をつけられてもアレだから逃げてきたんだわ」
「いやそれ既に目をつけられたんじゃ……」
「あの風紀委員長が……どうしますかアル様。命令とあれば、わ、私が」
「そんな場合じゃないわ!逃げるわよ!」
「そっちはそっちで面白い事になってたんだ、後で聞かせてね」
「後で煽られるのが目に見えてるから言わねーよムツキ」
しっかし、アレだけ苦労して煙草一本とは。悲しくなるね。せめて大事に吸うとしてさっさと退散するとしよう。
「それでそっちのー、あー強盗団も逃げた方がいいぜ。面倒なのが来る」
随分と個性的な強盗団だが、よく見りゃ前に見た男もいるな。
「あ、ありがとうございます?」
「ん、わかった」
そんな返事が返って来るのを節目に便利屋連中と共にその場をそそくさと退散する。
「させるか!お前も強盗団の仲間だろ!?」
と、そんなところにこの建物の従業員だろうロボットの黒服が怒鳴り、武装したロボットがゾロゾロと現れ始める。
「無関係だし、これは悲しい事故なんだがなぁ……どうする?社長さん」
「強行突破よ!どうせ融資も断られたし思いっきりやってよし!」
「了解だ」
「結局こうなるの……」
顰めっ面でため息を漏らす鬼方カヨコの肩を叩いて笑う
「そう言うなよカヨコ。もっとポジティブに行こうぜ。私は煙草が吸えて満足だぞ」
「そうそう、笑顔笑顔!笑う門には福来るってね!」
銃をぶっ放してきたロボット達。各々が手頃な障害物に身を隠す。
「つーか私銃がないんだが?素手でやれと」
「ポジティブに行くんでしょ?なんとかなる」
さっきの言い返しにカヨコが無茶振りをしてくる
「しゃーないな。前は私が出る。援護にカヨコ、社長頼む。んで脱出路確保に残り2人」
言うだけ言って障害物から飛び出す。弾丸がこちらに迫るがそれらをひょいひょいと避けながらロボット達に接近。私に銃を向けようとする腕を蹴り上げてぶん殴って鎮圧していく。背後の敵は援護射撃で沈んでいく。
それを片目に咥えていた煙草の灰をトントンと落とす。
そんな隙だらけな私を狙い、遠くから銃撃されるも空いている片手で弾丸を掴み取りコイントスの如く親指で弾く。
「タバコの火はもう足りてるぜ」
「みんなー!こっちこっち!確保したよ!」
ムツキ達の声で一斉にそちらに退散する。
ようやく外に出れた。まだヒナと言われる幼女は来ていない。それにホッとしてその場を脱出するも社長が
「ちょっと待って!さっきの強盗団に会いに行きましょ!あれこそ真のアウトローよ!」
「えぇ、折角逃げられたのに」
「いいじゃんいいじゃん。そっちの方が面白そうだし」
「まあ社長の言う事だしな、私は顧問っつー立場だし」
そんなこんなで再び先ほどの強盗団を探す事少し。意外と早く見つかり、社長がキラキラとした目で何やら面白い会話をしていた。
どうも他の便利屋メンツは覆面の連中と面識があるっぽいが社長は気づいていない。どうせムツキが言うなとでも言ったのだろう。揶揄うのが好きな奴だしな。
──貴方がいるとは思わなかった。
「うん?」
私は関係ないとばかりにボーッとやり取りを見ながら煙草の残りを楽しんでいた所に話しかけられる。それは前にも会った男だった。
「あ、あんたか。前にも会ったよな」
──シャーレ、と言う言葉に心当たりはある?
「シャーレ?知らん知らん。生憎流れ者で最近居着いたばっかりなんだ。ここじゃタバコ一つ手に入れるのに苦労する」
──学生が大半だしね。貴方は……顧問と言っていたけど、もしかして「先生」?
「うんにゃ、そんな崇高なものじゃない。成り行きでコイツらの顧問になっただけの一般人だよ」
── 一般……人?
「私の頭に輪っかがあるように見えるか?あんたは?」
──シャーレで「先生」をしている。
「なるほど?よろしく頼むわ。あ、タバコとか酒があったら流してくれると助かる。タダとは言わんぜ?」
──子供達に悪影響があるから難しい。
「真面目だねぇ、まあここじゃ白い目で見られるか。分かった分かった。悪影響のない範囲でいいから頼むぜ。まーじで苦労してんだ」
タバコはともかく、酒が死活問題だ。私にとって命の水と言ってもいい。
──わかった。何かあったら頼むよ。
そんな大人達の会話が成されている間に向こうも話が終わったようだ。解散の流れとなり、強盗団もとい、先生先導の集団は去っていった。
「──え!?あれアビドスの連中だったの!?」
「今気づいたんだ……」
「何だ知り合いだったのか」
わちゃわちゃと騒ぐ社長を尻目にカヨコに聞き返せば
「うん。依頼で一回やりあっててね。というかまだ未遂行だからまたやる事になる」
「ほー?依頼が来てたのか。この前みたくピザの注文でも来てたんじゃないのか?」
「あったけど、社長が断った」
「よく間違えられてるなぁ。番号変えたら?」
そんな事を言い合いながら便利屋は帰路につく。しれっと強盗団が残した金をネコババしてるあたり強かだなコイツら。
「これ以上は無理ね。面倒な所に逃げ込まれたわ」
怪しい人物を追いかけ続けていたのは空崎ヒナと言われる風紀委員会の長。怪しい、と言っても不審者くらいのものだが。すれ違った時。私の直感は野放しにしたらマズイと囁いていた。相手が戦闘する気が無かったから具体的な事は分からないけど、やり合っていたらどうなっていたかも怪しい。
しかし、彼女はゲヘナのコートを着ていた。
「アコ、聞こえる?」
即座に通信を開き、本部にいるであろう風紀委員のアコに連絡。すぐに返事は来る。
──はい、何でしょうヒナ委員長。何かトラブルが?帰還すると聞いていましたが……
「その途中で少し怪しい人物がいた。特徴は伝えるから今すぐピックアップお願い。ゲヘナの服を着ていたから、すぐ分かるでしょ」
──分かりました。急ぎですか?
その言葉に少し考え
「ええ、お願い」
──了解しました。お待ちを。
自分にもわからない焦燥感が頭の奥でチラつくのを感じる。何を私はそこまで焦る?落ち着け、深呼吸をしろ。そう言い聞かせてるうちに通信が返ってくる。
──該当する生徒はいませんでした
「いない?」
どういう事だ?風紀委員会でも分からないとなると選択肢は二つだ。一つは本当にゲヘナとは関係がないのか。もしくはこちらを欺くほどの隠蔽がされているのか。
前者なら簡単だ。捕まえて吐かせればいい。しかし、後者ならば面倒だ。それはつまり風紀委員会の情報網でもキャッチできない存在がいるという事。それが出来る人物には限りがあるがその全てにおいて面倒なことになるのが目に見えているからだ。
「……ダメね」
考えが巡る。これ以上考えても答えは出ないだろう。他の生徒と比べ何か大事件をやらかしたという訳ではないが、空崎ヒナの中での警戒度は思いの外高いものであった。言葉にできない警戒心が抜けない。それが何を示すのか、ヒナは分からないでいた。