鬼巫女と別れ、ベアトリーチェの元まで辿り着いたサオリ達と先生は儀式の生贄となっていた秤アツコを発見する。助けようとするが、その前に立ち塞がったのはベアトリーチェだった。
その身体を異様に変化させた。両手の指を鋭い触手へ。体をその数倍は大きく隆起させ。口からはビームを吐く。サオリ達も反撃とばかりに銃弾を叩き込んでいくが、消耗していたサオリ達には厳しく、1人、また1人と倒れていく。
──まだだ……!
先生は服のポケットに入った大人のカードを強く握る。こうなっては仕方がない。今こそこのカードを使う時だ。
取り出して、その権能を解放しようとするが。それを許さないのはベアトリーチェだ。視線が交差し、こちらと睨み合う。
「させるわけがないでしょう?」
大きく伸ばした両手の触手が鋭い槍となってこちらに向かってくる。
──アロナ!
私が呼べば、私が持っていたタブレット。『シッテムの箱』が起動し、障壁となってその触手を防いでいく。しかし衝撃までは殺せなかったのか、私の体は後ろへと吹き飛び転がる。しかし先生は怯まない。
──生徒達を守るのが大人の役目だ!貴女とは違う!
啖呵をきりながら立ち上がり、ベアトリーチェを睨みつける。しかし、今のままではジリ貧だろう。アロナのおかげで傷こそ負わないが、カードを使う暇を相手は許してくれない。だけど今のままでは生徒達が危険だ。
どうにかしなくては、と考え始めた時だった。先程私たちが通った回廊からの爆音が響く。
パラパラと壁が崩れ、粒子にまで細かくなった壁の残骸が煙となって視界を遮った。ベアトリーチェは油断なくその瞬間を狙った。先生の視線が煙の向こうにいる彼女に向いた瞬間を。触手の一部を地面に埋めてその軌道を読めないようにする程に用意周到だった。
一瞬の油断を突かれた先生はこちらに迫る触手を前に思わず目を瞑った。
しかし、いつまで経っても身構えていた衝撃は来ない。アロナが防いでくれたのだろうか?恐る恐る目を開ける。先生の前に広がる光景は、自分の前に立ち塞がり、何本もの触手をその身で受けて貫かれる鬼巫女の姿だった。
──鬼……巫女……!?
その体からはポタポタと血が落ちる。表情は見えないが、体を支える足にはまだ力があった。
「よう先生。危機一髪って感じだったな」
声色はいつもと変わらない。自分の体を貫く触手を掴んで引き抜きながら彼女はこちらを振り向く。気にした様子もなく笑っていた。
「心配する必要はねーよ。これでもちゃんと急所は避けた。このくらいなら日常茶飯事だ」
しかし、今もまだその体からは血が溢れて止まらないでいる。いくら急所ではないとしてもだ。無事とは言えない。このままで居たなら命の危険があるのは誰が見ても明白だった。
「んー、まあ
言いながら鬼巫女の手から赤黒い霧が引き抜いた触手へと伝わり、じわじわとベアトリーチェにまで進んでいく。しかし、その前に触手が途中で切断される。
「チッ、
「貴女の力の正体までは見えませんが大凡の予想はつきます。対策も」
全体に私の力が波及する前に自ら侵食された場所を切り離す事で影響を避けたのだろう。さながらトカゲの尻尾切りだろうか。これでさっさと終わらせられたなら楽だったのだが、こうなると仕方ない。
「対策してしまえば、貴女など多少力のある人間でしかない。私の勝利は最初から決まっていた事です」
「おいおい、私の力はあくまでオマケだぞ」
この程度で私の全てを攻略したなんて甘いにも程がある。いくらなんでも
──ちょっとだけ見せてやるか
手を虚空に翳す。何もない空間から飛び出してくるものをキャッチし、ブンと軽く振り回して感覚を確かめる。それは大幣。神事などで神主などが使う儀式用のもの。それに比べると持ち手がかなり大きく、身の丈ほどあるくらいで。あとは至って普通だった。
「何年振りかね、これを使うのは」
かつて私が使用していた武器。相棒といって差し支えない愛用品。数々の戦いを共に過ごしたそれを肩に担ぎ、鬼巫女は感慨深く頷く。
10年は使ってなかったが、久しぶりに持つそれの感覚はとても手に馴染むもので、満足のいくものだった。
──棒……?
見慣れないそれを棒かと思った。しかし、それを握るのが鬼巫女であれば、何かあるのは間違いない。
「一応、これでも『巫女』だからな。これが私本来の武器だよ」
私が私たる所以。アイデンティティの一つだろう。いや、今じゃ使う機会が無くて素手の方が多いんだけども。
初めて見る動きにベアトリーチェはとても警戒していた。黒服から手を出してはならない。と忠告されていたのもあるが。彼女自身の本能が警鐘を鳴らしていたからである。あれは、マズイと。
その結果、するべき行動は決まっていた。再び触手を伸ばして攻撃を仕掛けた。フェイント、軌道を読めないよう地面に埋めるなどしている警戒ぶりだが、鬼巫女はそれを軽く凌駕する。
「さて、教育してやろう。
そう宣告すると同時に鬼巫女の姿が消える。再びその姿が見える時には既にベアトリーチェの身体にはいくつもの傷がつけられた。遅れたように傷から血が吹き出す。
「が、がぁぁあ!!??」
とても醜い悲鳴があがる。それを見て笑う鬼巫女。
「はっはっは、キンクリキンクリ。しっかしタフというか、対策はしてた方だな」
傷をつけたが、その傷が再生を始めていた。ベアトリーチェの算段としては私が攻撃したところで再生するから怖くないというところか。複製の再生よりも早いそれなら先に倒れるのは私、と考えたか。
「だったら次だ」
初めて自然体だった鬼巫女が構える。投球を待つバッターの如く構えた形から大幣を振り抜く。
それは斬撃。かつて何をしても回復する敵に出会った時に自力で会得した技。一度や二度つけた傷がすぐに回復するのであれば、再生が追いつかない程に何回も攻撃すればいい。という脳筋思考から生まれた技。
魔神すら死に狂わせるかと思わせる斬撃の雨、雷雨、嵐。
──魔神『死狂い』
そう名付けた技がベアトリーチェを襲う。再生する端から切り刻まれ、それが終わる頃には死体と見誤るほどにズタボロにされたベアトリーチェが倒れてる姿があった。
ネットには鬼巫女さんの紹介wikiがありますが、それとこの小説の描写を参照して見ると、どれだけ普段が弱体化&手抜きなのか分かります