澄んだ記録を目指して   作:上条@そぉい!

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『酒の味』

 あれからアリウス自治区にはトリニティの正義実現委員会が突入、その指揮をティーパーティのナギサとセイアが。その下でなんかすんげー奇声あげながら暴れる実は乙女系委員長とその補佐、ハスミがいたらしい。その場に私はいなかったからどうなのかを知らないが、『先生』の話によると、聖園ミカについてはそこまで悪いことにはならなかったそうだ。

 

 聖園ミカはこれからも他人からの非難の目を向けられるだろう。しかし公然の場で魔女だのと、罵られることは無くなった。相変わらず自罰的というか、悲観的な奴だが……『先生』がいれば何とかなるだろう。

 答えが出る日がいつかくる。正解だと信じられる、信じさせてくれる友達とそれを導く『先生』がいる限り、聖園ミカは前を向けるだろう。

 

 アリウススクワッドについてだが、あれから姿を消したらしい。姫と呼ばれた生徒を連れて『先生』の前から消えた。あいつらも全て解決、とはいかないだろう。どんな理由であれ、トリニティとゲヘナの二つを敵に回した。これから先に居場所などないかもしれない。しかし私は特に心配はしてない。あいつらの中に『それでも』がある限り、望む未来を諦めることはないと思っているからだ。

 

 悩み多き少女達だが、それを導くのが大人であり『先生』なのだろうが……いやいや、思春期のガキ共が抱えるにしては少し重すぎじゃないだろうか?なんて思うね私は。

 子供は子供らしく、目を輝かせて明日に希望を見るべきだと思うがね……なに?らしくない?私を何だと思ってんだ?ガラではないのは理解しているが、何も思わないわけではないんだぜ?

 

 さてさて、近況はこんなものだろう。私はそろそろ今の現実に目を向けなくてはならない。あのまま眠りこけていた私だったが、目が覚めたら病院のベットの上だった。結局ここに逆戻りだった。

 

「うげぇ……」

 

 思わず呻く声を上げる。

 腕とかに色々管がつけられてるし、なんか心電図とかあるんだけど。これドラマとかでよくあるやつでは?

 

 ──すー……すー……

 

 枕元で聞こえる寝息。首を横に向ければ、そこに居たのは鬼方カヨコだった。どうやら座りながら寝てしまったようだ。普段ならイタズラの一つでもするが、彼女の目元に残る涙の跡を見てそんな気は失せた。

 心配させてしまったかねー……私からするとこれくらいなら慣れたものなんだが、他人からすれば大怪我も大怪我だった。

 謝罪の意味を込めて寝ているカヨコの頭を撫でてやる。便利屋にいながらもその髪は女の子らしくサラサラだった。

 

 よし。じゃあ抜け出すとするか。何故かって?目が覚めた以上私がここに居たくないのである。絶対酒とか飲めないので。エデン条約の時から強制禁酒状態だった私にとって、一刻も早く酒を摂取しなくてはならない最優先事項なのだった。

 

 ──ガラガラ

 

 では行くか、と上体を起こす私の耳に。病室を開ける扉の音が聞こえた。そちらに目を向ける。

 

「あー!鬼巫女起きてる!」

 

 開けた扉からひょっこり顔を出したのは浅黄ムツキだ。驚く顔を見るのは珍しいかもしれない。しかしだ。

 

「な、なんですってー!?起きたのね鬼巫女ーっ!」

 

 こちらを視認して泣きながらこちらに突撃してくるアル社長が問題だった。押し退けることもできず、私はベットの上に押し倒され抱き付かれた。

 

「アル様!?」

 

 そんな様子の社長にハルカが驚いて後ろでアワアワとしていた。そんなことしてねーで助けろ早く!

 

「いてててて!!?ばっかお前社長!?離れろ傷口が開くわ!」

 

 グリグリすんな!顔を押し付けるな!すりすりすんな!鼻水垂らすなおい!

 

「……鬼巫女?」

 

 はっ!?しまった今の騒ぎで一番めんどくせーやつが!

 目を擦りながらこちらを見るカヨコが!絶対怒られる!と身構える私だったが、予想に反しカヨコは私に抱きついた。

 

「あ、あのー?カヨコ?社長もそうなんだが抱き付かれると傷がね?いい加減社長は離れろー!」

 

 ぐいぐいと顔を手で押し退けようとするが全然離れねぇ!?こんな時に力発揮してんじゃねぇよ社長!

 

「……よかった、ほんとに」

 

 顔を胸に押し付け表情は見えない。しかし潤いを帯びた一言に私は何も言えなくなる。あー、こういうの苦手なんだけど。

 

 ──良かったね、鬼巫女。

 

 そんな様子の私達を先ほどの扉から顔を出し、笑っている『先生』いや見てないで助けろ?

 

 ──それは鬼巫女が悪いから無理。いくら何でも無理しすぎだよ。

 

 言いながら『先生』は持っていた紙袋からゴソゴソと何かを取り出して私に手渡す。

 ふん!と抱きつき続ける2人の拘束を片手だけ抜け出し受け取る。何だこりゃ……小瓶?500のペットポトルくらいのサイズだ。

 

 ──依頼の報酬、だってさ。渡してくれって頼まれたんだ。

 

 ほー、ちゃんと約束は守ったか。ずっしりと手に伝わる重さを楽しみながら瓶の蓋を器用に片手で開けて、中身を一口。

 

 ──どう?

 

 端的に聞いてくるので私も一言。

 

「美味い!」

 

 寝起きに駆けつけ一杯とは気が利いてる。久しぶりに飲むそれは喉をヒリヒリと焼きながら体に染み渡る。ようやく、私の日常が戻ってきた気がした。しかしだ。

 

 そろそろ離れろ2人とも!メソメソしてんじゃねー!




アイテムゲット!『小汚い酒瓶』
 
とても上品とは言えない酒の味。ラベルは剥がれかけ、銘柄も分からない。端々に泥で汚れた酒瓶。しかしその一口はとても美味かった。
よく見ると、ラベルの端には
『vanitas vanitatum, et omnia vanitas,Still, the world is not abandoned.』と書かれている。
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