澄んだ記録を目指して   作:上条@そぉい!

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『石像』

 きっかけは突然だった。いつも通りの日々、その終わりは唐突に。しかしこれでもかと熱烈にその終わりを知らせるもの。

 

「どうしてこうなったのやら……」

 

 崩れ去る石像を前に私たちは遠い目を空に向けていた。こうなるまでに様々な過程があった。それを今回は振り返ってみようか。

 

 

 それはいつもと変わらない日だった。爆発音と銃声が軽やかに響くゲヘナ学園。小鳥の囀りのようなそれは日常の一部と化していた。この時点でおかしいかもしれないが当然の如く毎日ある事なので、もはやツッコミは不要だ。

 私、鬼巫女は普段と同じように酒を飲みながらそんな学園の中を歩いていた。そんな時、普段とは違うものを目にして足を止めたのだ。それは石像だ。随分と新しさに溢れている。まだ出来てから間がないのだろう。その石像には『羽沼マコト様万歳!』と書かれており、その石像の人物が羽沼マコトである事を告げている。

 

「あのアホまたなんかやってんな……」

 

 一応このゲヘナ学園の権力層、その1人であるはずなのだが人望がなさすぎて忘れ去られている事が大半な奴である。エデン条約の時の落とし前を……と思っていたが私もすっかり忘れていたあたり、空気の薄さがなんというか。だが奴も模範的ゲヘナ生徒らしく、大人しくしている訳がない。こうして時々訳のわからない事をしてくるのだ。今回もその例に漏れず、それだろう。

 

「何やってるんだ?」

 

 と、石像に目を向けて足を止めていた私に声を掛けてくる生徒がいた。それは──

 

「あ、イオリか。今日も足舐められてんのか?」

 

「いつもみたいな言い方やめろ!」

 

 銀色の髪にツインテール、風紀の腕章をつけるその姿は風紀委員。銀鏡イオリその人である。

 その横に居るのは横乳こと、天雨アコだ。しかしなんだ。

 

「珍しい組み合わせだな」

 

「そうですか?割と連携している事が多いですが」

 

 それ通信越しだろ、お前が前線に出張る事が珍しいんだから。

 

「こうして顔を合わせて外にって意味だよ、なんかあったのか」

 

「いえ?会議があったのでその帰りです、貴女はここで何を──」

 

 言い終わる前に石像を指差す。その先に目を追って、2人はあぁ……と疲れたように察した。

 

「またやったんですかあの人」

 

「前にレッドウィンターに対抗して、でかい銅像を作ってたね……1日で温泉開発部にぶっ壊されたけど」

 

 どうやら前例があったらしい。まあモデルが悪いとはいえ、石像の出来は悪くない。どこが作ったのか。色んな角度から眺めて撫でてみる。ひんやりとした石の感触がした。

 

「腹立つことに出来栄えはいいんですよね、出来栄えは」

 

「いつも風紀委員会に嫌がらせみたいな事しかしないけどね」

 

 ブツブツと言いながら2人も、何やら思うところがあるようで苦労が見え、八つ当たり的に雑に触っている。

 

 まあ石像とはいえ、精巧にできているものをそんな風に扱えばどんな事になるかなんて、予想がつく。

 

 ──バキッ

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 石像の右腕が折れ、その取れた腕を持つ鬼巫女。無言で見つめる2人の動きは俊敏だった。

 

「さて私はこれから事務仕事が残ってますのでこれで」

 

「私もまだパトロールが残ってた、行ってくる」

 

「待てぇ!」

 

 そそくさと逃げようとする2人の腕を掴む。ギリギリと行こうとする2人と行かせまいとする私との綱引きが始まった。

 

「ちょ、やめてくだ──力強ッ!?」

 

「壊したのは鬼巫女でしょ!?離してよ!」

 

「うるせぇお前らも共犯だろうが!」

 

 散々弄っておいて私だけ責任負うのはおかしいだろ!お前らも道連れだ!

 

「嫌ですよまたネチネチと言われるの!ほんとにめんどくさいんですよ!?」

 

「待って。まだこれくらいなら誤魔化せるかもしれない」

 

 そんなアコとの言い合いの中、綱引きに勝つ事を諦めたイオリが冷静に提案する。

 

「このまま誤魔化して有耶無耶にしてしまえば逃げ切れるはず」

 

 そ、その手があったか──!

 

 言い合いをしていた2人に天啓のような雷が奔る。

 

「しかしどうやって誤魔化す?もう腕は取れちまったぞ」

 

「そういう事でしたら、私にいい考えがあります」

 

 その言い方はやめろ、嫌なフラグが立つだろ。

 不安げな2人を前に、アコは自信ありげに壊れた石像の前に立つ。一体何をする気だ……?

 

「こうして片方だけ壊れているから不自然なのです。つまりこう!」

 

 徐に残っていた片腕を掴むと、そのまま思い切りブチ折った!この暴挙に後ろで見ていたイオリ達は

 

「天才か……?」

 

「流石だね」

 

 馬鹿しかいなかった。

 

「だったらここもこうした方がいい、少しバランスが……」

 

 ──バキッ

 

「いやいや、だったらここも──」

 

 ──バキッ!

 

 言い合いながら手遅れな事に気づくのは、もはや石像すら残らないほどに壊した後だった。




イオリもアコも、風紀委員会は時々おっそろしく頭が悪くなる時があるのが面白いですよね。
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