コツ、コツ。
耳が痛くなるほどの静寂。その中で唯一存在を示す音が響く。
ここは無間。誰にも感知できず、間借りされた空間。『色彩』と呼ばれるものに寄生するかのように存在する場所。
「相変わらずの趣味の悪さ……」
彼女は辟易した様子で吐き捨てる。ここにまで至れば、その存在の気配は明確だ。私の予想が当たっていた事を明確に分からせるもの。
自分の身長よりも遥かに大きな門のような扉の前に立ち、彼女は止まる。
「律儀に扉なんてつけやがって」
彼女は苛立ちをそのままに拳を振い、その門を大きく破壊する。重厚な扉が奥へと地面を跳ねながら吹き飛ぶ。しかし、彼女はらそれには目もくれない。何故なら──
「──何年ぶりかな」
初めて彼女以外の声が聞こえた。ここは玉座の間。高い位置に置かれた玉座から見下ろす声の主は生半可な者が見ただけで身震いするような、冷徹な目を向けていた。
「そうだな……ざっと20年くらいか?私がガキの頃の話だ」
「長いね、君も随分と歳をとった」
「まあな……それで?」
彼女は大仰に両手を開きツカツカと声の主に歩み寄る。
「久々の再会だ、ハグの一つでもしてやろうか」
「礼儀なんて要らないさ、君と僕の仲だろう?」
その言葉に鼻で嗤う彼女。交わす言葉には朗らかさがあったが、それを口にする2人の顔に友人同士が見せる親愛などかけらも存在しない。2人の間にかかる重圧で空気が揺れる。それはこの2人には敵意と殺意しかない事を表していた。
「そうだ、やる前に聞かせろ」
「何かな?」
彼女の手に握られた大幣を突きつけ、問う。
「なんでガキ共に手を出した。
その言葉に声の主は、足を組み直して答える。
「そもそも『色彩』いや、この場合は『無名の司祭』か。彼らに『外』の技術提供をしていたのは僕だよ。その条件として『色彩』に一枚噛ませてもらったのが始まり。此処の子供達については……」
「特別な理由は、ないね。どうせ僕のやる事は変わらないんだから、遅かれ早かれってやつさ……」
相変わらずの物言いに彼女は抑えていた怒りが込み上げ、大幣を握る手に力が入る。既に2人の間の空間は圧力に悲鳴をあげ、ピシピシと亀裂のような音が鳴り始めている。
「あぁ、だけど安心して欲しい。ここは間借りしてるだけだ。僕から『色彩』をどうのこうのはしない」
「よく言うぜ、『恐怖』を使うやり方はうんざりする程やっていたお前の常套手段だろうが」
「少し誤解してるね。『色彩』は僕が『外』を管理するにあたってのモデルケース。つまり実験として運用を考えるために『無名の司祭』と手を組んだものだ。シャーレだったかな、それに沿った言い方をするならフラスコかな?」
どちらにせよ、あのガキ共を食い物にしていた事は変わらない。どんな理由であれ、私の縁が連れてきたものなら、私がケリをつけなきゃならない。
「まあいい。どんな事しようとしたのかは知らんがお前はまた私がぶっ殺す」
「昔の焼き直しだね」
「ああ、結末もきっと同じだ」
「ふふ、それはどうかな?」
その言葉を皮切りに誰にも分からない空間で、世界を揺らす衝突があった。
此処にきてブルアカの本筋から少し離れ始めたかもしれない