勇者の資格とは何か。それは人によって違うだろう。自己犠牲精神?なるほど、勇者が倒す魔王は強大だ。それに人類を代表して挑むのだ。見方によっては貧乏くじだろう。それを背負うのだから自己犠牲と言えるだろう。
あるいは勇気?恐れを前に、それでも一歩進めるのだから、無謀と言われるそれとは違うだろう。恐れを知りながら、それでも進めるから勇気なのだから。
では、今。その小さな体に、身の丈よりも大きな機械の光の剣を背負う少女にとって勇者の資格とは何か。強大な敵?なるほど、今目の前なら迫る『アトラ・ハーシスの船』は強大だ。きっと、その小さな体で抱えきれるかどうかも分からない。そんな強大さがある。
それでも少女は笑う。いつものように、なりたい自分を目指して、天真爛漫に笑うのだ。
『あぁ、でも──』
恐れはない。なりたい自分は自分が決めていい。そう言ってくれた先生。これからを変える権利は自分にある、と言ってくれた彼女。今までの楽しい思い出を胸に、
──ATRAHASIS起動。
勇者の心を起点に、物質が創造されていく。それは光の剣。勇者にしか持つことを許されない伝説の剣。
『もっと、経験値を貯めて』
光の剣:スーパーノヴァはアリスの元へ顕現する。チャージは既に最大まで溜められている。これを目の前の障壁に向かって放てば、壊せるだろう。
放とうとする直前、いつものゲーム開発部での思い出が過ぎる。贅沢は言えない。それでも。
『アリス、また皆と勇者パーティを組みたかったです』
──これが最後。魔王は倒れて、世界は平和になるのです。
──待って!今こっちに謎の飛翔体が接近中!
引き金を引く指が通信から聞こえる声で止まる。何かあったのだろうか。
──これは
──鬼巫女!?
『ウトナピシュティムの本船』の後ろをかっ飛ばすバイクが、突然、船の上で滑空する。
「はっはっは!!!ベストタイミングって感じか!」
バイクに乗る鬼巫女が、船よりも前に出る。多次元解釈を元とする障壁を前に、鬼巫女は背後のアリスを振り返って、笑った。安心させるように、力強く。
彼女は勇者ではない。きっと、役割があるならそれは鬼?巫女?
鬼とは理不尽を嗤い呑む者。巫女とは不条理を禊ぎ払う者。ではそれらを併せ持つ彼女は?
決まっている。『鬼巫女』とはその身一つで、あらゆる概念を踏み越えていく者である。
「そぉい!!!」
掛け声一つ。バイクを乗り捨てて、大きく跳躍した彼女は目の前の理不尽を硬く握りしめた拳を振り下ろし、あれだけ苦労した障壁をまるで紙屑のように砕き割ったのでした。
アリスはずっとケイとわちゃわちゃしていて欲しい、と思っていたのでこんな形に。