澄んだ記録を目指して   作:上条@そぉい!

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ようやく彼女が自重していた力の正体が分かります。もうバレてたかもしれませんが。
 
 
PS. 多次元解釈による曖昧さを使った障壁って、要はD4Cラブトレインのあれなのでは……?


『否定』

 私が砕いた障壁を抜けるように船体ごと突っ込んだ船、いや戦艦か?は派手に相手の船の腹をぶち破り、侵入に成功した。大きく揺れたものだから船の上に着地していた私は投げ出されて、床の上を転がるハメになった。

 

「いてて……」

 

 随分と乱暴な着地だ。向こうにも事情があったのだろうが、少しは私の体を労って欲しいものだ。

 プシュー、と間抜けな音を立ててウトナピシュティムの船とやらの入り口が開く。そこから飛び出してきたのは──

 

「鬼巫女!」

 

 鬼方カヨコだった。その後ろには『先生』もいるし、ゲーム開発部だったりアビドスの対策委員会だったり、よく知るメンバーが揃っていた。

 

「何処にいたの……探したんだよ」

 

 私の服を掴み抱きつくカヨコの頭を撫でる。離れたほうがいいぞ。普段とは違う服を着てるのに、私の血で汚れたらどうすんだ。折角似合ってんのに勿体無い。

 

「やだ」

 

「!?」

 

 むしろ服を掴む手が強くなったぞおい!

 

「酷い血……しかもこれ、もう乾いてる。何処で何してたの?」

 

 静かに、しかし言い逃れは許さないとばかりにこちらを見るカヨコ。普段からキツい視線だと勘違いされやすい奴だが、今回ばかりはキツいを超えて絶対零度の視線である。チラリと、そのやりとりを見守る周りに視線を向けるが、首を横に振る。

 

 ──自業自得だと思うよ

 

 ──むしろあれで済んでるのは温情じゃないかな〜?おじさんなら、縄で縛って何処にも行かないようにするね。

 

 ──アリスは見ちゃダメ。

 

 ──教育に悪いからね!

 

 ──うわーん!何も見えません!

 

 こいつら好き勝手言いやがって!助けろ!

 

「ねぇ?」

 

 あっはい。すいません余所見してました。えーっと、まあその。

 

「野暮用で少しだな……まだそれが済んでなくて、こうして来たのもそれが理由というか」

 

 その言葉にジッ……と私の目を暫く見つめ

 

「……色彩の事?それなら──」

 

「違う。それはお前らに任せる。私は──自分の因縁に決着をつけなきゃいけない」

 

 あれだけは私がやらなきゃいけないものだ。私自身が決着をつけなくてはいけないのだ。

 

「…………本当にやらなきゃダメ?」

 

 抱きつくカヨコの鼻には咽せ返る程の濃密な血の匂いがしていた。それはそのまま、死に近づく匂いだ。こうして立っている事自体が信じられないほど、彼女は無理をしている。顔には出ないかもしれないけど、エデン条約の時もそうだった。平気な顔して彼女は無理をするんだ。

 

「大丈夫だ、この程度なら慣れっこだからよ」

 

 ポンポン、と頭を優しく叩いて、彼女はカヨコから離れる。ポケットから紙パックを取り出していつものようにチューチュー酒を飲む彼女は平常運転で、確かに普段通りにしか見えないだろう。

 しかし、今も血まみれのままで。その姿は見るものを不安にさせた。

 

「うっえ、酒マッズ」

 

 酒を口に含んだ鬼巫女はペッ、と地面に吐き捨てる。酒だったはずのそれは赤く染まっている。

 

『取り込み中のところ申し訳ありません、時間がないので話を挟ませて頂きたいのですが……』

 

 と、そこで話を中断するように通信が入る。船内にいる誰かのものだろうか。

 

『やっと会えましたね。初めまして、鬼巫女。私は超天才病弱美少女ハッカー明星ヒマリと言います』

 

 時間が足りねーって言ってんのに名前の後ろのそれは必要あるのか?

 

『時間もないので単刀直入に言います、貴女の力が必要です』

 

 その言葉にじっと聞いていた私の眉が動く。言い方に含みを感じたからだ。

 

「……私の力、知ってんのか」

 

『予測で良ければ。貴女の力は……そうですね。あらゆる障壁を素通りさせてしまうと言いますか。無力化する類かと』

 

 うーん。違うとも言い切れないラインだな、出来ないわけじゃないし。内緒にしてたわけでもないから認めるが。

 

「その認識でいいか。で?それで何をしろって?」

 

『アトラ・ハーシスの船にこれからハッキングを仕掛けるのですが、ハッキリ言って私やヴェリタスの総力をあげても勝算は薄いと言っていいのです。悔しいですが』

 

 その言葉に周りも否定をしないあたり、マジらしい。あれキッツイんだけどなぁ……

 

 

「悪いが──」

 

 ──キヴォトスを、お願いします。

 

 夢で聞いた言葉が過ぎる。故に言いかけて止めた。それはもう大きなため息をつく。しょーがねぇ、依頼は絶対だ。安請け合いした私が悪いと諦めよう。

 

「わかったわかった、やりゃいいんだろ」

 

 何もないところから大幣を取り出して、その先端で床をトン、と叩く。多次元解釈を元にした『アトラ・ハーシスの船』の構造は随分と複雑だ。その全てを頭に叩き込む。

 馬鹿正直に全てをそのままぶっ壊しても、私の負担が大きすぎて無駄だ。やるなら、最小限かつ、無駄なくやる。

 

 ──でも鬼巫女それは

 

「おっと先生、それは言わなくていい」

 

『先生』がそれを辞めさせようとするが、それを私が止める。きっと『先生』も完全に理解はせずとも、なんとなく分かるのだろう。『それ』の行使は私の体を侵す毒である、と。

 その通りだ。私が今まで、この力を殆ど使わなかった理由の一つはそれだ。昔の私なら、何のリスクもなく使えたこの力。しかし、私の体がその反動に耐えられず傷つく。

 何度も血を吐いたのもそれだし、今もなお、私の体が衰えていくのを加速させているのだから。

 だけどよ。

 

 ──ガキ共にそんな事言えるわけねーだろ

 

 それに付き合ってやるのが大人だろ?まあ私は後ろに、悪いって言葉がつく札付きだけどな。ただでさえこいつらは今、キヴォトスの危機に必死だってのに。私の話聞かせてどーすんだ。

 

「ふー……」

 深呼吸一つして集中する。私が立つ床の下、この多次元解釈に干渉するには同じ存在が必要だ。しかし、私だけは例外だ。観測できないものに、存在しない数字をぶち込んで限りなく正解に近い推論を出すように、私の力は強引に干渉できる。

 込み上がる吐き気を必死に抑えながら『アトラ・ハーシスの船』に干渉。

 

「これくらいか」

 

 システムの脆いところだけを集中的に干渉。これで弱点ができるくらいにはなっただろう。




『否定』
彼女の能力は否定である。あらゆる概念を否定し捻じ伏せるもの。キヴォトスに存在する神秘すら否定して消してしまう事を察していた鬼巫女は使う事を自重した。
一番近い形で予測できていたのはゲマトリアの黒服。
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