澄んだ記録を目指して   作:上条@そぉい!

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こういうシリアスは書き慣れてないから大丈夫か不安になります。


『誰が為に』

 意識が飛びそうだ。もう何度技を放って何度躱した?数えきれないほどの激突は私の思考を著しく奪っていった。

 今もそうだ。吹き飛びゴロゴロと転がり、大幣を地面に突き立て、それを支えにして立ち上がる。だらしなく地面に自らの血がポタポタと垂れる。状況は悪い、喰らいつくように動き、なんとか膠着状態に持っていったが、その先が見えない。

 

「ハァ……ハァ……ゴホッゴホッ……」

 

 息はとうにあがって、吐く息には血の味が混じる。

 

「相変わらずのしぶとさだ、昔から不思議だったんだ。なんでそこまで足掻くのかって」

 

 遠くなりつつある耳が、奴の呟きを拾った。私は必死で息を整えながら、少しでもその時間を稼ごうと、その呟きに返事を返す。

 

「昔の私なら……気に入らねーから、の一言だったな」

 

 深い事を考えるような性格じゃなかった。物事を単純に、ストレートに考える奴だったから、ムカついたから、気に入らねーから、で大体済ませてた。

 

「だけど、こうして歳をとって、私もなんで気に入らねーのか、なんとなく言葉にできる」

 

 歳をとるというのは悪く見られがちだが、こうして身をもって体験してみて、悪いことばかりじゃないと思った。歳とともに重ねて来た経験は、私の考える事に明確な形を与えてくれた。

 

「お前のやり方はどーしようもなく行き止まりだ。『恐怖』を持って支配すれば、確かにある意味平和だ。ただ1人の権力者のための世界に争いはなくなる。だけどそれは私の望むものじゃねーんだよ」

 

 人が持つ欲によって回る世界こそ、私が好きなものだ。支配された世界にそれはない。私の考え方もまた、正しくないかもしれない。だが、正しさなんかに興味はないし、他人のためなんて殊勝にもなれない。私は私が思う面白い事のために動く。

 

「我儘だね」

 

「我儘で何が悪いんだか。建前なんて捨てちまえば、人間残るのは我儘一つだぜ?」

 

 ようやく息が整ってきた。体に力を入れて、胸を張る。しかし、足から力が抜けそうになって、半分折れる膝に拳を叩きつけて私は必死に踏ん張る。

 

(この程度で根を上げてるんじゃねぇ、私の体。ここで死んじまったらどうなる。ガキ共になんて言い訳するつもりだよ?遠い空から死んでごめん、なんて何の気休めにもなりゃしないだろうが!)

 

 歯を食いしばる。まるで関節に油を刺し忘れたロボットの如くギギギ……とゆっくりにしか動かない足を無理やり動かして真っ直ぐ立つ。

 

(何より、私の蒔いた種だ。ガキ共にケツを拭わせるなんて恥ずかしい真似ができるか!)

 

 その姿を道化師はニタニタと笑いながら見ていた。確かに、お互い決定打を得ることができない膠着状態だ。しかし、それを崩す方法など、幾らでもあるのだから。そう、例えば──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか

 

 道化師本人がこの無間から出る事はできない、しかし、干渉できないとは言っていない。

 横に手を翳せば、鬼巫女にも見える位置に穴が生まれる。そこから覗くのは、2人のシロコ、そして2人の『先生』だ。

 

「──ッ!!??」

 何をしようとしているのかを理解して、鬼巫女の顔色が変わる。

 道化師の手から放たれる斬撃は、その全てを切り刻む──前に。

 

「うおおおおおぉぉああ!!」

 

 叫び、全身に無理やり力を入れて、鬼巫女は力を行使する。その瞬間、彼女以外の時は止まった。

 

「ゲホッゲホッ!」

 

 全てが静止した世界の中で、倒れ込むように両手を地面に突き、ビチャビチャと、血を吐く鬼巫女。浅い呼吸を何度も繰り返し、手足は冷たくなり始めている。

 

「くそ……ッ!」

 

使()()()()()、そう思った。今私が使った力は本来、一瞬の隙を突いて道化師を殺す為の奥の手だった。掻き集めた力をこんな形で消費させられたのは痛い。しかもだ。

 

「ヒュー……ヒュー……あと何秒だ……2秒、いや5秒か……!?」

 

 人は以前できたことができなくなって初めて衰えを実感する、と言われるが、今まさに、彼女は自らの衰えをこれ以上ない程に痛感していた。

 昔なら何秒、いや何時間でも止められた。しかし今では数秒すら難しい。

 

「時間が短すぎる……!」

 

 まともに動くことすら難しくなって来た彼女に、ここから道化師を殴り飛ばして阻止する事は出来ない。だったらせめて。

 たった数歩で辿り着く距離のそれを、鬼巫女はまるで体力が尽き掛けたマラソン選手の如く走った。




 その日は冷たい雨が降っていた。ラジオからは、連邦生徒会からの声明が流れていた。長い間意識が戻らない『先生』の生命維持を諦める、との声明が。
 私はそれを、病室で聞いていた。心電図が示す心音は弱々しく、ベットから覗く腕は枯れ木のようだ。
 立ち上がる事もできない私は、それを聞いて仕方ないと思った。どんな理由であれ、人の生き死は誰にも避けられないものだから。悲しい事だが、そういう別れもあるだろう。それに、私も──
 
 だけど、どうしても見過ごせない事があった。ラジオの向こうで聞こえる。突如として現れた人物がキヴォトス中の人を殺し回っていると。
 そこから聞こえるその人物の特徴は、私がよく知る者だった。
 だから、私は無理やり這いずるようにして病室を出た。外はパニックで、誰もがこんな瀕死の人間なんて見向きもしなかった。
 ピタ、ピタ、と裸足で建物の壁に寄りかかりながら雨の中を歩く。どれだけ歩いたのか、分からないが、目的の人物にはすぐに会えた。
 
「……師匠」

「よぅ、ハロウィンにしちゃ少し早くないかシロコ」

 冷たい雨の中で、拳銃の銃口を向ける砂狼シロコがいた。
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