澄んだ記録を目指して   作:上条@そぉい!

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BGM:RE Aoharu


『届いた』

 ハッとして目を開ける。立ち尽くしたまま呆然としていたらしく、左右をキョロキョロと見る。

 波が寄せては引いていく。青空は何処までも澄み渡り、地平線の向こうで朝日が見え隠れしている。ここは砂浜のようだ。

 

「最近、こういうのが増えたな」

 

 今度は何処に飛ばされたのやら。もしくはこれはあの世で、目の前に見える海は三途の川ってやつなんだろうか。

 

「参ったな、渡り賃なんて持ってないんだが」

 

 だとするなら、これを渡ると私は死んでしまうことになる。どうにも、私は渡る気分になれず、その場で尻餅をついてこちらの足に触れるかどうかの波をボーッと眺める。

 

「畳の上で死ねるとは思っちゃいなかったが、案外悪くはないんじゃないかね」

 

 そんな風に独り言を言うが、内心ではそこまで満足いくものではなかった。悪いか、悪くないかで言えば悪い。もっとカッコのつく死に方がしたかった。

 

「あぁ……くそ、死にたくねぇなぁ」

 

 ポツリと、海を見る顔が歪む。

 割り切ったつもりだったが、やり残しがあると、こうも粘ついた後悔がついてくるとは思わなかった。

 

 ──だったら、戻ればいい。

 

 自然と俯かせていた顔をあげて、後ろを振り返る。朝日が雲に隠れ、影がその人物の顔はよく見えない。

 

「戻るって言ってもな、もう打つ手はねぇよ」

 

 力もすっからかんで、体はボロボロ。仮に戻ったところで今度こそ死ぬだけだろう。

 

 ──だけど、君は諦めてないだろ?

 

 そう言って、彼は私の手を指差す。それに釣られて目を私の手に向ければ、そこには硬く握り締められた拳があった。

 

「はは……こんなに諦めの悪い奴だったか、私って」

 

 ──君がいつも言ってたじゃないか

 

 まあ、確かにな。人に言ってることなんだから、私が違うってのは筋が通らない。

 尻についた砂を落としながら立ち上がり、彼と対面して、笑った。

 

 ──改めて聞くよ。君の『それでも』諦めない理由は、何?

 

 尋ねられて、迷いなく私は答える。その答えを聞いて、彼は笑った。

 

 ──とっても、君らしいね

 

 そう言って、彼は懐から何かを取り出す。それは大人のカード。何かを代償にして、未来を前借りする魔法。

 

 ──行っておいで。君を待つ人たちが呼んでるよ。

 

 朝日が雲の隙間から覗く。そこからの日差しが、私たちを照らす。包帯だらけで、ボロボロになってはいたけど、そこに居たのは紛れもない私の──

 

 ──起きて鬼巫女!

 

 ──うちの顧問でしょ!寝てないで早く起きなさい!依頼はどうなるのよ!

 

 ──鬼巫女!

 

 ──鬼巫女!

 

 いつもと変わらない騒がしい声に、苦笑する。

 

「仕方ねぇなぁ……もう少し、やってみるか」

 

 朝日が辺りを照らす。眩しくて目を閉じながら、私は声のする方に手を伸ばす。

 

 ──師匠、起きて。お願い、お願いだから……

 

 何も見えない中で、確かに私は誰かの手を掴んだ。

 

 

 微睡みから覚めていく。意識が戻った私が始めに感じたのは、全身の痛みだ。目が覚めたとは言え、依然として傷は重い。

 パチパチと、目を開ける。そこで目にしたのは、こちらの手を掴みながら顔を覗くシロコだった。普段のような感情があまり見えないものではなく、ポタポタと涙が私の顔に垂れている。

 

「いい泣き方だ、帰ってきた甲斐がある」

 

 こちらの顔を覗くシロコの頭をくしゃくしゃっと撫でて、私は上体を起こす。周りには私の知り合い達、生徒がいた。

 

「鬼巫女ー!死んだと思ったわよ!!!」

 

 まず開口一番でこちらの体に抱きついてきたのは社長、陸八魔アル。相変わらずアウトローのカケラも感じられない泣き顔だ。

 

「いててて!!社長その抱き癖はなんとかならねーのか!!私重傷なんだけど!?」

 

 こっちの事をお構いなしで抱きつくものだから、傷がズキズキと痛む。

 

「良かった……ほんとに……」

 

 そう呟いて床にへたり込むのは鷲見セリナだ。その服と手は血で汚れている。私の意識がない間、ずっと治療していたのだろう。

 

「助かった、ありがとよ。あぁ、入院は後にしてくれ、酒とタバコを没収されたら生きていけない」

 

 いつもと変わらない軽口に、セリナはやっと戻ってきた、と安心した。でも、絶対いつか酒とタバコは辞めさせるつもりだ。

 と、その時、生徒達の背中で爆発音が。煙と共にこちらに転がってくるのは聖園ミカだ。

 私のそばから離れないシロコや社長の肩を叩いて立ち上がり、ぐるぐると調子を確かめるように肩を回し、ミカの側にまで歩き寄る。

 

「お嬢様、もうへばったか?」

 

 その声に、ミカはすぐ顔をこちらに向け、一瞬泣きそうになったところをゴシゴシと雑に手で拭って立ち上がる。

 

「このくらいなんともないし!そっちこそ病み上がりでついて来れる!?」

 

「抜かせ、まだガキ共に心配されるほど老いてねーよ」

 

「ん、私もいる」

 

「便利屋68、出動よ!」

 

 境遇も、立場も、なんなら世界も違う生徒達。彼女の背中を見るしか出来なかった生徒達は、けれど今度は、同じ景色を横並びで。




掴めなかったあの日の手は、今日に届いた。
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