『命は投げ捨てるものッ』
鬼巫女はこれまでに無いほど震えていた。過去を遡ってもここまで震える事はない、と断言できるほどにだ。
今も雑誌片手に柔らかいソファに身を沈めてだらけたスタイルを維持しているが、その表情は硬い。片眉をピクピクとさせながら。
「ふむふむ、こういうものを読んでいるのですか」
いや、落ち着こう。こういう時ほどクールに成らねばならん。人はクールであるべき、沸騰したお湯は蒸発するだけと相場が決まっている。横からの視線を無視しながら机に置かれた飲み物のコップを空いた片手で掴み一気飲みする。カランと空っぽの器に氷が跳ねる音がした。
「コーラが好み……と」
いや我慢できん。人は燃えるもの、火薬に火が付かなければ花火は上がらないものだ。雑誌を閉じ、机に投げ捨て。無視していた横の存在に目を向ける。
「さっきからうるせーな!何の用だよ、事務所には私しかいねーぞ!」
無表情でこちらを先程から観察して逐一私の行動をメモしていたのは飛鳥馬トキだった。C&Cのメイドの1人で私との関わりはそれほどない筈だ。強いて言えばアリスの件で少し遊んでやったくらいか。
「いえ、私の目的は貴方ですので。気にせず」
「気にせずできるかぁ!ジロジロ見られちゃ落ち着かんだろがい!」
ふー、ふー、と荒い呼吸をする私を何だこいつ、みたいな目で見てくるトキに対して私はイラッとした。しかし、こういった手合いはまともに対応するとめんどくさいと相場が決まっているのだ。故に浮かせた腰をソファに再び沈めてため息を一つ。
「目的はなんだよ、私になんかあるのか?」
「いえ……」
そう言って無言になるトキに焦らされる思いで更にイラッと。こいつ今すぐ窓から投げ捨てていいか?
そんな葛藤を含んだ視線でじっと見つめればトキは口を開いた。
「貴方はかつて私と戦い、こう言った。『確かに強いがまるで張り詰めた糸だ。それじゃいつか切れてしまうだけ。お前に足りないのは遊び心だ』と」
「あー、そんな様な事言った気がするわ。お前もお前の上司……いや元か。理詰めな考え方をする奴は意固地でよろしくない。もう少し頭を緩くしろって事だよ」
「アスナ先輩のように?」
「あれは野生の犬と変わらん、極端すぎるから参考にするのはやめておけ」
マジで時々カッ飛んだテンションになるから私もアイツにはついていけん。
「その後私も考えました。遊び心とは何なのか。その結果、貴方を観察することに決めました」
「結論が傷ついたレコードの如く飛んだなオイ。どーしてそうなったし」
トキはその言葉に首を傾げる
「貴方を観察すれば遊び心が分かるのでは?」
「いや知らんし、激流に身を任せ同化してればいいんじゃねぇの」
既にどうかしてるとは思うけどな。なーんでC&Cのメイドは何処かしら頭のネジ飛んでんだ?こういった面倒な奴に絡まれる私の日頃の行いが悪いのか?
「うーん……」
思い返してみるが、やはり身に覚えはない。不良から金巻き上げたりシャーレに顔出したら何故か爆発したり、アビドスで何故か銀行強盗の現場に遭遇したり。うん。ミニオボエガナイナー。
思い返される数々のエピソードをそぉい!と脳内で吹き飛ばし現実に戻る。
「まあ理由はわかった。帰れお前」
そう言うと無表情だがガーンとショックを受けた様な雰囲気を出すトキ。器用だなお前。
「ガーン!」
「いや口で言うんかい」
やれやれ、今日は厄日か?
「じゃあ座ってビーム出すところから始めろ、話はそれからだ」
「ビーム……?」
何処ぞの暗殺拳だがいけるだろ多分、名前同じだし。知らんけど。
ユクゾッ