内閣総理大臣秋津悠斗──prime minister of japan──   作:松コンテンツ製作委員会

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 久しぶりの更新です。お待たせ致しました。


第10話『斯波高義よ、物部政権の芸能汚職を糾せ!』

 2020 年 2 月 3 日、玉川芳彦は人生初の記者会見に臨んでいた。

「我々国民興業は、U グループ及び坂グループの要請を受け、これら 9 つのアイドルグループのメンバーの入社を認めることとしました」

 芸能界に衝撃が走った。一介の二十歳そこそこの学生が、既存のアイドルグループ、それも日本を代表するアイドルグループの経営権及びプロデュース事業を奪取したのである。

「国民興業は、真にアイドル本位の経営及びプロデュースに努めて参ります。これまでの『抑圧的』なマネジメント手法は、明確に葬り去られるべきなのです」

 この状況に唖然としたものが、保守党に数多いた。物部泰三首相もそのひとりである。

「何なんだこいつは……」

「どうされますか、総理」

「いや、もはやこうなっては春本健一(U グループ及び坂グループの総合プロデューサー)や『元』運営会社を表立って助けるとは」

「おーーーい!物部さんは居るか!」

 現れたのは、でっぷりと太った初老であった。

「竹内教授!?」

「俺に任せろ、あんな小僧の集団、俺の力でねじ伏せてやる」

「どうやってやるので?」

「メディアに金掴ませれば、世論をひっくり返せる」

「ストレートな物言いですね。分かりました、お願いします」

 竹内蔵之介は、大泉政権で総務大臣を務めて以降、経済界で大きな影響力を持っていた。富裕層ファーストの経済論をメディアに垂れ流し、 労働者と無情に搾り上げながら、自らは私腹を肥やす日々を送っていた。

 

      *     *

 

「な、なんだこれは!?」

 翌日、芳彦は各メディアで報じられている、『スクープ』に怒りを覚えていた。ほぼ全てが、嘘で塗り固められていたからである。

 ただ一つを除いては……

「桃香、大丈夫か?」

「うん……」

「良いか、自分一人では外に出るな。数日、長くても一週間のうちに、この騒動を収めて、経営権を取ってやるからな」

「玉川君……」

「君も、第二のキャリアを始められるようにするから。約束する」

 小園桃香は、児玉坂 34 の三期生である。鹿児島県出身で、純粋無垢なキャラクターで人気を博していた。

 しかし、性格的な面で、この頃から芸能界引退を考え始めていた。それを考え始めたころに、同い年である芳彦と出会い、秘密裏に交際を始めていたのである。先程、竹内が流したスクープの中には、この交際のことも含まれていた。

 対する芳彦も負けてはいなかった。在学中の世良田大学でのコネを使い、春本や竹内に関する黒い噂をメディアに流し、反撃を開始した。物部、春本、竹内の三人が、『姑息な手段』で金儲けに勤しむ手法なども暴露されることになった。尚、この暴露については、竹内が慶明大学の教授であったことから、慶明大学のライバルであった世良田大学も(所謂、世慶対立) 、芳彦の手助けをしたのである。

 この反撃で、世論は反春本に傾斜、1 週間でこの騒動は終結し、無事 9 つのアイドルグループは玉川芳彦の国民興業の傘下に置かれたのであった。

 

 その直後、芳彦は実の両親と絶縁し、叔母の斯波睦子の養子に入った。第1話で述べた通り、芳彦はこれまで、親の圧力で医学部に進学させられそうになるなど、親に不満を持っていたのである。

 また、斯波家は旧家であり、ある程度の財力を持っていた。この 1 週間の大立ち回りも、斯波家の財力無くして成し得なかったことであった。

 芳彦は、斯波家の通字の一つである『義』の字を使って、名を改めた。後の、秋津悠斗の盟友、『斯波高義』の誕生である(因みに数年後、裁判所に申請し、本名でもこの名前となった)。

 

 この騒動で、春本健一以外で大きな痛手を受けた人たちが居る。

「竹内さん、がっかりしましたよ」

「面目ない。まさか世良田大学に、裏で動かれるとは思っていなかった。その上、世間があそこまであの

小僧の肩を持つとは思っていなかった」

「今回の騒動で、支持率も 10%も落ちて 34%に、不支持率も 8%上がって 46%になってしまいました。このまま支持率が落ちていく可能性は十分あります……」

 物部泰三首相、羽賀信義官房長官、竹内蔵之介の三人は、俯きながら話している。物部政権は、以前から官邸の資金で春本のプロデュース事業を支援していた。今回、春本や運営会社の『悪行』が明らかになった

結果、それを支援していた物部政権も小さくないダメージを食らったのである。

 因みに、官邸による春本援助を、この 3 年前に初めて明らかにしたのが、当時保守党内で冷や飯を食らっていた奥羽太郎であった。尤

もその直後に、その奥羽を宥めさせるのに、彼の入閣を提案したのが羽賀官房長官だったりする。

「おのれ……斯波高義。俺の金儲けを邪魔しやがって」

「まぁ、打つ手はないでしょう……」

「羽賀さんも、そう思いますか……」

「春本さんには悪いですが、経営権乗っ取りを成し遂げるくらいの力量があるんです。相当に手強い青年ですよ」

「保守党に、変な影響が出なければいいのだが……」

「おいおい、お二人とも、経済界のバックアップも考えてくださいよ!?」

 弱気になっている物部と羽賀に、竹内が迫った。

「それは……」

「何とかする、としか……」

 

      *     *

 

 そのような状況を、ほくそ笑む保守党幹部が居た。

「物部さんにとっては不憫なことだが、私たちの派閥にとっては最高の好機だ」

「その通りですよ、岸本さん」

 派閥のビルで、岸本勇雄政調会長と森田正好元大臣が策を練ろうとしていた。

「私にとっては、念願に近づけるかもしれませんし」

「ハハハ、君は諦めないねえ」

「父の代からの因縁ですから」

 物部家と森田家は、それぞれの父親の代から同じ地域を地盤としており、同じ党内に居ながら因縁のライバルとなっていた。違う派閥に属していることからも、そのことが如実に表れている。

「確か森田君は、斯波さんと縁があるんでしたっけ?」

「まぁ、彼の実母は私の幼馴染ですが、既に親子は絶縁しておりますので……」

「難しいか…?」

「いや、何とかできると思います」

「これから物部さんの派閥とは距離を取っていく必要性が高まっていく。そういう時に、斯波さんに接近するのは、悪くない選択だと思っている」

「確かに、竹内氏をこのままのさばらせるわけにはいきませんからね」

「その通り」

「分かりました。岸本派のために、岸本さんが総理になるために、何とか近づいてみましょう」

「ありがとう」

 

 この一連の騒動をきっかけに、政局が動き始めた。

 斯波家臣団と岸本派が打倒物部で水面下で連携し始めたのである。

 そしてそれが、強固だったはずの物部政権を脆弱にしていくのである。

 斯波家にアプローチを始めた岸本派の森田家は、南興社会主義人民共和国の開発を進める秋津国土交通大臣知り合いであり、それこそ斯波家とも知り合いである。

 必然的に南興開発利権にそれらの人々が関わることとなった。

 これを面白くないと思うのが親中派の御屋敷幹事長である。御屋敷派の秋津文彦は陰謀に巻き込まれる──

 

        *    *

 

 2020年4月1日、秋津悠斗は先輩秘書に叩き起こされ、急ぎ警察署へと向かっていた。

 秋津文彦と秘書が乗る車で事故が起こったというのだ。しかも加害者側だという。

 釈放された秋津文彦に悠斗は言う。

「きっと御屋敷幹事長の陰謀に違いないですよ」

「馬鹿者! おいそれとそんなことを口にするな!」

 温厚なオヤジに久々に怒鳴られ、悠斗は複雑な表情をしたまま後援会事務所への帰路につく。文彦と悠斗を乗せた車は別の秘書の運転でマスコミの集中砲火をかいくぐる。

 聞けば、突然秘書が具合が悪くなり、秋津文彦がみずから代わりに運転していたところで事故が起こったのだという。

 車は後援会事務所に着いた。 

 途端にマスコミが詰め寄る。

「秋津国交大臣、みずから運転し事故を起こしたのは本当なんですか!?」

「隣にいるのは保守党学生部長の秋津悠斗君ですよね、何か一言!」

「はい下がって! 下がってください!」

 付近をガードしていた警視庁機動隊がマスコミを押しのける。一応文彦は現職の国土交通大臣なのでSPの警護対象者でもあるし、事故の被疑者でもある。

 後援会事務所の二階に上がると、後援会の人らが待っていた。

「この度は私の不祥事で、申し訳ないことを……」

 文彦が憔悴した様子で口を開く。後援会会員は沈痛な面持ちだ

「それより悠斗君、あんた選挙に出てみんかね」

 後援会婦人部長の年寄りが水を向ける。

「えっ!」

 前々から秋津先生を継ぐのは悠斗君だと思っていたよ」

「ちょ、ちょっと、気が早いですって」

 うろたえる悠斗に年寄りらは笑った。

 

 

 




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