甦生の星神   作:aaa

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遅くなってごめんね。
あけましておめでとう。


開拓の旅へ


 

 薬師様から祝福を授かることは他の星神に比べて容易である。彼女は諸生命の不老長生を追求しており、それを願う者を拒むことはないからだ。常に薬師様の御傍に控えるあの男も、きっと初めはそうだったのだろう。

 

 彼は薬師様とはどのような御関係なのだろうか。

 膝の上に乗せられ頭を撫でられ続けるその様は愛し子そのものであるが、彼を縛り付ける幾本もの蔓は一見すれば罪人を戒める鎖のようでもある。

 瞼を閉じて俯く彼と薬師様のみがその真実を知っているのだろう。

 

 それにしても、彼を撫でる薬師様のいと優しき御顔よ。

 矮小な存在に過ぎない私が推測するなど烏滸がましいにも程があるが、そこに並々ならない御気持ちがあるのは間違いないと思われる。

 

――不老長生を賜った老爺が故郷へ宛てた手紙より

 


 

「エネルギーも十分じゃし、そろそろ跳躍をしても良い頃合いじゃろう」

 

 朝食のスクランブルエッグを食べ終えたパムさんは、ソファでコーヒーを飲みながら寛いでいた姫子さんを見上げながら言った。三月とババ抜きをして遊んでいた星(ステラ)は耳聡くそれを聞きつけて、穴が開くほど凝視していた三月のカードから顔を上げて訊ねた。

 

「どこへ行くの?」

「ヤリーロIVという惑星よ。存護の領域にある星で、アーカイブによると緑に包まれた自然豊かな惑星とのことよ。でも、列車が最後に停車したのは数千年前だから、今はどんな状況になっているかは分からないわ」

 

 千年あれば文明はいくらでも発展するし、逆に文明が崩壊するにも十分すぎる時間だ。もしかすると、何らかの派閥から攻撃を受けて惑星ごと消滅している可能性すらある。アーカイブが何千年も更新されていないということはその間に一度たりとも通信が行われなかったことを意味するので、今回の停車は生存確認的な意味合いも含まれる。

 

「跳躍はいつ頃になりそうだ?」

「うーむ、本来なら朝食が片付いたらすぐにでも開始したいところじゃが、周囲のスペースデブリが少し気がかりじゃ。もう少し安全圏に移動してから跳躍すべきじゃな」

 

 パムさんにつられて窓の外に視線を向けると、目を凝らせば少なくない量のゴミが浮遊しているのが見えた。いつの間にゲームを終えたのか、手ぶらになった星(ステラ)が後ろで悔しそうにしている三月を放って俺の隣まで来ていた。

 

「あれなに?」

「うん、どれだ」

「あの七色に光ってるやつ。あのゴミはなに?」

 

 星(ステラ)が指さした方を見ると、確かにピカピカと主張の激しい何かがあった。

 

「ああ、あれはゴミじゃない。ホシゾラクラゲという生物だ。群れる生き物だが、はぐれてしまったんだろう」

「じゃあ、あれは?」

「ゴミ袋だな」

「……」

「なんでそんなに目を輝かせてるんだ?」

 

 ホシゾラクラゲの時はどうでも良さそうだったのに、ゴミ袋を見つけたとたん星(ステラ)は額を窓ガラスに張り付けて凝視し始めた。本当に何の変哲もない不法投棄物だぞ、と説明するとさらに興奮した様子で観察を続けた。

 星(ステラ)と出会ってそれなりの期間を過ごしたが、未だにこいつの感性が理解できない。こいつはゴミに興味があるのか。そういえば、星(ステラ)が俺の部屋で寛ぐときは毎回ゴミ箱の近くをうろうろしていたような気がする。

 

「……あまりいい趣味とは言えんぞ」

「ふぅん、无名はまだそこ(・・)なんだ」

「行きたくないな、そんなステージ」

 

 気をつけておかないと、このままだとゴミ箱も漁られかねない。

 ……いや待て。

 

「そういえばなんだが、数日前からペンのキャップが見当たらない。何か知らないか」

「ああ、もしかして赤色のやつ? あれならゴミ箱の底のほうに埋まってたから私が拾って机の引き出しに戻しといたよ」

「既遂だったか……それに隠す気すらないときた」

 

 なんという豪胆さ。プライバシーをものともしない開拓魂。果たしてゴミ箱の中に開拓すべき未開の地が存在するのかは知らないが、現に星(ステラ)は俺の部屋のゴミ箱を開拓してみせた。そしてそれを隠そうともしない心意気の堂々たるや。ここからどう教育していけと?

 

「……しばらく俺の部屋は出入り禁止ね」

「えー、しょうがないな」

「こいつ……!」

 

 なんで俺が悪いみたいになってんだよ。

 

*****

 

 跳躍5分前となったので、俺は機材を用意してラウンジに向かった。

 

「星(ステラ)、お話し中のところすまないが少し体を触らせてくれ」

「いいよ」

「ちょちょちょ、ストップ! ストーップ!!」

 

 星(ステラ)は三月と談話中だったようで、一言断ってから星(ステラ)の腕を掴もうとしたところ三月に阻まれた。

 どういうことだと視線を向けると、三月はぷんすか怒りながら俺を睨み付けていた。

 

「どっ、どういうつもりなの!? 白昼堂々ラウンジのど真ん中で……信じられない!」

「そんなに怒る?」

「三月のヒステリーは今に始まったことじゃない。気にするな」

「ヒステリーって言うな! えっ、これ私がおかしいの!?」

 

 ぎゃあぎゃあとなにがしかを喚く三月を他所に、俺は星(ステラ)の腕を取ってシールを張り付ける。このシールにはコードで機械と繋がっていて星核の様子をデジタルデータとして観察することが出来る。そう説明すると、三月はわなわな震わせていた握りこぶしを解いて溜め息を吐いた。

 

「なんだ、そうなら最初から言ってよ。変な勘違いしちゃったじゃん……」

「私もちょっとびっくりした。次から気を付けて」

「……でもアンタ、即答してたよね」

「まあ、无名なら別にいいかなって。悪い人じゃないし」

 

 その爆弾発言に俺は思わず頭痛を覚えた。

 

「……この警戒心の薄さは後々問題になりそうだな」

「あたしもそう思うけど、アンタも人のこと言えた立場じゃないからね」

 

 三月の指摘は無視して計測を開始する。

 デバイスの画面には心電図や心拍数などが事細かに記載されていて、それを星(ステラ)は難しそうな表情をして三月と一緒に覗き込んでいる。

 無理もない。俺だってこれを使いこなせるようになるまでにかなり時間がかかったんだ。

 

「どう?」

「安定している。まあ、不安定になったら目視でも分かるようになるから安心してくれ。今回の計測だって、跳躍が星(ステラ)に及ぼす影響を確認するためのものだ」

「ヨウおじちゃんは大丈夫だって言ってたけど……」

「俺も問題ないと思うが、念には念を入れてな」

 

 変に深刻な捉え方をされないよう努めて明るく説明すると、星(ステラ)も納得したのか脱力してソファにもたれかかった。跳躍が星核に及ぼす影響なんてたかが知れているが、俺はあの夜に立てた誓いを反故にするつもりはない。打てる手は先んじて打っておきたい。

 

『これより跳躍を開始する。各員、丈夫なものに掴まり衝撃に備えるんじゃ』

 

「おい、始まるぞ。三月は――」

「オッケー! 今度こそは成功させるから!」

「お前な……」

 

 席を立ちあがりラウンジの中央へ駆ける三月。

 片足を後ろに引いてやや前傾姿勢を取ると「転ばない、転ばない……」と譫言のように繰り返し始めた。いい加減諦めてほしいんだが、三月は自分の限界を超えるための大切な一歩なのだとか訳の分からないことを言って譲らない。

 

「なにやってるの?」

「跳躍の際に列車内は慣性を受けるんだが、三月はどうにかそれに抗おうとしている。どうせ怪我するだけだからお前はやるなよ」

「……」

「やるなよ?」

 

 わくわくした表情で席を立ち上がろうとした星(ステラ)を手で制する。

 こんなところで持ち前の好奇心を発揮させるんじゃない。

 

『跳躍まで10、9――』

 

 ようやく『ヘルタ』の近界から離れられる。

 襲撃に来た反物質レギオンの大軍は粗方掃討されたとはいえ、援軍が送られてこないとは限らない状況だから少し心配していたのだ。ヤリーロⅥともなればかなり距離はあるので、そこまで追ってくることはないだろう。

 

『8、7――』

 

 目を閉じて来る衝撃に備える三月を眺めながら、ふと隣が静かになっていることに気が付いた。

 視線を向けると星(ステラ)はいつもの無表情をしていたが、膝の上で握りこぶしを作っていた。

 

『6、5――』

 

「不安か?」

「……」

 

 星(ステラ)は何も言わずに僅かに頷く。

 問題ないとは言ったものの、やはり気にせずにはいられないのだろう。

 こんなことになるなら、いっそ跳躍の影響は伏せて定期健診だとか言ってごまかしておけば良かったか。失敗したなと少し後悔する。

 

『4、3――』

 

 ふと、俺が仙舟で星槎乗りをしていた時のことを思いだした。

 親子連れを天舶司に連れて行くはずが、子供が初めて星槎に乗ったというので発進してすぐに泣き出してしまった。その時に母親は子供の手を……。

 

「……ほら」

「え?」

「手出して」

 

 おずおずと差し出された右手を取りゆっくり握る。

 星(ステラ)が着けている手袋が薄手なのも相まって、彼女の体温がほぼダイレクトに伝わってくる。

 

『2、1――』

 

「……ありがと」

 

 窓の外を見る。

 跳躍直前に列車は急加速し、その速度は光速に到達する。星々の光は歪み、列車の後ろへ流れていた光は進行方向へ流れ始める。列車の遥か後方に位置する惑星ブルーと『ヘルタ』もその不可思議な光景のひとつでしかない。

 

 何度見ても美しい。

 だが、これも一瞬にさえ満たない刹那的な幻想に過ぎなくて。

 

 ――衝撃が訪れる。

 

「うわっ」

「おっと……大丈夫か?」

 

 体勢を崩して倒れそうになった星(ステラ)の肩を押し返す。

 デバイスを見て星核も平気そうなのを確認すると、俺はおもむろに立ち上がって窓の外を見た。列車は跳躍により既にヤリーロⅥの衛星軌道上に到達している。俺の記憶では緑に溢れたワイルドな惑星だったが、今はどうなっているのか。

 

「……マジか」

「全部雪なの? 凄い」

「どうやら、雪というよりは氷に近いようね」

 

 記憶とあまりに違いすぎる様子に愕然としていると、いつの間にやら姫子さんがラウンジにやってきていた。床に倒れ伏す三月を慣れた様子で無視すると、姫子さんも俺の横に並んでヤリーロⅥの惨状に悩まし気に唸った。

 

「恒星の活動が弱まったのかしら」

「200年ほど前に物好きな仙舟人が宇宙の各地に赴いて恒星の観察をした際の記録があるんですが、それを参照すると磁気活動に顕著な変化はなかったとのことです。後でアーカイブに追加しておきますよ」

「ありがとう。いろいろ気になることはあるけれど、まずは――」

 

 いつもの如く姫子さんから指示が出されるのかと思いきや、慌ただしそうに扉を開けてやってきたパムさんに遮られる。

 

「大変じゃ、星軌の安定率が12%まで減少しておる! この駅での停車期間を7日間から無期限に変更するぞ!」

「む、無期限? そんな……それじゃあ私たちの開拓の旅はここで――」

「バカ者、問題が解決するまでという意味じゃ! そんな不吉なことを言うでない!」

 

 絶望した表情を浮かべる星(ステラ)を叱責するパムさん。

 星穹列車は、列車と名に付く通り星軌(レール)を辿って運行されている。星軌の安定率が低下するということはレールがぐにゃぐにゃに歪む、あるいは消失するようなもので、そのまま進めば大惨事になりかねない。

 

「今回もこうなるなんて……言わなくても分かるけど、原因は……」

「――暫定検測の結果は、星核が異常の根源だと示している」

 

 早くも測定を終えたヴェルトさんもラウンジに集まった。

 やはり星核が原因か。とすると、このヤリーロⅥの惨状も件の星核による影響と見るのが自然だろう。星核は往々にして既存の文明や生態系に大きな影響を及ぼす。ここも文明が残っているといいのだが。

 

「星核……」

「ふふ、あんたが心配する必要はないのよ。こういう状況は初めてじゃないから。星核の本質が未解明でも、その影響を消す方法はある」

「そこでウチらの出番ってわけ!」

「いちいち星核に列車を停められて立ち往生するんじゃ話にならんからな。俺たちの手でどうにかするしかない」

 

 かつてアキヴィリとナナシビトたちがどのような開拓の旅を送っていたのかは知らないが、少なくとも姫子さんたちと旅をするようになってからは、星核の回収と処理が当面の活動目標となりつつある。それほどまでに星核の及ぼす影響は深刻なのだ。

 

「今回の開拓は三月ちゃん、丹恒、そして星(ステラ)に頼もうと思ってるの。宇宙ステーションでの息ぴったりなコンビネーションはヤリーロⅥでも十全に発揮されるはずよ。任せてもいいかしら?」

「いいよ! また力を合わせる時が来たね~」

 

 姫子さんの言う通り、『ヘルタ』での三人は星(ステラ)という初めて顔を合わせた存在がいるにも関わらず、それぞれが巧みに役割分担をして大きな戦果を挙げていた。それ以外のトラブル解決も、まるで糸を解くみたいに簡単に解決してしまう。これ以上に最適な組み合わせはないだろう。

 しかし、当の星(ステラ)本人は何やら含みのある眼差しで俺をジトっと見つめていた。

 

「なんだ。言いたいことがあるなら今のうちに言っておけ」

「……无名は来ないの?」

「俺か。俺はお前らみたく武に覚えがないから、有事の際は足手纏いになってしまう。お前にとって今回は初めての開拓なのだから、イレギュラーは少ない方が良いだろう」

 

 開拓の旅が開拓(・・)である以上、その惑星に住む先住民との接触は免れない。

 これが厄介で、いくらナナシビトが価値観の違いに強い適応力を持っているとはいえ荒事に発展する可能性を無くすことはできないのだ。自分たちが大丈夫でも相手が寛大に受け入れてくれるとは限らないし、何なら暴力で排除してくる場合もある。

 そういう状況で俺は足手纏いにしかならないから、余程の理由がない限りは列車から出ないようにしている。

 

「そういうことだから、すまないが俺はパスだ」

「……」

 

 星(ステラ)は黙ったまま俺を睨み付ける。

 ……そんな目をしても無駄だ。俺の意志は固いぞ。

 どうしても一緒に来て欲しいというのなら、弱みのひとつでも――

 

「――たとえお前の星核が再び暴れ出そうとも、必ず俺たちが」

「行きます」

「よし」

「なんで!?」

 

 驚く三月を他所に、星(ステラ)は満足そうに笑顔で頷いた。

 やめてくれ、あれは……深夜テンションだったんだ。もちろんお前を慰めようという気持ちもあったが、部屋に戻ってからあんなに気障ったらしい言い方は無いだろと反省したんだ。

 ああ、顔が熱い。

 

「……どういう風の吹き回しかしら」

「おお、ついに无名も開拓に出るのか。良いことじゃ! 少しは外の空気に触れてくるといい」

「パムさんまで……! 姫子さんは良いんですか」

「別にあんたが加わることで心配するような問題はないわ」

 

 それに、と姫子さんは付け加えて。

 

「あんたは自分は非戦闘員だと言い張ってるけど、自衛できないわけじゃないんでしょう?」

「……はい」

「それじゃ、決まりね」

 

 ――そうして俺はたったひとつの弱みで開拓の旅に同行することとなり。

 

「行ってらっしゃい。繰り返すけど、旅の目的は星核の回収よ。列車に持ち帰った後のことは私たちに任せてちょうだい」

「はーい! 行ってきまーす!」

「行ってきます」

 

 三月と星(ステラ)は軽い足取りでラウンジを離れ。

 

「はあ……」

「お前が列車の外に出るとは珍しいな。流星群でも直撃するのか」

「かもな。まさかこんなことになるとは」

「ふむ。事情はよく分からないが、しばらくの間よろしく頼む」

「……ああ、こちらこそ頼むよ」

 

 俺と丹恒は二人の後を歩く。

 

 ヤリーロⅥ――常冬の惑星。

 星(ステラ)の策略により、俺は渋々ながらも上陸を果たすことになるのだった。




この小説で"星"という単語が多すぎて開拓者主人公の名前とごちゃごちゃになってる気がする。
ということで今回は名前の部分はすべて星(ステラ)みたくルビを振ってみた。
以下にアンケートを設置したので、反応が良さそうなら今後もそうします。

名前のルビ振りを

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