車輪の下敷きになってしまったメブの話。
ツイ......Xにも同じのを投稿してます。
ほんのり鬱要素あるんで一応R-15。

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脱線

 暑い。

 暑いと、体の底から怒りがこみ上げてくる。

 照りつける太陽にも、その太陽に何も反撃できない自分にも、全てに腹が立ってくる。

 しかしどこにどう発散できるものでもなく、自分の拳の中に封じ込めるしかない。

 痛い。血が出たかもしれない。

 けれど、そんな事は気にならない。気を紛らわせさえすればどうだって良いのだ。全方向に棘立ったこの気持ちを。

 平常心で、何事も無く家に帰りたい。私の願いはそれだけなのだ。

 なのに、世界はいつも私の邪魔をする。

 これは、中学校?高校?

 うるさい、体育なんて止めてしまえば良い。

 いち、に、さん、し。

 耳障りだ。黙って静かにやれないものなのか。

 体を育てる、という体育の目的達成のためにはそれで十分じゃないのか?

 足の回転が速くなる。

 どうして私だけが我慢をしているのか。

 勉学に励む身なら、我慢をしてこそ身になるというもの。

 本当に鬱陶しい。

 もう学校なんて、二度と見たくない。

 

 ここに入ってしまえば、嫌な事は全て忘れてしまう事ができる。

 この世で唯一、私が存在を許される場所。

 自分の城と言っても過言ではない。

 ここなら皆に認めてもらえる。私の実力を発揮できる。私は無能なんかじゃない、と思える。

 勉強はもう放り投げた。何のためにするのか分からなくなってしまったから。

 街の人は言った。

「頭の良い芽吹ちゃんはこの街の希望だよ」

「お偉いさんになって、俺たちの生活を良くしてくれや」

 勇者になれず、何も得ず。

 それでもめげず、期待してくれる人々の期待に応えようと頑張ってきたつもりだった。

 塾では、毎回の模試でトップ争いを演じ。

 進学校と名高い、山の向こうの高校へ通学し。

 定期テストでは、最高で学年2位を獲った事もある。

 努力して努力して、私はその地位まで辿り着いたのだ。

 なのに同級生ときたら、休み時間は騒ぎ、放課後は遊び。

 それでいて、テストでは何食わぬ顔で上位に食い込んでくる。

 勉強ばかりしている私とは、決定的に違うものがあった。

 それが何かは分からない。

 けれど、その何かに違和感を覚えた頃からだ。

 私は、何につけても無性にイライラするようになった。

 そして周囲になじめず孤立し、間も無く学校へ行かなくなった。いわゆる “不登校” というやつだ。

 父親は何も言わなかった。元より無口な上、子に過干渉するタイプではさらさらない。

 ただ一言、

「今日は学校に行かなくて良いのか?」

行かなくて良い、と私が言うと、

「そうか」

ポイ捨てされたタバコの様にそれだけ言い残し、仕事に出て行った。

 それからというもの、私はオンラインゲームとアルバイトに勤しむ毎日を送っている。

 アルバイトを始めたのは、自分のお金は自分で稼ぐべきという妙な矜持が私を掴んで離さなかったためだ。

 しかしアルバイトも一筋縄ではいかない、なかなか苦痛だ。今日は炎天下の中、ひたすら通行人数を数えていた。午前中だけとは言え、ぬるい温室育ちのこの身体にはこたえる。

 それでも楽園に居座るためには、艱難辛苦を物ともせずやり抜くしかない。それでこそ、真の楽園を楽しむ事ができるというものだ。

 

 この生活になって1年が過ぎようとしている。

 近頃、ゲームが面白くない。

 勝ちは当たり前、負ければ気落ち。

 プラスかマイナスか、ではない。0か大マイナスか、だ。

 ゲームというのは娯楽であるべきだ。

 しかし今の私にとっては、賞賛を得るためのツールに過ぎない。

 賞賛を得るためには勝たなければならない。勝つ事は義務なのだ。

 私は承認欲求のために生きている。敗北者・楠芽吹には存在価値など無い。

 それなのに、また負ける。

 昨日は2勝の後8連敗。今日は4連敗から2つ勝ち、また4連敗。

 勝率20%はお世辞にも良い成績とは言えない。

 私は何をやっているのだろう。

 ほんの数年前まで、誰にでも認められる勉学で最前線を走っていた。

 なのに、今や部分的にすら認められるか怪しい分野で、泥沼から抜け出せないでいる。

 ここまで堕ちた人に、生きている意味なんてあるのだろうか。

 あぁ、ダメだ。何か飲んで落ち着こう。

 飲料を求めて台所へ行くと、まな板と包丁が出しっ放しになっていた。窓から差し込む光が包丁に反射し、輝きを放っている。

 そしてその輝きはいやに美しく、私は吸い寄せられる様に近づいた。

 包丁を手に取る。やはり、素晴らしい輝きだ。これならよく切れるだろう。

 頭が冴えてくる。霧が晴れるが如く、脳内の悩み事が消えてゆく。

 私は今、どんな顔をしているだろうか。きっと人向けできない酷い顔をしているに違いない。

 でも気にならない。もうすぐ終わるのだから。

 後は、私かそうじゃないか。

 その1点だけの違いなのだから。

 せっかくの人生、何も残るものが無いなんて惨めがすぎる。

 最後くらい、大輪の花を咲かせてもバチは当たらないはずだ。


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