なんと週間ランキングでも25位になっているみたいです。今回も1万文字を平気で超えそうな雰囲気がしたのでキリの良いところで分けて6000文字程度になってます。
2095年4月3日、日曜日。
現在進行形で第一高校の入学式リハーサルが進行している中、私は霧乃家に頼んだ迎えを待っていた。
日曜日の午前中、それも割と早い時間という事もあって人通りはそこまで多くない。それどころかぽつぽつと一高へ登校してくる生徒を除けば人影はほぼ確認できない。
「キャビネットが使えればよかったのですが、やはり身体が不自由ですと日常生活は良くとも移動時の負担は馬鹿に出来ませんね……」
現代にはキャビネット、電車、個型電車などと呼ばれる2~4人乗りの移動手段が存在する。都市型の公共交通機関として重宝されているそれは、リニア式小型車両を用いて自動制御で軌道を走行するのだが、車両の構造上私のような車椅子に乗った人間の移動は想定されていないため利用することが出来ない。都市から都市へはリニアモーターカーがその輸送を担っており、快適で素早いモビリティーサービスを国民に提供している。
前世の記憶で表現するならSFチックな乗り物なので一度体験してみたいと思わない事もないのだが、その程度の欲求のためにわざわざ家出をする事もないしエレカーによる移動で満足しておこう。
前世、という単語で思い出したが新幹線、という輸送技術は魔法の技術躍進に伴う形で100年前より段々と姿を消して久しい。今は鉄道博物館にある動態保存されている展示物くらいしか存在していないだろう。高校生という身分が出来たからなのか、こうして身の回りの環境について考察を深めていくのも存外捨てたものでもない。無論、大昔から技術が発展していく様をこの目で見ているのだから考察も何もあったものではないが、それを口にすると途端にやるせなさを感じてしまいそうになるので思考から除外する。
神は何事も楽しむ性格と、興味があるものを探求する心を持っていなければ、永き時を生きるにつれてその意義と存在理由を失ってしまうだろう。特に私のような超常的な精神を持ち合わせていない俗物的な神には特に当てはまると思う。地球の面白さや複雑なように見えて意外と単純な人間の行動に興味を惹かれなければ今頃この大地は野生動物で溢れかえっているはずだ。
だって、わざわざ地球を滅ぼせる力を持つ人間が生まれると分かっているのに、そうなる
っとと……いけない。あまりにも退屈すぎて思考がおかしな方向へ行ったり来たりしている。迎えの車が来たのか、私の個人端末宛が震え、メッセージが届いたことを知らせてくる。パワーアシスト付きの車椅子とは言え、その速度は人が歩く速度とほぼ変わらない時速4km程度しか出ない。
「さて、午後からはずっと楽しみにしていたお茶会ですし今日の事は忘れてしまいましょう」
端末に送られてきた場所に向けて右の肘掛けに装着してあるスティックを倒すと、と車椅子に内蔵されたモーターがうなりをあげて移動を始める。その後、無事に霧乃家の手配した車に乗せられて、これまた霧乃家が用意した……ことになっている明星宮の都内の持ち家に帰宅した。
「送迎ありがとうございました。明日以降もよろしくお願いしますね」
「はい、ヒマリ様のお役に立つよう神社の方から言い付けられておりますのでお任せを。女性の世話役もこちらに到着予定ですので明日には紹介出来るかと思います」
「ええ、ありがとうございます」
私の送迎を担当する立花、と名乗った40歳くらいの男性は一礼すると霧乃神社の用意した家へと帰宅するようだった。
私用にスロープが至る所に設けられている一軒家へ入り、そのままベッドに身体を横たえる。テレビのチャンネルを変える事と同じように、ナノマテリアルを素にして作った身体から本来の身体へと意識を切り替える。
「おかえりなさいませヒマリ様」
「あぁ、ただいま帰りましたよ巴。お茶会の準備はバッチリですか?」
「はい、当初の予定よりヒマリ様の帰宅が早くなる事は想定しておりましたから問題ございませんよ」
巴は、皆にヒマリ様の帰宅を知らせて参ります、と言うと私の部屋兼明星宮の談話室となっている部屋から退室していった。
やはり巴はしっかりしている。メイド的な役割は紫と清が一番長い年数を熟しているが、あの子達はこういった事前準備は苦手なのかはたまたやりたがらないだけなのか、滅多に担当する事はない。その所為でいつも巴にチクっと一刺しされているのに改めようとしないあたり、あの2人はそういうモノなんだと認識した方が良いと思うのだが、リーダー的立場の巴にはどうにも我慢ならないようでこれまた何度目になるか分からない一刺しをこれからするのだろう。
そうして特にやる事の無くなった私は、どうせならと思い立ち一高の状況──もっと詳しくいえば司波兄妹の様子を探ってみる事にした。
(まあ司波兄の方はベンチで読書、ですよね)
こちらは特に動きはなさそう。小野遥に見張られている事もないし、私の能力が察知されている様子も見受けられない。ふむ……司波達也が読んでいるのは去年の夏ごろにデュッセルドルフで発表された汎用型CADに照準補助装置を取り付けた実験の論文、ね。これが先々の九校戦で披露されてしまう遠因なのだろうか。まあどちらにせよこれで北山雫に例のCADが提供される未来が見えて来た。九校戦と関わって下手に目立つのは避けたい──が九校戦で司波達也が
司波達也が九校戦でエンジニアとして推薦されるのは、司波深雪の行動を抑制出来ないため確定、と言っても良い。私が考えなければならないのはここで司波達也がエンジニアとして活躍する事によって生じる不利益を如何に減らすか、という事になる。司波達也は今年の九校戦でそれはもう多くのやらかしを……ええ、多くのやらかしをやらかしちゃってくれます。CADの調整問題から始まり自己修復術式の使用に終わるまで大小様々な
今夏は目立たない事を優先するか、将来目立たない(こちらは非難の的になる)のを優先するか、私の前には2択の選択肢が用意されている。原作通り進める択はない。後者の事態は司波達也に追い打ちをかける形でダメージを与えるため出来る事なら魔法自体無かった物にしたい。であれば、最悪は魔法を提供してやる等の入れ知恵をする必要がある。こちらは北山雫の父親を経由すれば何とでもなる。魔法協会のインデックス登録も問題なく突っぱねる事が出来る。
(司波達也にはほどほどに活躍してもらいましょう。飛行魔法については……まあシルバーと疑われるくらいであれば実害はありませんし、こちらは無視の方向で行きましょう)
少し先の話にはなってしまうが、方針はある程度決まった。これで少しは未来がより良い物になれば私も安心できるのだが……。
◇◇◇
考え事をして満足した私は普段は使っていないサブマシンガン形状のCADをいじる事にした。
具体的には現在、私と望で開発を進めているCAD『キヴォトス』シリーズのテストをしている。これは私の趣味が前世の記憶を頼りに
私が今使っている短銃のCADも原作通りの物だし、CADに出来ないという道理はない。というか一般的な機能だけで良ければCADとして売り出す事は既に可能なのだ。だけど販売していないのは何故か。
サイオンを纏った弾丸を射出出来る機構、これがかなり難しいのだ。
私と望がやろうとしているのはいわば魔法的素質がある人間であれば扱えるようになる銃火器の作製。この技術が完成すれば少しでもサイオンがある人間は魔法師に対抗する力を得る事が出来る。対魔法師用ハイパワーライフルは通常の銃火器より製造コストが馬鹿にならないほど高い。おまけに弾速が速いため銃弾も従来の物は使用不可ときた。これはただでさえ金食い虫である国防軍にとってみれば頭が痛いだろう。であれば、今も倉庫にダブついているであろう弾薬を有効活用する方法があれば、在庫を抱えている軍も武器メーカーもニッコリいい笑顔になる事間違いない。
これは魔法科高校の入試に落ちてしまった人間の救済措置にもなるし、現在日本に3万人いるとも言われる魔法が行使可能な人材を条件付きではあるが増やす事が出来る。この技術は
だって弾丸発射直前までサイオンの兆候を捉える事は出来ず、気付いた時には己の魔法発動を阻害する量のサイオンを纏った銃弾が飛んできて、魔法師は魔法を使う事なく蜂の巣。もしくは制圧用のゴム弾で無力化が出来てしまう。サイオンの嵐が引き起こす魔法の相剋は、時にキャストジャミングよりも悪質である。これでいて撃った方は魔法を使っている訳でもないため相剋が起きる事はない。
弾丸がサイオンを纏う事が出来るようになる、とはそういう事だ。この技術の優秀な点は魔法式の構築が不要な点、これに尽きる。そもそも魔法教育を受けていない人間に魔法式が理解できるわけもなく、そして魔法師を忌避している人間は魔法の知識を取り入れようとすらしない。
結局戦争は物量が物を言う。どの国も魔法師の育成にこぞって取り組んでいるものの、その数は緩やかな上昇曲線を描いている状況。核戦争が禁忌とされている現代で戦略級魔法師が存在しない小国にとっては、『キヴォトス』シリーズの発売は一筋の光となるだろう。
この『キヴォトス』シリーズ発売の目的は人間主義勢力の大義名分を揺るがす事にある。人間主義の団体の中には魔法師
その結果として人間主義者の勢いは下火となり、司波達也にとっても追い風となる世論の形成が望める。もっとも、全ての計画が上手く運べば、の机上の話ではあるが加熱しすぎている民衆には良い冷や水となるだろう。日本の政治的外交の手腕に期待している。
「技術的難関は超えたようなものだし、販売は灼熱のハロウィン以降が良いでしょうね……」
この技術を発表する用意もしておかなければいけないし、明日の放課後は森崎事件*1もある事だし、頭が痛くなるような事は山積みだ。
「新入生答辞──新入生総代、司波深雪」
(あ、そういえば司波深雪の方を視ていませんでした)
そうこうしているうちに、一高では入学式が始まっていた。新入生総代として彼女の名前が呼ばれる。透き通るような白い肌、バランスの取れた肢体、艶やかな黒髪。少年少女の注目を一身に浴びて、「皆等しく」とか「一丸となって」とか「魔法以外にも」とか第一高校の生徒・職員に対して刺激的なワードを織り交ぜた答辞を読み上げる。
(あぁあぁあぁ~、冷や冷やします~)
もしこの答辞が原因で一科と二科の対立が激化して、万が一深雪が傷つけられたらと思うと背筋がぞわり、と震える。私の知っている通りに話が進む保証はどこにもないのだ。まあ【全知】で常に深雪の周囲を監視してはいるから何かあればすぐに対応できるんだけど、イレギュラーが発生しないとも限らない。用心しておくに越したことはない。
入学式は無事終了したようで、今はIDカードの受け取りをしたり来賓に声を掛けられているようだ。まあ、あの美少女っぷりだし話しかけない男が居たら逆に見てみたいものだ。
◇◇◇
「ヒマリ様、時間になりました」
「んぁ……あぁ、紫ですか。ありがとうございます」
巴にチクリと言われたからかいつもよりテンションが下がっている紫がすやりすやりとうたた寝していた私を揺すって起こしてくれた。
「珍しいですね?」
「あまりに手持ち無沙汰だったので久しぶりに睡眠を取ってみようと思ったのですよ」
私が決まった時間以外で睡眠を取るというのは珍しい。もちろん情報次元の私は現実世界の私がスヤスヤと寝ていても活動出来るけれど、文字通り地に足をつけるために出来る限り活動は現実世界の身体を使うようにしている。今はそんな事は良い。それよりも待ちに待ったお茶会だ!
紫に促される形で四葉家にある私の瞬間移動用に用意された部屋に向かう。そして部屋に置いてあるベルを手に取りちりん、と鳴らせばすぐに扉が開き真夜と葉山が入ってくる。
「ヒマリ様、ようこそお越しくださいました」
「ええ、定期的に連絡は取っているけれど会うのは久しぶりね真夜、葉山も久しぶり」
「お久しぶりに御座います」
扉の傍で控える形となっている葉山に声を掛けると、優雅に一礼を決める。本当、成長したよねぇ……。っと、しみじみとしている場合ではない。真夜に向かって抱っこをせがむ子供のように両手を広げる。
「それではいつも通り移動しますから真夜、こちらにどうぞ」
「あ……あの、毎回それをやるのですか……?」
「真夜が小さな頃からの習慣ですから、いいではないですか。こうして真夜と触れ合う機会が少なくて私は寂しい思いをしているのですよ?」
「ひ、ヒマリ様……しょ、しょうがないですね」
よよよ……と顔を手で覆うと、真夜は少し恥ずかしそうに私の方に近寄ってくるとゆっくりと私の膝の上に座った。本当は私の膝に座る必要も、私に触れている必要もないのだけど真夜が子供の頃はこうして遊んでいた事があった。今でも朝日を膝の上にのせて可愛がることがあるくらい、私は誰かを膝の上に乗せる、という行為に楽しみを見出しているのだ。
たとえ真夜が40歳になっても私は真夜を可愛がるし膝の上に乗せる。ちょうど人肌に飢えていた頃に真夜を膝の上に乗せていたからクセになっているのかもしれない。真夜に迷惑を掛けたり、よほど悪影響があるなら今度ぬいぐるみでも抱きかかえてみようかな?
「さ、葉山も準備は良いですね?」
「はい、お世話になります」
そうして移動先に誰もいないのを確認した私達は能力を発動させて明星宮へと移動した。
ブルーアーカイブの銃火器デザインは秀逸です。
ヒマリ的には「撃っていいのは撃たれる覚悟があるやつだけ」という考えなので、達也に安心安全に過ごしてもらうためなら普通に武器作ります。ただし、ヒマリが製造・販売する訳ではない、というところが重要で、貰うのはライセンス料だけ。得た力をどう使うのかはその人間に委ねるところは神様しているな、と思います。もちろん破滅に繋がるような動きは許しませんがそれ以外だと割と寛容です。
誤字報告、感想助かってます!ありがとうございます!