映画が面白かったので

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エデン組ハングオーバー

 

 コッコー!!コッコー!!コッコー!!

 

「ん、うぇ……」

 

 猛烈に頭が痛い。窓から差し込む日の光が痛いし、はらわたをねじってひっくり返したみたいに気持ち悪い。あと、全身痛くて嫌になる。

 

「あぁ、床で寝てたか……おい、ここはどこだ」

 

 一瞬で思考が切り替わる。推定二日酔いのダメお兄さんはどこかへ、ここに居るのはエリート警備隊員だ。仕事柄、荒事には頻繁に巻き込まれる。流石に誘拐されるなんてものは未経験だが、もしかしたらこれが最初の経験になるのかもしれない。

 

 頭の中に響く刺すような痛みをよそへ押しやり、いくらか冷静になって部屋を、見回して、見回して……

 

「え待って、何このひっどい部屋……」

 

 見覚えが無い。あとついでに昨晩からの記憶もない。かなり豪華な、否、豪華だっただろう部屋だ。服とかシーツとか空き缶とか、とにかくいろんなものが部屋中に散乱している。でっかいテレビが壁に突き刺さってるし、バーは酒まみれでひどい有様だし……

 

「え?え?なにあの、アレ」

 

 部屋の一角に、緑の、テカテカした、ぬるぬるの巨大な何かがある。

 うーん関わりたくない。絶対ロクなもんじゃない。いや、うん、でもなぁ。

 

「すぅぅぅぅぅぅっ。俺は警備部隊エリート隊員でエデンでも屈指の実力者。危険物を調べるのも、仕事の、一環。大丈夫、大丈夫。ふっぅぅぅ……」

 

 意を決して、近づく。緑のテカテカヌルヌルは、だいたい腰くらいの高さで、ちょうどシングルベッドくらいの大きさ。臭いとかはあんまりない。むしろ洗剤みたいないいにおいがしなくもないような。

 あー、やっぱ触んないとわかんないかぁ!!!いやだ!!!

 

 突っ込むかぁ……

 

「ええいままよ!!!」

 

 禁止毒物で体を形成したスライムとかじゃありませんように!!

 

 …………中は、意外にもあったかい。ヌルヌルであることには変わりないけど、ちょうど風呂くらいの間隔で、気持ちいと言えるほど。ま、ぶっちゃけただのスライムだ。

 

「ん、中になんかある」

 

 突っ込んだ手が何かに当たる。固くて、大きい何か。

 待って怖い。あの箱の中身は何だろな的なノリで怖い。

 

「まさかまさかまさか……」

 

 最悪誰かの亡骸があることを視野に入れて、更に探る。

 手探りに中の何かの輪郭をなぞって、なんか柔らかいところを見つけた。ぐにぐにして、気持ち悪い。やばい、やめたくなってきた。けどやめない。なんか寧ろ面白くなってきたし、おもいきって握ってみちゃったりして?

 

「ぎゃああああああああああああああ!!!!!」

 

「うわああああああああああああああ!!!びっくりしたああああ!!!!」

 

「誰ですか僕のㄘんㄘん握りつぶしたのは!!!ーーーーーーーーーーー(すっごく流暢な英語の罵倒)!!!」

 

「え、先生?オリバー先生?なんで全裸?なんでスライムの中から??さすがに俺でも心臓止まるかと思ったわマジで」

 

「おや、ローレン君。いい朝ですね」

 

「この部屋見て第一声それマ?てか俺先生の握りしめちゃったてこと?う、おうぇ。最悪すぎ」

 

 あかん。まだ手に感触がある。誰が好きで友達のブツを握んないといけないんだ。ほんっとに無理。死にそう。

 

「あー、先生。色々聞きたいことはあるんだけど、とりあえず服着ない?」

 

「ローレン君も、その頭の上をどうにかした方がいいですよ」

 

 ん?頭の上?

 

「俺の頭の上がどうしたって……」

 

 そういえば頭痛いし、ずっと重かったような気もしなくもないというか。恐る恐る触ってみる。これまたなんだかツルツルした感触。固くて、ヒレとしっぽがあって、あとなんかドロドロして……

 

「ホオジロさんも、すっかり懐いたようで、よかったです」

 

 うん、ミニサイズのサメががっつり俺の頭に嚙みついてるね。

 

「ぎゃああああああああああああ!!!起きた時からずっと頭痛いのはこれかよ!!!いて、痛い痛い痛い痛い!!ふっざけんな先生笑ってないではがすの手伝ってよこのままじゃおれサメに頭嚙み千切られて死ぬってお願いだから助けーーーー」

 

 ◇

 

 頭の中に刺すように響く痛み(物理)を何とかして、血塗れの俺とスライム塗れの先生は、ひっどい部屋で取り敢えずコーヒーを飲んでいた。

 ちなみにサメ、確かパタ姉のホオジロさん、だったか。ホオジロさんは、なぜか部屋にあった巨大水槽で悠々自適に泳いでいる。俺あいつ嫌いだ。

 

「で、先生。この状況、どういうことかわかる?俺マジでなんも覚えて無いんだけど」

 

「うーん、僕もあんまり定かじゃないけど。昨日、皆で集まったのは覚えてる?」

 

「皆って、みんな?」

 

「ええ。私と、レオス君と、レイン君と、ローレン君と、アクシア君。全員がそれぞれ長期の仕事終わりで、たまたま時間があったからパーっと騒ごうって集まって……そこから……?」

 

「あーはいはい思い出してきたわ。一か月の遠征任務の後で、ろくに食ってなかったんだ。クソ腹減ってたっけ。先生から連絡来て、ホテルの高級バイキング来たんだわ」

 

「ホテルはEDENS of UTOPIA。バカみたいな名前ですが、エデン最高のホテルの一つです。いやあ、食事は最高でしたねえ」

 

「あーやばい。俺本物の肉の味思い出してきた。高級だとしても、もう合成肉じゃ満足できねえわ……」

 

 肉の話はともかく。

 先生の話で少しだけ思い出した。

 

 みんなそれなりにめかしこんで集合して、たらふくメシを食ったんだ。もちろん酒も。確か、時間で言うと七時頃は食事中だった気がする。

 

「ローレン君。いつ食事を終わらせたかは?」

 

「覚えてない。ちなみにそのあとの事もさっぱり」

 

「困ったな。私も何も思い出せないんです。食事を終えたタイミングも、そのあと何をしたのかも、どうしてスライムの中で全裸で寝ていたのかも、何一つ」

 

「調子にのって飲みすぎた、ってことか……」

 

「おそらく。私も記憶が無くなるなんて初めてです」

 

「あー最悪だ……」

 

 多分ここはホテルの一室だ。最高級ホテルの、最高級の部屋。それを酔っぱらってこんなメチャクチャにするなんて、ほんと、最悪。

 そういえば、他のみんなはどうしたのか。

 アクシアは……あいつが酔って暴れまわるのは想像できない。一人だけ先に帰って、今頃優雅に朝食とかじゃないかな。そうだ。そうであってくれ。

 パタ姉は……ホオジロさんもいるし多分近くにいるんだろうな。なんだかんだ頼りになるし、一回連絡してみてもいいかも。

 博士のことは……正直考えたくない。口では飲みすぎたかも、なんて言ったが、俺の中での最有力犯人候補は博士だ。レオス・ヴィンセントは、ああいう席でも平気で薬物を盛る人間だ。『ちょうどいいタイミングでしたし、君たちにも実験を手伝ってもらおうと思いましてねぇ^^』とか。くっそ普通にやってそうだな……

 

「まあまあ。"The worst is not, so long as we can say, This is the worst"。最悪だ、と言えるならば、それはまだ最悪ではない。幸いにも私たち、金ならありますし、部屋くらい何とかなりますよ」

 

「ははは、今のめっちゃ教授っぽい」

 

「ぽい、ではなく本物の教授ですから」

 

 確かに。今のところ、明確に被害だと言えるのはこの部屋の惨状だけだ。俺の怪我も、先生のスライムも、まあたいしたことではない。部屋さえどうにかなるなら、大丈夫だ。

 

「さすが先生。俺も冷静になったよ」

 

「それはよかった。なら、今後の事についてーー」

 

「あ待って。安心したらトイレ行きたくなっちゃって」

 

「そうですか。どうぞ、いってらっしゃい」

 

「はは、いってきまーす」

 

 いやー、一時はどうなるかと思ったけど、何とかなりそうでよかった。まあ、博士がいないことは不安でしかないけど、きっと俺の悪い妄想だろう。いくらマッドなサイエンティストでも、あの最高の食事を汚すようなことはしないかーはっはっは。

 

 そんなことを考えながらトイレのドアを開ける。うわでっかいトイレ。例に漏れずひどい有様だな……………

 

「縺翫?繧医≧遘√?蜊泌鴨閠??よ乖譎ゥ縺ッ譛ャ蠖薙↓蜉ゥ縺九▲縺溘h」

 

(ニュルニュルニュルニュルニュル)

 

「っすぅぅぅぅぅぅぅ」

 

 閉める。

 ……今なんか居なかったか?一瞬だけど、二十回くらい目があったような。あと触手っぽいにゅるにゅる音がしたような気が。

 

 ーーいやいやまさかね。そんなSAN値チェックもののバケモノがトイレに居るわけないよね。

 

 ピロン!

 

「うっわびっくりしたぁ……何、スマホの通知?どこに入ってるっけなぁ」

 

 ……あった。内ポケットだ。さっきの通知は…なんだただのニュースか。やばい連絡とかあったらどうしようかと思ったわ。

 ニュースの内容を見る。ええと何々、昨日の夜、超級危険外来生物収容施設に侵入者があって、収容されていた生物が一体だけ行方不明と。

 

「すぅぅぅぅぅぅぅ」

 

 開ける。

 

「繧?≠縲√>縺?悃縺?縺ュ」

 

(ニュルニュルニュルニュルニュルギョロギョロギョロギョロギョロ)

 

 閉める。

 

「ーーーーーーーー」

 

 わあああああああああああああああああああああああああああ?????

 

「先生先生先生先生!!!」

 

「? そんなに慌ててどうしたんですか?」

 

「トイレに、トイレに、えっぐいのが……」

 

「はあ。誰か流さなかったんですね。そのくらい自分でどうにかしたらどうですか、まったく……」

 

 と、先生がトイレに向かった。間違いなく勘違いして、流されていないと思っているんだろうな。発狂しないと良いけど。

 

「ぎゃああああああああああああ!!!」

 

 あ、帰って来た。

 

「え、何なのアレ!?僕ら、外なる神でも召喚しちゃったんですか???いったい、何が????!!!」

 

 そっと、ニュースアプリの画面を見せる。

 先生はものすごい剣幕で画面をスクロールして、顔を青くして、顔を赤くして、顔を…あれは何色だ?

 とにかくえっぐい顔色になった。

 

「…まさか、昨日酔って僕らが収容施設に侵入して、ヤバい生き物を盗んで帰って来た、と?」

 

「……そうじゃない、って言える証拠があったらいいっすね」

 

「まじんがぁぁぁ……」

 

 これは明らかな犯罪行為。どうせ計画性も何もあったものじゃないだろうし、俺達がやったとバレるのは時間の問題だ。そうなれば、人生終了。テロかなんかでしょっぴかれて一生を刑務所の中で過ごすことになる。そんなのはごめんだけど、ぶっちゃけどうしようもないというか……

 

「と、とりあえず、アクシアに、電話、してみようかなーははは」

 

 あいつなら、あいつなら今の俺達のことを助けてくれるかもしれん。仮にも俺たちは有名人なわけだし、色々コネとか使って助かるかも。頼む出てくれ……

 

 待つ。

 

 待つ。

 

 待つ。

 

「出ねえ……」

 

 救いの手は無い、と。終わった……

 

「アクシア君も、もしかしたら大変なことになってるのかも、しれませんね……」

 

「そう、かも。あー、一体どうすれば……」

 

「わあああああああああああああああああ!!!!」

 

「うわ、なになになに今度はなに!?」

 

「今の、もしかしてレオス君の声では!?」

 

「た、確かに。あの人、どこにいるんだ」

 

 だだだだだ、と廊下を駆ける慌ただしい足音。どこに居たのかは知らないが、どんな状況でも騒がしい人だ。

 

「大変ですよ皆さん!!私の、まめねこがぁぁぁぁ!!」

 

「ぶっふぉおあ、レオス君、そ、それ……」

 

「ふっく、おいまじか。博士、落ち着いてくれ。まめねこは一旦置いておいて、冷静に、冷静に……」

 

 ドタバタと現れたレオス・ヴィンセント。パンツに白衣だけ着た変態的なファッション。たぶん、いつも一緒のまめねこがいないことに動揺しているんだろうが…………ああダメだ。あんなの見たら、無理……

 

「これが冷静でいられますか!うっわ何ですかこのひっどい部屋は」

 

「あー、まめねこは後で一緒に探してやるから。ぶくっ……一先ず下を見るんだ。博士」

 

「したぁ?何故わざわざこのきったない部屋の床なんて見なきゃならないんですか?」

 

 あー無理。笑いをこらえるのに精いっぱいで、喋んのもキツイ。先生なんてさっきまでの顔色はどこへ、今は凄く楽しそうに笑いをこらえている。最悪だけど、最高だ。

 

「むう。いったい下に何が……え、え、あ、待って、いやああああああああ!!!!」

 

「ぐううううう、もう耐えられない。レオス君よく似合ってますよ、その()()()()()()()()。ぶっくはははははははははは!!!」

 

「ごめん、博士。俺も、無理…ぎゃははははははははははは!!」

 

「なんで、私、こんな、良い体みたいに…笑い事じゃないですよぉ!!!」

 

「やめて、揺らさないでぇぇぇぇ、ふっぐはははははは!!」

 

「ドンマイw、レオス君wwww」

 

 研究者らしくない、がっちりした長身の体には、それはもう見事なおっぱいが付いていた。顔も声も男のままなのに、胸だけやたらセクシーに揺れている。そのミスマッチがあんまりにも面白い。普段から愉快な人ではあるけど、さすがにこれは反則だろうが。

 

 ◇

 

 まあ、そんなこんなでえっぐい目覚めをした俺達だったわけだけど、そのあとも大変で大変で。アクシアは消えるし、パタ姉は何も知らずにホテルを楽しんでるし、ホオジロさんは俺の頭を齧るし、最終的にはエデン中を巻き込んだ大騒ぎになったりもした。警備部隊として何度も修羅場を経験したけど、ここまでヤバいのは初めてだった。まあ、最終的には全部解決したし、ヨシ!ということで。

 

 正直最悪の二日酔いだ。暫く酒は飲みたくない。

 

 ーーー嘘ついた。かなり楽しかったわ。

 




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