強化人間部隊ヴェスパーの9人目   作:ねむい

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 ノイン

 ルビコニアンの少女。当時16歳。
 元グリッド職工の父と採掘師の母を親に持っていた。ルビコン解放戦線に加わった両親の死を間接的に目撃していた。




CHAPTER 1
1話 ノイン


 

 

 

 ISB-2262、惑星“RUBICON(ルビコン)-3”

 

 そこは、かつて新資源コーラルの湧出する豊かな星であり、同時にコーラルによって引き起こされた星系規模災害《アイビスの火》の元凶であった。

 

 アイビスの火によって焼き尽くされたと思われていたルビコン3から、また新たなコーラル反応が確認されると、星外企業は次々とルビコンへ侵入。特に、多くの軍需企業を傘下に持つ二大グループ《アーキバス》《ベイラム》の二社は、確認されたコーラル反応の指し示す先、すなわち新資源へと至る道を探すための企業間戦争へと発展していったのだった。

 

 ……星に根付く先住民ルビコニアンの意志をも巻き込んだ、破壊と破滅の戦争へ。

 

 

 

 

 

 

 

『敵影確認! あれは……アーキバスのACか?』

『撃て! ヴェスパーじゃないならやりようはある!!』

 

 コーラル探索の足掛かり、その邪魔となる巨大要塞《壁》の近郊をパトロールしていた戦闘機械マッスルトレーサーの小隊へと素早く接近してくる人型の機動兵器《アーマード・コア(AC)》。

 ダークブルーのカラーリングに鮮やかな赤のグローを添え、その様相は遠くから獲物を捉え羽ばたく隼。

 

 アーキバスの系列企業シュナイダー製フレームに身を包み、レーザーハンドガンやパルスガンのようなEN兵装で固めているその機体は、同じくアーキバス所属のACだった。

 

『は、速いっ……!』

『狼狽えるな! ()()()()()()()()()!!』

 

 前線のマッスルトレーサー(MT)からのミサイル攻撃を容易く回避し、高速で接近。通りがけにハンドガンを二発速射して一機を撃破すると、続けてパルスガンを連射し、グレネードキャノンを構えていたMTを更に一機排除する。

 

 灰被りて我等あり、とは、ルビコニアン達が発する合言葉だ。彼らの師父ドルマヤンの旗印に集う原住民の抵抗戦力が掲げる言葉である。

 

 ───それが()()()は嫌いだった。

 

 ハンガーに吊り下げたレーザーショットガンをチャージし、光条を鋭く突き出して刺突し、三機目を破壊する。

 

 ───彼女は、ルビコニアンだった。

 

 星外企業BAWSの生産する四脚型重MTが、その背部に搭載する9連バズーカを乱射する。ノインはそれらの合間を、まるで縫うように回避しながら近付き、四脚MTに盾を構えさせる。

 

 それを勢いのままに蹴りつける(ブーストチャージ)と、一瞬怯んだ隙を狙って横に急加速し、回り込んで溜めていたレーザーハンドガンを五連射する。

 それで倒れる相手では無いのは彼女も良く知っていた。追撃のためにパルスガンを撃ちつつ上昇。上からエネルギーの散弾を降らせ、機動力と安定能力を削ぎ、チャンスを待つ。

 

 被弾を抑えられなくなっていた四脚MTは、やぶれかぶれの9連バズーカを空に向けて放つが、大した狙いのない砲弾は空を切り無力化され、結局はEN散弾によるACS(姿勢制御システム)への負荷が、四脚MTに備わるACSの負荷限界を大幅に越え、敵は制御不能に陥る。

 

 ノインのACが振りかざす青い円月の斬撃……それがMTパイロットの見た最後の光景だった。

 

 

 

 

 

 ───大人は何も考えずに銃を取る。

 

 パトロール小隊を無力化したノインは、遮断していた通信回線を開く。

 

『──聞こえますか、ノイン』

 

『はい、聞こえます、第8隊長ペイター』

 

『良い返事です。少なくとも、その辺りのMTには負けない程度の腕前、ということでしょうか』

 

『いいね、君。スウィンバーン君が手塩にかけただけある』

 

『はっ、その通りであります』

 

 ペイターと、それに続けるように口を挟むのは、同じくヴェスパーの第5隊長ホーキンス。

 二人ともアーキバス所属ACパイロットの中では上位に匹敵する実力者だ。

 

 そんな彼らがノインの動向を監視していた目的。それは彼女が彼らの属する強化人間部隊ヴェスパーへの入隊試験を受けるに値するかどうか、その測定にあった。

 

『これなら、スネイルの御眼鏡にもかなうかな』

 

『はっ、私もそう考えています。 ……よかったですね、ノイン。君も我々の仲間入りが叶うかもしれませんよ』

 

『まだ()()()()()()ってだけさ、ペイター君。 …ノイン君も、気概は感じるけど死んだら意味が無いからね。気をつけて当たるように、いいね?』

 

『はい、第8隊長ペイター、第5隊長ホーキンス』

 

『……うーん、堅苦しいねえ』

 

『はっ。ではノイン、帰投してください』

 

『了解』

 

 言われるがまま、ノインは帰路へとつく。

 ACのシステムが通常モードへと移行され、事前に設定された移動ルートに沿って機体が移動を開始した。

 

 ───大人は、私の両親の死を《名誉》だとした。

 

 ───灰と煤にまみれて燃えるMTが《名誉》だとすれば、この星は英雄ばかりなのだろうか?

 

 ───そんなはずは無い。奴らは、嘘をついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スウィンバーン。()()()()()()から送られてきた件の女はどうなりましたか?』

 

『ええ、スネイル閣下。ノインは第8世代型の強化人間として優れた能力を発揮しています。登用に充分な忠誠心も持ち合わせております』

 

『ふむ。最終的には私が判断しますが、もしそのノインとやらが他の受験者より優れているようであれば、第8隊長の下につかせなさい。暫くは私が指示を下します』

 

『はい、スネイル閣下。ではそのように』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ACから降りた私を迎えたのは、二人の男だった。一人はまだ若く、だが年齢にそぐわない冷静さも備えている。もう一人は壮年の、熟練の腕を匂わせるパイロット。

 それぞれペイターと、ホーキンスだった。

 

「おかえり、ノイン君。最初に帰ってきたね、これは期待値も高そうだ」

 

「はっ、私もそう考えます。ノイン、試験に合格したら第2隊長殿より私が貴方の指揮を執るようにと仰せつかっています。まずは合否発表を待つように」

 

「わかりました」

 

 私は淡々と返事をし、自分に割り当てられた部屋に閉じ篭もる。先程から言われている()()とは、私のようなアーキバス再教育センターからファクトリーに、ファクトリーからヴェスパー候補生に選ばれた人達の受ける、ヴェスパー隊登用試験。

 

 300人以上の素養の持ち主の中から一人だけが選ばれるという、実に300倍の倍率を持つこの試験に、私は受かる必要があった。

 理由は、言いたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 夜。私は夢を見ていた。

 

 何人もの同業を蹴落とし、頂点へ立つ私の姿。しかしその更に上を往く星々が輝くのだ。

 

 フロイト、スネイル、オキーフ、ラスティ、ホーキンス、メーテルリンク、スウィンバーン、ペイター。

 

 名を挙げた8人の列強。彼らこそ、アーキバスの実働戦力を代表する最精鋭。私は、その9人目としてコーラル争奪戦にアサインされなければならないのだ。

 悔しいが、今の私では誰の足にも手が届きそうにない。力をつけ、彼らのひとりとして数えられた時、私は私の人生の第一歩目を歩めるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 ──ノイン。

 

 ──はっ。

 

 ──貴様を我がヴェスパーの、第9隊長に任命する。いまよりナンバー・ヴェスパーナインを貸与します。()()はこれから、V.IX ノインと名乗りなさい。

 

 ──………はっ。

 

 








 V.IX ノイン
 ヴェスパーに加わった少女。17歳。
 アーキバス再教育センターに収容されたルビコニアンであり、見込みありとしてファクトリーに移送。アーキバスの思想に“共感”し、アーキバス強化人間部隊ヴェスパーの一人に数えられるまでになった。
 シュナイダー製軽量二脚“NACHTREIHER/E”シリーズを愛用。極めて自らの生命を軽視するような戦闘スタイルで敵対者を翻弄する。

 機体データ(ヴェスパー隊データベース預かり)

 AC NAME: WANDERFALKE
 R-ARM HI-18: GU-A2 範囲型パルスガン
 L-ARM VP-66LH レーザーハンドガン
 R-BACK WUERGER/66E レーザーショットガン
 L-BACK Vvc-770LB レーザーブレード

 HEAD KASUAR/44Z
 CORE NACHTREIHER/40E
 ARMS NACHTREIHER/46E
 LEGS NACHTREIHER/42E

 BOOSTER ALULA/21E 瞬発力特化型
 FCS FCS-G2/P05 中距離特化型
 GENERATOR VP-20D 出力特化型

 ヴェスパーへの入隊試験にあたり貸与されたAC。機体はそのまま合格者に寄与される予定であったもののため、現在はノインが保有。

 軽量二脚。
 空戦よりも、地上戦主体の高機動戦闘を重視しており、クイックブーストを織り交ぜた撹乱戦闘では、敵の追随を許さないほどの機動力を発揮する。EN武装が主体となっており、両手それぞれの弾数バランスが良く、適切な運用をしさえすれば、より高いダメージ効率を目指せる。


 V.V ホーキンス
 アーキバス指折りの精鋭の一人。52歳。
 第7世代型強化人間であり、初めてのコーラル代替技術を用いた手術に耐える精神力はあったが、人の生き死にを多く見届けており、その過程で仲間や同僚を数多く失っていた。任務柄一緒になることも多いペイター、同じ世代の強化人間であるスウィンバーンの二人を可愛がっている。
 試験監督責任者としてペイターと立ち会っていた。

 V.VIII ペイター
 アーキバス指折りの精鋭の一人。23歳。
 現行最新の第10世代型強化人間。そのため精神面や人格が非常に安定しており、どのような相手にも変わらず接する誠実さを窺わせる。ヴェスパー隊の全員を尊敬しているが、特に第3隊長オキーフと第5隊長ホーキンスの事を親のように慕っている。
 また、試験官を経てノイン直属の上司となる。

 
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